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33 楽しい街歩き
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様々な商店が集まり街一番の賑わいをみせる通り。到着するなり早速馬車を降りた僕に、ザックが近寄ってくる。
「なんだか副団長に怪しまれていませんか?」
「え! マジで?」
それは大変困る。ちらりと副団長の様子を伺うと、ちょうど部下に馬を預けていた彼とバッチリ目があってしまった。慌てて目を逸らす。
「怪しまれてる?」
「妙に見られている気が。とにかく気をつけてくださいね」
なんのアドバイスもよこさないザックはあまり役に立たない。だが彼の言う通り警戒しておくに越したことはないだろう。ただでさえ今日の僕はエドワードのお世話もしないといけないのに。ギルにまで目を配らないといけないなんて。
「単に僕が可愛いから見ているという可能性は?」
「その可能性もなくはないですが。ご自分から言い出すあたりさすがリア様です」
「どうも」
よくわからんが褒められた。
「どこか行きたいところはあるか?」
寄ってきたエドワードを見て、ザックが後ろにさがる。本日のザックは実に護衛騎士らしい動きをしている。普段は事務仕事しかしてないのに。まぁその仕事は僕が押し付けたものだけどさ。
全力でエドワードのご機嫌取りをすると決めた僕は、エドワードの左腕に自分の腕を絡める。
「エドワードが行きたいところでいいよ」
愛想よく笑ってやれば「そうか」と楽しそうな声が返ってきた。事前の計画通り、ヴィクターとギルは少し離れた位置にいる。これなら僕の顔をまじまじ見つめられる可能性はない。勝った。
勝利を確信した僕はすっかり街歩きを楽しんでいた。どうやらエドワードは僕を着飾るのが好きらしい。装飾品や服なんかに目移りしては「これも似合うんじゃないか?」と楽しそうだ。
まさか王太子殿下が街を普通に彷徨いているとは思うまい。気さくに接客してくる店員はちらちらと僕の方ばかり見てくる。気持ちはわかるよ。僕最高に可愛いからね。だがその度にエドワードがちょっと不機嫌になるから勘弁してほしい。独占欲どうなってんだ。
「そろそろお昼にしませんか」
少し離れていたスコットが声をかけてくる。どうやら店を予約しているらしい。生粋のお坊ちゃんにしては気が利くな。いや予約したのはスコットか?
そんなどうでもいいことを考えるほどに僕は油断していた。
だがエドワードに案内された店を認識した瞬間、盛大に頰が引き攣った。ここはまずい。
「あの、エドワード。別の店にしない?」
ちょいと裾を引っ張れば、エドワードが怪訝な顔をする。
「なぜ?」
「なんかここ人多そうだよ」
「予約してあるから大丈夫だ」
にこりと微笑むエドワード。こいつはなにもわかっていない。
よりにもよって彼が選んだのは僕の行きつけの店だった。ここはまずい。なにがまずいかって僕が頻繁に男を連れ込んでいる店なのだ。
あまりに使い勝手のいい店だからこっそり使っていた。まだスコットにはバレていない店。
ちょっとお高めで個室がある。店員の口も固い。僕の事情をよくわかっているから余計なことは言わない。間違っても「いつもありがとうございます」なんて言わない。何度訪れても、隣にいる男が毎回違っていても初めましてみたいな感じで接してくれる使い勝手のよろしい店だ。
大丈夫か? 大丈夫かもしれない。
いつも通り初めましてみたいな接客をしてくれればバレないかもしれない。あとは僕が余計なことを言わなければ。
ごくりと息を呑んだ僕は決意した。上手いこと乗り切ってやる。
「いらっしゃいませ」
何度も顔を見た店員は、思った通りの接客をしてくれた。さすが高級店。わかっているな。おかげでエドワードに怪しまれることなく入店することに成功した。
案の定、個室を予約していたらしいエドワードは慣れたように僕をエスコートしてくれる。さすが王子様。手慣れているな。どうやら料理も頼んでいたらしい。至れり尽くせりだ。
スコットとザック、その他の近衛騎士たちは外で待機だ。隣に控えの間があるからな。そちらに移動したようだ。
エドワードとふたりきりになった僕は、楽しく食事を進めた。エドワードも上機嫌だし経過は良好。このまま何事もなく乗り切れそうだ。
酒はいらないというエドワードに付き合って、僕も飲まないでおく。思えばこうやってゆっくり食事するのは久しぶりかもしれない。最近のエドワードはなんだか不機嫌だったし。
なんで不機嫌だったんだっけ? よくわかんない。
「リア」
突然エドワードに呼ばれた。ん? と首を傾げると、向かいに座るエドワードが優しく微笑んでいる。
「美味しいか?」
「うん。美味しいよ」
「そうか」
満足そうに頷いたエドワード。なんの確認だよ。だがエドワードはなんだか楽しそうだ。それなら別にいいけど。
「……エドワードは楽しい?」
「もちろん」
ちょっと気になって訊ねてみる。くすりと笑ったエドワードは、じっと僕を見つめてくる。甘くとろけるような優しい目線に、なんだか落ち着きをなくした僕は目を瞬く。
なんかこう、改めて向き合うと照れくさいな?
「なんだか副団長に怪しまれていませんか?」
「え! マジで?」
それは大変困る。ちらりと副団長の様子を伺うと、ちょうど部下に馬を預けていた彼とバッチリ目があってしまった。慌てて目を逸らす。
「怪しまれてる?」
「妙に見られている気が。とにかく気をつけてくださいね」
なんのアドバイスもよこさないザックはあまり役に立たない。だが彼の言う通り警戒しておくに越したことはないだろう。ただでさえ今日の僕はエドワードのお世話もしないといけないのに。ギルにまで目を配らないといけないなんて。
「単に僕が可愛いから見ているという可能性は?」
「その可能性もなくはないですが。ご自分から言い出すあたりさすがリア様です」
「どうも」
よくわからんが褒められた。
「どこか行きたいところはあるか?」
寄ってきたエドワードを見て、ザックが後ろにさがる。本日のザックは実に護衛騎士らしい動きをしている。普段は事務仕事しかしてないのに。まぁその仕事は僕が押し付けたものだけどさ。
全力でエドワードのご機嫌取りをすると決めた僕は、エドワードの左腕に自分の腕を絡める。
「エドワードが行きたいところでいいよ」
愛想よく笑ってやれば「そうか」と楽しそうな声が返ってきた。事前の計画通り、ヴィクターとギルは少し離れた位置にいる。これなら僕の顔をまじまじ見つめられる可能性はない。勝った。
勝利を確信した僕はすっかり街歩きを楽しんでいた。どうやらエドワードは僕を着飾るのが好きらしい。装飾品や服なんかに目移りしては「これも似合うんじゃないか?」と楽しそうだ。
まさか王太子殿下が街を普通に彷徨いているとは思うまい。気さくに接客してくる店員はちらちらと僕の方ばかり見てくる。気持ちはわかるよ。僕最高に可愛いからね。だがその度にエドワードがちょっと不機嫌になるから勘弁してほしい。独占欲どうなってんだ。
「そろそろお昼にしませんか」
少し離れていたスコットが声をかけてくる。どうやら店を予約しているらしい。生粋のお坊ちゃんにしては気が利くな。いや予約したのはスコットか?
そんなどうでもいいことを考えるほどに僕は油断していた。
だがエドワードに案内された店を認識した瞬間、盛大に頰が引き攣った。ここはまずい。
「あの、エドワード。別の店にしない?」
ちょいと裾を引っ張れば、エドワードが怪訝な顔をする。
「なぜ?」
「なんかここ人多そうだよ」
「予約してあるから大丈夫だ」
にこりと微笑むエドワード。こいつはなにもわかっていない。
よりにもよって彼が選んだのは僕の行きつけの店だった。ここはまずい。なにがまずいかって僕が頻繁に男を連れ込んでいる店なのだ。
あまりに使い勝手のいい店だからこっそり使っていた。まだスコットにはバレていない店。
ちょっとお高めで個室がある。店員の口も固い。僕の事情をよくわかっているから余計なことは言わない。間違っても「いつもありがとうございます」なんて言わない。何度訪れても、隣にいる男が毎回違っていても初めましてみたいな感じで接してくれる使い勝手のよろしい店だ。
大丈夫か? 大丈夫かもしれない。
いつも通り初めましてみたいな接客をしてくれればバレないかもしれない。あとは僕が余計なことを言わなければ。
ごくりと息を呑んだ僕は決意した。上手いこと乗り切ってやる。
「いらっしゃいませ」
何度も顔を見た店員は、思った通りの接客をしてくれた。さすが高級店。わかっているな。おかげでエドワードに怪しまれることなく入店することに成功した。
案の定、個室を予約していたらしいエドワードは慣れたように僕をエスコートしてくれる。さすが王子様。手慣れているな。どうやら料理も頼んでいたらしい。至れり尽くせりだ。
スコットとザック、その他の近衛騎士たちは外で待機だ。隣に控えの間があるからな。そちらに移動したようだ。
エドワードとふたりきりになった僕は、楽しく食事を進めた。エドワードも上機嫌だし経過は良好。このまま何事もなく乗り切れそうだ。
酒はいらないというエドワードに付き合って、僕も飲まないでおく。思えばこうやってゆっくり食事するのは久しぶりかもしれない。最近のエドワードはなんだか不機嫌だったし。
なんで不機嫌だったんだっけ? よくわかんない。
「リア」
突然エドワードに呼ばれた。ん? と首を傾げると、向かいに座るエドワードが優しく微笑んでいる。
「美味しいか?」
「うん。美味しいよ」
「そうか」
満足そうに頷いたエドワード。なんの確認だよ。だがエドワードはなんだか楽しそうだ。それなら別にいいけど。
「……エドワードは楽しい?」
「もちろん」
ちょっと気になって訊ねてみる。くすりと笑ったエドワードは、じっと僕を見つめてくる。甘くとろけるような優しい目線に、なんだか落ち着きをなくした僕は目を瞬く。
なんかこう、改めて向き合うと照れくさいな?
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