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50 誓約書
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ところで大事なことがある。
「本当に僕を捨てたりしない? 嘘ついてない?」
「何度も言わせるな。そんなことは絶対にない」
王宮へと向かうお忍び用の馬車の中にて。隣に座ったエドワードに何度も確認するが、その度に彼は同じ答えをよこしてくる。うーむ。
「それ訊くの何回目ですか」
向かいのスコットが呆れ顔をしている。だってこれはものすごく大事なことなのだ。
「じゃあなんか書いて」
「何か、とは?」
首を捻るエドワードに誓約書を書けと迫る。
「なんでそんなものを」
「書けないのか? じゃあやっぱり捨てないって言葉は嘘なのか?」
「嘘ではないが」
眉を寄せるエドワードは、「わかった」と呟く。
「それでリアが満足なら何枚でも書いてやる」
「一枚でいいよ。そんなに何枚もいらない」
真面目に返せば、スコットが口元を押さえる。どうやら笑いを堪えているらしい。今のどこに笑うところがあった。
「僕を捨てないってちゃんと書いてね。仮に捨てるとしても僕のその後の生活は保証してね」
「だから捨てはしない」
帰ったら書いてやると腕を組んだエドワードは、「おまえこそ」と僕を凝視してくる。
「私から逃げたら許さないぞ」
なにやら目がマジである。嫌な流れだな。とりあえずへらっと笑っておく。
「リア?」
すっと視線を逸らせば、エドワードがみるみる不機嫌になる。そのままぐいっと顎を掬われて、肩が跳ねる。
「リア」
「え、えぇっとぉ。僕、嘘は付けない性格だから」
「これまで散々嘘ついておいて、よく言えますね」
スコットは黙っとけ。睨み付けようとしたのも束の間。エドワードが険しい顔になる。
「痛! いたた、ちょ、ごめんなさい」
ぐいっと片手で頰を挟むように遠慮なく掴まれて悲鳴を上げる。「冗談だって! ごめん!」と謝り倒せばようやく解放された。なんて奴だ。僕の可愛い顔に乱暴するなんて。
頰をさすって俯く。ガタガタと揺れる乗り心地の悪い馬車は、まっすぐ王宮へと向かっていた。
「途中で降ろしてくれない?」
「は?」
エドワードの顔が怖い。すぐにでも言葉を付け足さないと今にもキレそうだ。
「いや、僕も家に帰りたいから。一度王宮に行ってから帰宅するのは二度手間だよ」
「おまえの家は王宮だろ」
違うが?
「部屋を用意してやっただろ」
それはそうだが、あれはお泊まり用の部屋だ。僕の自宅ではない。僕の家は安くて手狭なあそこだけだ。まだちゃんと家賃も払っているんだぞ。
「荷物は後で騎士にでも運ばせる。おまえは何も心配するな」
運ばせる? 引越せってことか? 勝手に決めんな。だがここで食ってかかっても時間を消費するだけだ。僕の家はそろそろだ。今すぐにでも降ろしてもらわないといけない。とりあえずその点はスルーしておこう。
「わかった。でもとりあえず一回家に帰る」
「……わかった」
渋々頷いたエドワードであったが、直後に予想外の一言を発した。
「私も付き合おう」
「……ん?」
この王子様は何を言い出すんだ?
「……うち狭いよ?」
「構わない」
「エドワードびっくりして心臓止まっちゃうかも」
「流石にそんなことはないから安心しろ」
僕の家に行きたいと我儘言い始めたエドワードは決して折れなかった。正直、面倒くさい。だが頑なに拒否するとあらぬ疑いをかけられそう。
別にエドワードに見られて困るものなんてない。スコットが好き勝手に出入りしているくらいである。心配があるとすればマジで僕の家の狭さに驚いたエドワードが早急に引っ越せとか無茶言いそうなことくらいか。
たいしたもてなしもできない旨を言い含めるが、エドワードは「構わない」というだけですっかり僕の家に寄ることが決定済みになっていた。
そうして目立たないところに馬車をとめて僕の家に向かう。騎士団の上着を脱いで軽装になったスコットとザックが同行してくる。そういやザックと顔を合わせるのは久しぶりだな。小走りに寄っていって「元気?」と訊ねれば、「かろうじて」となんとも頼りない答えがあった。どうした?
「リア様のせいで俺まで怒られたんですけど」
「どんまい」
「一瞬ではありますがクビも覚悟しました」
「転職先? 紹介してあげよっか?」
「だからクビにはなってませんから。てか誰のせいだと思って」
だから悪かったって言ってるだろ。お詫びに新しい職くらいなら紹介してやれる。僕はお断りされてしまったが、ザックであればダニエルも雇ってくれると思う。腕っぷしがいい門番やら何やらを探しているようだったし。
「まぁ、いざとなったら僕に任せなよ」
「リア様に頼るとろくなことにならない気がしますね」
疲れた顔で緩く首を振ったザックは相変わらず失礼だった。心配せずとも人脈だけはある。それも金持ちの男ばかりだ。いざという時はどんと任せて欲しい。
「本当に僕を捨てたりしない? 嘘ついてない?」
「何度も言わせるな。そんなことは絶対にない」
王宮へと向かうお忍び用の馬車の中にて。隣に座ったエドワードに何度も確認するが、その度に彼は同じ答えをよこしてくる。うーむ。
「それ訊くの何回目ですか」
向かいのスコットが呆れ顔をしている。だってこれはものすごく大事なことなのだ。
「じゃあなんか書いて」
「何か、とは?」
首を捻るエドワードに誓約書を書けと迫る。
「なんでそんなものを」
「書けないのか? じゃあやっぱり捨てないって言葉は嘘なのか?」
「嘘ではないが」
眉を寄せるエドワードは、「わかった」と呟く。
「それでリアが満足なら何枚でも書いてやる」
「一枚でいいよ。そんなに何枚もいらない」
真面目に返せば、スコットが口元を押さえる。どうやら笑いを堪えているらしい。今のどこに笑うところがあった。
「僕を捨てないってちゃんと書いてね。仮に捨てるとしても僕のその後の生活は保証してね」
「だから捨てはしない」
帰ったら書いてやると腕を組んだエドワードは、「おまえこそ」と僕を凝視してくる。
「私から逃げたら許さないぞ」
なにやら目がマジである。嫌な流れだな。とりあえずへらっと笑っておく。
「リア?」
すっと視線を逸らせば、エドワードがみるみる不機嫌になる。そのままぐいっと顎を掬われて、肩が跳ねる。
「リア」
「え、えぇっとぉ。僕、嘘は付けない性格だから」
「これまで散々嘘ついておいて、よく言えますね」
スコットは黙っとけ。睨み付けようとしたのも束の間。エドワードが険しい顔になる。
「痛! いたた、ちょ、ごめんなさい」
ぐいっと片手で頰を挟むように遠慮なく掴まれて悲鳴を上げる。「冗談だって! ごめん!」と謝り倒せばようやく解放された。なんて奴だ。僕の可愛い顔に乱暴するなんて。
頰をさすって俯く。ガタガタと揺れる乗り心地の悪い馬車は、まっすぐ王宮へと向かっていた。
「途中で降ろしてくれない?」
「は?」
エドワードの顔が怖い。すぐにでも言葉を付け足さないと今にもキレそうだ。
「いや、僕も家に帰りたいから。一度王宮に行ってから帰宅するのは二度手間だよ」
「おまえの家は王宮だろ」
違うが?
「部屋を用意してやっただろ」
それはそうだが、あれはお泊まり用の部屋だ。僕の自宅ではない。僕の家は安くて手狭なあそこだけだ。まだちゃんと家賃も払っているんだぞ。
「荷物は後で騎士にでも運ばせる。おまえは何も心配するな」
運ばせる? 引越せってことか? 勝手に決めんな。だがここで食ってかかっても時間を消費するだけだ。僕の家はそろそろだ。今すぐにでも降ろしてもらわないといけない。とりあえずその点はスルーしておこう。
「わかった。でもとりあえず一回家に帰る」
「……わかった」
渋々頷いたエドワードであったが、直後に予想外の一言を発した。
「私も付き合おう」
「……ん?」
この王子様は何を言い出すんだ?
「……うち狭いよ?」
「構わない」
「エドワードびっくりして心臓止まっちゃうかも」
「流石にそんなことはないから安心しろ」
僕の家に行きたいと我儘言い始めたエドワードは決して折れなかった。正直、面倒くさい。だが頑なに拒否するとあらぬ疑いをかけられそう。
別にエドワードに見られて困るものなんてない。スコットが好き勝手に出入りしているくらいである。心配があるとすればマジで僕の家の狭さに驚いたエドワードが早急に引っ越せとか無茶言いそうなことくらいか。
たいしたもてなしもできない旨を言い含めるが、エドワードは「構わない」というだけですっかり僕の家に寄ることが決定済みになっていた。
そうして目立たないところに馬車をとめて僕の家に向かう。騎士団の上着を脱いで軽装になったスコットとザックが同行してくる。そういやザックと顔を合わせるのは久しぶりだな。小走りに寄っていって「元気?」と訊ねれば、「かろうじて」となんとも頼りない答えがあった。どうした?
「リア様のせいで俺まで怒られたんですけど」
「どんまい」
「一瞬ではありますがクビも覚悟しました」
「転職先? 紹介してあげよっか?」
「だからクビにはなってませんから。てか誰のせいだと思って」
だから悪かったって言ってるだろ。お詫びに新しい職くらいなら紹介してやれる。僕はお断りされてしまったが、ザックであればダニエルも雇ってくれると思う。腕っぷしがいい門番やら何やらを探しているようだったし。
「まぁ、いざとなったら僕に任せなよ」
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