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番外編
ふたりのその後3
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「エドワード! 仕事終わったよ!」
「はやいな」
まだ午前中だぞ、と首を傾げるエドワードはなにやらバタバタしている。どうやら仕事が忙しいらしい。王太子も大変だな。なにをやっているのかはまったくわからないが、とにかく忙しそう。
「大丈夫? 僕も手伝おうか?」
「いや、気持ちだけもらっておこう」
謙虚なエドワードは僕の申し出を辞退してしまう。そんな僕に気を使う必要ないのに。仕事くらいいくらでも手伝ってやるぞ?
「リア様に任せると二度手間ですからね」
急に口を開いたと思ったら、僕に対する嫌味を吐き捨てるスコット。なんだあいつ。相変わらず失礼な奴だ。
「でも僕、副団長の手伝い頑張ってるよ。今日も仕事してきた」
胸を張って成果を報告すれば、エドワードとスコットが揃ってザックに視線を向ける。一瞬だけ怯んだザックであったが、すぐに「頑張ると言ってもリア様ですから」とよくわからない主張をし始めた。どういう意味だよ。
「なあ、リア」
「なに? エドワード」
仕事の手を止めて、エドワードがこちらを覗き込んでくる。とりあえず可愛く笑っておいてやる。だがエドワードは微妙な表情を見せた。
「私が働けと言った手前ちょっとあれなんだが」
「ん?」
「副団長が困っているからやめてやれ?」
「なにを?」
眉を顰めたエドワードは「おまえに仕事は早かったな」ととんでもないことを言い始める。抗議しようとするも、ザックがうんうん頷いており、スコットも「そうですね。副団長が気の毒なのでやめましょうよ、このシステム」と言い出す始末である。どういうことだよ。
「でも働かないとエドワードがお金くれない」
「私が悪かった。人には向き不向きがあったな」
突然の謝罪に戸惑う僕。
よくわからんが、働かなくて良くなったらしい。それ自体はラッキーだが、僕貶されてないか? 気のせい?
とりあえず場の空気を変えようと可愛くへへっと笑えば、エドワードはどこか遠くを見つめていた。「おまえ、今までどうやって生きてきたんだ?」と前触れなく僕の過去を詮索してこようとするエドワード。どうって、普通に生きてきたよ。
「あ、でも僕ね。実家に仕送りしてるんだ。偉いだろ」
「……その金はどこから?」
変な顔をするエドワード。ここはちゃんと親孝行してて偉いと誉める場面だろ。なんだその疑いの目は。だが金の出所なんてひとつしかない。訊くまでもないと思うが、一応お答えしておいてやる。
「なんか色々な男からもらったやつ」
「……それは、ご存知なのか? おまえのご両親は」
「あー。知らないと思うよ? 僕、酒場で働いてるって設定になってるから」
「設定て」
でも少し前までの僕は酒場に入り浸って金持ちの男を探していた。もはや酒場が職場だと言っても過言ではない。だからまったくの嘘ではないと思う。それに最近はやってない。浮気だなんだとエドワードが騒ぐからな。大丈夫、と宣言するがエドワードは苦い顔だ。
「リアのご両親にも挨拶しないとな」
「えー? なんか恋人っぽいね」
「ぽいじゃなくて。恋人だろう?」
いつの間にか側に寄って来ていたエドワードが、すっと僕の顎を掬う。青い瞳を見上げて、なんだか照れ臭くなってくる。いつの間にかスコットとザックの姿が消えている。気を遣って退出したらしい。
「でもいきなり彼氏できたって言ったらビックリしちゃうよ。しかも相手が王太子殿下とか」
驚愕し過ぎて心臓止まったらどうしよう。息子が彼氏連れてくるのも予想外だと思うけど、相手が王族とかもはや信じてもらえない可能性すらある。
だがエドワードは柔らかく微笑む。
「大丈夫。ちゃんとわかってもらえるまで説明するさ」
「えー?」
なんか必死なエドワードが珍しくて顔がにやけてしまう。首に手を回してキスをねだれば、エドワードが小さく笑って応じてくれる。
「エドワードは僕のどこが好き?」
「全部」
なにそののろけた答え。
ニマニマしながら「えー?」と笑えば、エドワードが再びキスを落としてくる。
「リアは? 私のどこが好きなんだ。金以外で」
「ん。顔」
「それだけか?」
「優しいとこも好きだよ。あ、でも怒ると怖いから怒らないでね」
「おまえが余計なことをしなければな」
余計なことってなんだよ。僕がいつやったよ、そんなこと。
ムスッと抗議すれば、エドワードが噴き出した。
「リアはいつ見ても可愛いな」
「当然」
なんせ王太子殿下を捕まえた傾国なので。可愛いに決まっている。今更なにを言い出すんだか。
「じゃあ私は仕事があるから。大人しくしておけよ?」
「はーい」
入念に「いらんことをするな」と僕に言いつけたエドワードは仕事へと戻るらしい。だからいらんことってなんだよ。僕がなにをするって言うんだ。
「エドワードの相手も大変だな」
やれやれと肩をすくめてやれば、今まさに扉をくぐろうとしていたエドワードが勢いよく振り返った。
「それは私のセリフだ」
「なんでだよ」
※※※
ここで完結となります。
番外編までお付き合い頂きありがとうございました!
「はやいな」
まだ午前中だぞ、と首を傾げるエドワードはなにやらバタバタしている。どうやら仕事が忙しいらしい。王太子も大変だな。なにをやっているのかはまったくわからないが、とにかく忙しそう。
「大丈夫? 僕も手伝おうか?」
「いや、気持ちだけもらっておこう」
謙虚なエドワードは僕の申し出を辞退してしまう。そんな僕に気を使う必要ないのに。仕事くらいいくらでも手伝ってやるぞ?
「リア様に任せると二度手間ですからね」
急に口を開いたと思ったら、僕に対する嫌味を吐き捨てるスコット。なんだあいつ。相変わらず失礼な奴だ。
「でも僕、副団長の手伝い頑張ってるよ。今日も仕事してきた」
胸を張って成果を報告すれば、エドワードとスコットが揃ってザックに視線を向ける。一瞬だけ怯んだザックであったが、すぐに「頑張ると言ってもリア様ですから」とよくわからない主張をし始めた。どういう意味だよ。
「なあ、リア」
「なに? エドワード」
仕事の手を止めて、エドワードがこちらを覗き込んでくる。とりあえず可愛く笑っておいてやる。だがエドワードは微妙な表情を見せた。
「私が働けと言った手前ちょっとあれなんだが」
「ん?」
「副団長が困っているからやめてやれ?」
「なにを?」
眉を顰めたエドワードは「おまえに仕事は早かったな」ととんでもないことを言い始める。抗議しようとするも、ザックがうんうん頷いており、スコットも「そうですね。副団長が気の毒なのでやめましょうよ、このシステム」と言い出す始末である。どういうことだよ。
「でも働かないとエドワードがお金くれない」
「私が悪かった。人には向き不向きがあったな」
突然の謝罪に戸惑う僕。
よくわからんが、働かなくて良くなったらしい。それ自体はラッキーだが、僕貶されてないか? 気のせい?
とりあえず場の空気を変えようと可愛くへへっと笑えば、エドワードはどこか遠くを見つめていた。「おまえ、今までどうやって生きてきたんだ?」と前触れなく僕の過去を詮索してこようとするエドワード。どうって、普通に生きてきたよ。
「あ、でも僕ね。実家に仕送りしてるんだ。偉いだろ」
「……その金はどこから?」
変な顔をするエドワード。ここはちゃんと親孝行してて偉いと誉める場面だろ。なんだその疑いの目は。だが金の出所なんてひとつしかない。訊くまでもないと思うが、一応お答えしておいてやる。
「なんか色々な男からもらったやつ」
「……それは、ご存知なのか? おまえのご両親は」
「あー。知らないと思うよ? 僕、酒場で働いてるって設定になってるから」
「設定て」
でも少し前までの僕は酒場に入り浸って金持ちの男を探していた。もはや酒場が職場だと言っても過言ではない。だからまったくの嘘ではないと思う。それに最近はやってない。浮気だなんだとエドワードが騒ぐからな。大丈夫、と宣言するがエドワードは苦い顔だ。
「リアのご両親にも挨拶しないとな」
「えー? なんか恋人っぽいね」
「ぽいじゃなくて。恋人だろう?」
いつの間にか側に寄って来ていたエドワードが、すっと僕の顎を掬う。青い瞳を見上げて、なんだか照れ臭くなってくる。いつの間にかスコットとザックの姿が消えている。気を遣って退出したらしい。
「でもいきなり彼氏できたって言ったらビックリしちゃうよ。しかも相手が王太子殿下とか」
驚愕し過ぎて心臓止まったらどうしよう。息子が彼氏連れてくるのも予想外だと思うけど、相手が王族とかもはや信じてもらえない可能性すらある。
だがエドワードは柔らかく微笑む。
「大丈夫。ちゃんとわかってもらえるまで説明するさ」
「えー?」
なんか必死なエドワードが珍しくて顔がにやけてしまう。首に手を回してキスをねだれば、エドワードが小さく笑って応じてくれる。
「エドワードは僕のどこが好き?」
「全部」
なにそののろけた答え。
ニマニマしながら「えー?」と笑えば、エドワードが再びキスを落としてくる。
「リアは? 私のどこが好きなんだ。金以外で」
「ん。顔」
「それだけか?」
「優しいとこも好きだよ。あ、でも怒ると怖いから怒らないでね」
「おまえが余計なことをしなければな」
余計なことってなんだよ。僕がいつやったよ、そんなこと。
ムスッと抗議すれば、エドワードが噴き出した。
「リアはいつ見ても可愛いな」
「当然」
なんせ王太子殿下を捕まえた傾国なので。可愛いに決まっている。今更なにを言い出すんだか。
「じゃあ私は仕事があるから。大人しくしておけよ?」
「はーい」
入念に「いらんことをするな」と僕に言いつけたエドワードは仕事へと戻るらしい。だからいらんことってなんだよ。僕がなにをするって言うんだ。
「エドワードの相手も大変だな」
やれやれと肩をすくめてやれば、今まさに扉をくぐろうとしていたエドワードが勢いよく振り返った。
「それは私のセリフだ」
「なんでだよ」
※※※
ここで完結となります。
番外編までお付き合い頂きありがとうございました!
応援ありがとうございます!
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リア様可愛すぎ好きです。
ありがとうございます!楽しんでもらえて嬉しいです!
リアちゃんありがとう〜。
楽しかった。
リアちゃんの勢いに合わせた早い投稿でとても楽しめました。ありがとうございました!
楽しんで頂けてよかったです!主人公気に入ってもらえて嬉しいです。こちらこそ最後までお付き合い頂きありがとうございました!
完結おめでとうございます。
最初から最後までずっと面白かったです!
楽しんで頂けて本当によかったです!とても嬉しいです!最後までお付き合い頂きありがとうございました!