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第二章
3 集会(sideギル)
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「神子様。今日はお会いできて光栄です。私、ひとつ聞いてほしい悩みがありまして!」
進行役の女性に指名されて、会場内に座っていたひとりの女性が立ち上がる。色めき立つ場内に、弾むような女性の声が響いた。それはお気に入りの役者と対面した時のようなはしゃぎ様である。
「実は今お付き合いをしている方がいまして。その方と結婚すべきかちょっと迷っているんです。私、どうすればいいと思いますか?」
なんだその質問は。
それは果たしてリア様に相談して解決するものなのか?
すっかりおとなしくなったベンは、顔の前で硬く手を組んで俯いてしまっている。
舞台上のリア様に視線が集中する中、彼は「うーん」となんとも頼りない呻き声を発した後、唐突に発言者の女性を指さして勢いよくこう宣言した。
「大丈夫! なるようになるよ!」
瞬間、会場内から割れんばかりの拍手が湧き起こる。
いや、なんだこれ。
思わず額を押さえる私は、この妙な状況を帰宅後どのように殿下へと説明するかで頭を悩ませていた。
一体なにが大丈夫なのか。なにも解決していない悩みに、けれども発言者の女性は「ありがとうございます!」と元気に頭を下げている。
いや、なんだこれ。
本当に意味がわからない。その後も続々と会場内から質問の手が上がるが、リア様はその全てに「大丈夫!」「いいと思うよ!」「どうにかなるよ!」と無責任な言葉を投げ続けている。
通常であれば野次が飛んでもおかしくはない無責任な回答なのだが、なぜか女性たちの間からは黄色い歓声と勢いのある拍手が巻き起こる。
なんだこれ。
もはや何度目かわからない疑問を繰り返して、盛大にため息を吐いた。
※※※
そうして終始理解に苦しむ奇妙な集会が終わるのと同時に、私とベンは神子様のもとへと案内された。控え室として使用されているらしい小部屋に入室するなり、ソファーでだらだらと寝そべっていた神子様が慌てて起き上がるのを確認した。
「……え」
「どうも。神子様。これはまた私の目の届かないところで随分と余計なことをしていらっしゃるようで」
引き攣る頬をなんとか堪えて、ぎこちない笑みのようなものを浮かべれば、きちんとソファーに座り直した神子様。もといリア様が「なんでここに?」と上目遣いで弱々しく問いかけてきた。
「それはこちらのセリフです。最近は随分おとなしいと思っておりましたが」
ちらりと室内に視線をやって、堪えきれないため息を吐き出した。
一体誰が、裏でこんな怪しげな集会を開催していると思うだろうか。おそらく殿下の耳にも入っていないことだろう。
というかザックはなにをしている。
リア様のことは護衛である彼に任せっぱなしである。なにを野放しに好き放題やらせているのか。
「ザックは?」
背後にいたベンに確認したちょうどその時。扉が開いて当のザックが呑気に入ってきたのも一瞬。私たちの顔を確認するなり「げ!」と声を発した彼は、大慌てでリア様の元へと駆け寄っていく。
「ど、どうしたんですか。副団長」
「だからそれはこちらのセリフです。ザック!」
思わず一喝すれば、リア様が首をすくめる。
けれどもマイペースなリア様である。すぐにこほこほとわざとらしい咳払いをして「病気の妹さんがいるの?」と何事もなかったかのように問いかけてきた。
どうやら入り口で一悶着あった彼女たちから聞いたらしい。「副団長も大変だねぇ」と、しみじみ同情のような目を向けられた。それにザックが慌てて「副団長には妹なんていませんよ」と耳打ちする。
「妹がいない? 存在しない妹が存在するかのように思い込んでいるってこと? えっと。頭大丈夫?」
「ちょっ、リア様!」
急いでリア様の口を塞ぐザックは、真っ青であった。ベンも頑なに口を引き結んでいる。
静まり返る室内にて、ザックが女性たちに席を外すよう告げている。そうして部外者のいなくなった空間にて、私はどうしたものかと思案する。
これ、殿下になんと報告すればいいのか。
あなたの恋人が街中で妙な集会を開いて大勢の女性を集めていました、とでも? 無理だ。怪訝な顔で聞き返されるのが目に見えている。
立ち尽くす私の言いたいことを察したのか。はたまた何も考えていないのか。リア様が緩く首を傾げた。その動きに合わせて、色素の薄い黒髪がさらりと揺れている。それをゆったりとした仕草で耳にかけてもてあそぶリア様は、真っ直ぐに私を見据えた。
「とりあえず。エドワードには内緒にしててね?」
無理に決まっているだろう。
にこにこと口止めしてくるリア様の背後では、ザックが天を仰いでいる。ザックは真面目な男なのだが、ここ最近はリア様に非常に良いように利用されている。
「リア様」
「うん?」
「この集まりは一体どういう目的で?」
馬鹿げた集会ではあるが、何か害があるようにも思えない。てっきり怪しい品物でも売りつけているのかと思っていたが、そういう雰囲気でもない。みな一様にリア様と無意味に見える会話を交わして帰って行った。
なにかこう。リア様なりに目的を持って真剣にやっていることなのかもしれない。参加者の女性もみな楽しそうであった。
そんな私の期待を知ってか知らずか。
リア様がニヤリと口角を上げた。「目的なんて決まってるじゃん」と得意な表情だ。
「みんなにちやほやされたいから」
「……あ、はい。左様で」
どうしよう。
まったくもってくだらない理由である。
さすがリア様。予想外のことをする。
進行役の女性に指名されて、会場内に座っていたひとりの女性が立ち上がる。色めき立つ場内に、弾むような女性の声が響いた。それはお気に入りの役者と対面した時のようなはしゃぎ様である。
「実は今お付き合いをしている方がいまして。その方と結婚すべきかちょっと迷っているんです。私、どうすればいいと思いますか?」
なんだその質問は。
それは果たしてリア様に相談して解決するものなのか?
すっかりおとなしくなったベンは、顔の前で硬く手を組んで俯いてしまっている。
舞台上のリア様に視線が集中する中、彼は「うーん」となんとも頼りない呻き声を発した後、唐突に発言者の女性を指さして勢いよくこう宣言した。
「大丈夫! なるようになるよ!」
瞬間、会場内から割れんばかりの拍手が湧き起こる。
いや、なんだこれ。
思わず額を押さえる私は、この妙な状況を帰宅後どのように殿下へと説明するかで頭を悩ませていた。
一体なにが大丈夫なのか。なにも解決していない悩みに、けれども発言者の女性は「ありがとうございます!」と元気に頭を下げている。
いや、なんだこれ。
本当に意味がわからない。その後も続々と会場内から質問の手が上がるが、リア様はその全てに「大丈夫!」「いいと思うよ!」「どうにかなるよ!」と無責任な言葉を投げ続けている。
通常であれば野次が飛んでもおかしくはない無責任な回答なのだが、なぜか女性たちの間からは黄色い歓声と勢いのある拍手が巻き起こる。
なんだこれ。
もはや何度目かわからない疑問を繰り返して、盛大にため息を吐いた。
※※※
そうして終始理解に苦しむ奇妙な集会が終わるのと同時に、私とベンは神子様のもとへと案内された。控え室として使用されているらしい小部屋に入室するなり、ソファーでだらだらと寝そべっていた神子様が慌てて起き上がるのを確認した。
「……え」
「どうも。神子様。これはまた私の目の届かないところで随分と余計なことをしていらっしゃるようで」
引き攣る頬をなんとか堪えて、ぎこちない笑みのようなものを浮かべれば、きちんとソファーに座り直した神子様。もといリア様が「なんでここに?」と上目遣いで弱々しく問いかけてきた。
「それはこちらのセリフです。最近は随分おとなしいと思っておりましたが」
ちらりと室内に視線をやって、堪えきれないため息を吐き出した。
一体誰が、裏でこんな怪しげな集会を開催していると思うだろうか。おそらく殿下の耳にも入っていないことだろう。
というかザックはなにをしている。
リア様のことは護衛である彼に任せっぱなしである。なにを野放しに好き放題やらせているのか。
「ザックは?」
背後にいたベンに確認したちょうどその時。扉が開いて当のザックが呑気に入ってきたのも一瞬。私たちの顔を確認するなり「げ!」と声を発した彼は、大慌てでリア様の元へと駆け寄っていく。
「ど、どうしたんですか。副団長」
「だからそれはこちらのセリフです。ザック!」
思わず一喝すれば、リア様が首をすくめる。
けれどもマイペースなリア様である。すぐにこほこほとわざとらしい咳払いをして「病気の妹さんがいるの?」と何事もなかったかのように問いかけてきた。
どうやら入り口で一悶着あった彼女たちから聞いたらしい。「副団長も大変だねぇ」と、しみじみ同情のような目を向けられた。それにザックが慌てて「副団長には妹なんていませんよ」と耳打ちする。
「妹がいない? 存在しない妹が存在するかのように思い込んでいるってこと? えっと。頭大丈夫?」
「ちょっ、リア様!」
急いでリア様の口を塞ぐザックは、真っ青であった。ベンも頑なに口を引き結んでいる。
静まり返る室内にて、ザックが女性たちに席を外すよう告げている。そうして部外者のいなくなった空間にて、私はどうしたものかと思案する。
これ、殿下になんと報告すればいいのか。
あなたの恋人が街中で妙な集会を開いて大勢の女性を集めていました、とでも? 無理だ。怪訝な顔で聞き返されるのが目に見えている。
立ち尽くす私の言いたいことを察したのか。はたまた何も考えていないのか。リア様が緩く首を傾げた。その動きに合わせて、色素の薄い黒髪がさらりと揺れている。それをゆったりとした仕草で耳にかけてもてあそぶリア様は、真っ直ぐに私を見据えた。
「とりあえず。エドワードには内緒にしててね?」
無理に決まっているだろう。
にこにこと口止めしてくるリア様の背後では、ザックが天を仰いでいる。ザックは真面目な男なのだが、ここ最近はリア様に非常に良いように利用されている。
「リア様」
「うん?」
「この集まりは一体どういう目的で?」
馬鹿げた集会ではあるが、何か害があるようにも思えない。てっきり怪しい品物でも売りつけているのかと思っていたが、そういう雰囲気でもない。みな一様にリア様と無意味に見える会話を交わして帰って行った。
なにかこう。リア様なりに目的を持って真剣にやっていることなのかもしれない。参加者の女性もみな楽しそうであった。
そんな私の期待を知ってか知らずか。
リア様がニヤリと口角を上げた。「目的なんて決まってるじゃん」と得意な表情だ。
「みんなにちやほやされたいから」
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まったくもってくだらない理由である。
さすがリア様。予想外のことをする。
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