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第二章
17 あの時の
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「なにをしたんだ」
「まだなにも」
「まだ? これからやるつもりか」
僕を捕まえたエドワードは、険しい表情で問い詰めてくる。こんな可愛い美男子を捕まえてよくそんな顔できるな。やはり浮気か?
疑いの目を向けていれば、エドワードが「なんだ?」と僕の手を引いて室内に入る。ちょうどいいので室内を物色してみる。怪しい人影はなし。うろうろする僕を眺めて、エドワードが「どうした、リア」と隣に並んでくる。
「僕はエドワードのことが心配で、その」
嘘は言っていない。エドワードが浮気していないか心配なのは事実。できる限り悲しい顔を作ってエドワードにもたれてみる。それが効いたのか。エドワードがちょっと動揺した。
「そんな心配させるようなことはしていないが」
面食らった顔でもごもごするエドワードは、僕の頬に手を添えると瞳を覗き込むようにして視線を合わせてくる。
「心配してくれたのか? ありがとう」
「えへへ」
にこっと笑ってエドワードの首に手をまわす。そのまま頬にキスしてやれば、エドワードがくすりと笑う。
なんだかいい雰囲気になったのだが、邪魔をするようなスコットの咳払いでエドワードが真顔に戻ってしまった。
するりと僕から離れたエドワードは「出かけるんじゃなかったのか?」と言いながら書類を手に取る。
「今日はいいかな。それよりエドワード」
「ん?」
「今日はなにするの?」
「見ての通り仕事だが」
「そっか」
エドワードが嘘をついているようには見えない。難しそうな書類を前に格闘する彼は、実際に仕事をしていた。しばらくその様子を眺めてみるが、気が散ると言われてしまう。
仕方がないので廊下に出れば、当然のような顔でスコットも付いてくる。
「浮気してないのかな?」
「してないですよ。殿下はそこまで暇ではありません」
律儀に返答してくるスコットは「もう満足ですか?」と僕の背中を押してエドワードの部屋から遠ざけようとする。
これ以上粘ってもエドワードがボロを出すとは思えないので、素直に退散しておく。
浮気していないのだとすれば、あの冷たい態度はなんだろうか。難しい顔で考え込む僕に、スコットが「あれはリア様が妙なことをするから」と苦言を呈してきた。妙なことってなんだよ。
スコットを引き連れてふらふら廊下を歩いていた僕は、その足でなんとなく外に向かう。
「ねー、スコット」
半歩後ろを歩くスコットを勢いよく振り返れば、「ちゃんと前を見て」と促された。仕方がないので足を止める。王宮内は広い。エドワードと僕が普段過ごしている王族たちの住まいとは別に政府組織も揃っている。僕が前に王宮事務官として働いていた建物もある。
そこまで考えて、ルースは元気だろうかと思い出した。ルースは、僕が事務官やっていた時の同僚だ。僕の代わりに仕事をしてくれていた恩人である。
僕が経理部から騎士団勤務に変わったことで、なんか曖昧な感じで別れていた。というか、僕って事務官の仕事どうなったんだ。
スコットに聞けば「とっくに退職したことになっていますけど」との答え。スコットが手配して上手いことやってくれていたらしい。
「みんなに退職の挨拶とかしてないね」
「しなくていいですよ。ややこしいことになりますから」
そうかな。でもそうなると僕って経理部の人たちにどう思われているのだろうか。突然騎士団へ移動を命じられて、その後割とすぐに退職したことになっているはず。なんか逃げたと思われていそうだな。
「経理部行ってみる?」
「絶対にダメです」
強めに否定されて「冗談だよ」と笑っておく。そんなガチで否定しなくても。
再び王宮内をふらふらする僕。ちょっと隙を見て経理部方面へと足を向ければ、すかさずスコットが軌道修正してくる。なんて手強い。
僕にピタリとくっついて離れないスコットであったが、チャンスが訪れた。騎士と思われる男が駆け寄ってきてスコットになにやら耳打ちした。真面目な顔をするスコットは、僕にちらりと目をやって「リア様」と固い声を発する。
「ん?」
「ちょっと急用が。彼とここで大人しくしていてください」
スコットが呼びに来た青年の背中を軽く押す。それに応じて青年が「近衛騎士団所属のカイルです」とにこやかに名乗った。
僕とカイルを残して走り去るスコット。「なにがあったの?」とカイルに尋ねてみるが微笑で誤魔化されてしまった。
おとなしく待てと言われたが、こんな何もない場所で時間を潰すのは無理。素早く判断した僕は、気にせず歩き出す。ちょっと驚いたような顔をしたカイルが「どちらへ?」と首を傾げた。
「ちょっと散歩」
「では私もお供いたします」
「……なんか、どっかで会ったことある?」
近衛騎士団所属だからどこかですれ違ったのだろうか。いかにもな優男に見えるカイルは、僕の問いかけに目を瞬いた。
清潔感あふれる出立ちで、どことなく上品な佇まい。うーんと考えていればカイルが苦笑した。
「えぇ、一度だけ」
「やっぱり?」
「はい。その」
なぜか言いにくそうに言葉を切ったカイルは、ちょっぴり困ったように笑った。
「前にリア様が殿下のもとからお逃げになった際に。声をかけさせていただきました」
「……あ」
あの時のナンパ男か。
あれは僕がエドワードの愛人をやめてどこかへ逃げようとした時だ。声をかけてきた優男の世話になろうとついて行った宿屋にエドワードがいてあっさり捕まった。その時の優男がカイルだったらしい。
「すごい僕。ちゃんと覚えてた」
「光栄です」
エドワードの罠にまんまと嵌って悔しかったから覚えていたのかも。
「でも君のナンパは下手くそだったよ」
ウインクをしてやれば、カイルが「初めてだったんですよ」と照れたように俯いた。
「まだなにも」
「まだ? これからやるつもりか」
僕を捕まえたエドワードは、険しい表情で問い詰めてくる。こんな可愛い美男子を捕まえてよくそんな顔できるな。やはり浮気か?
疑いの目を向けていれば、エドワードが「なんだ?」と僕の手を引いて室内に入る。ちょうどいいので室内を物色してみる。怪しい人影はなし。うろうろする僕を眺めて、エドワードが「どうした、リア」と隣に並んでくる。
「僕はエドワードのことが心配で、その」
嘘は言っていない。エドワードが浮気していないか心配なのは事実。できる限り悲しい顔を作ってエドワードにもたれてみる。それが効いたのか。エドワードがちょっと動揺した。
「そんな心配させるようなことはしていないが」
面食らった顔でもごもごするエドワードは、僕の頬に手を添えると瞳を覗き込むようにして視線を合わせてくる。
「心配してくれたのか? ありがとう」
「えへへ」
にこっと笑ってエドワードの首に手をまわす。そのまま頬にキスしてやれば、エドワードがくすりと笑う。
なんだかいい雰囲気になったのだが、邪魔をするようなスコットの咳払いでエドワードが真顔に戻ってしまった。
するりと僕から離れたエドワードは「出かけるんじゃなかったのか?」と言いながら書類を手に取る。
「今日はいいかな。それよりエドワード」
「ん?」
「今日はなにするの?」
「見ての通り仕事だが」
「そっか」
エドワードが嘘をついているようには見えない。難しそうな書類を前に格闘する彼は、実際に仕事をしていた。しばらくその様子を眺めてみるが、気が散ると言われてしまう。
仕方がないので廊下に出れば、当然のような顔でスコットも付いてくる。
「浮気してないのかな?」
「してないですよ。殿下はそこまで暇ではありません」
律儀に返答してくるスコットは「もう満足ですか?」と僕の背中を押してエドワードの部屋から遠ざけようとする。
これ以上粘ってもエドワードがボロを出すとは思えないので、素直に退散しておく。
浮気していないのだとすれば、あの冷たい態度はなんだろうか。難しい顔で考え込む僕に、スコットが「あれはリア様が妙なことをするから」と苦言を呈してきた。妙なことってなんだよ。
スコットを引き連れてふらふら廊下を歩いていた僕は、その足でなんとなく外に向かう。
「ねー、スコット」
半歩後ろを歩くスコットを勢いよく振り返れば、「ちゃんと前を見て」と促された。仕方がないので足を止める。王宮内は広い。エドワードと僕が普段過ごしている王族たちの住まいとは別に政府組織も揃っている。僕が前に王宮事務官として働いていた建物もある。
そこまで考えて、ルースは元気だろうかと思い出した。ルースは、僕が事務官やっていた時の同僚だ。僕の代わりに仕事をしてくれていた恩人である。
僕が経理部から騎士団勤務に変わったことで、なんか曖昧な感じで別れていた。というか、僕って事務官の仕事どうなったんだ。
スコットに聞けば「とっくに退職したことになっていますけど」との答え。スコットが手配して上手いことやってくれていたらしい。
「みんなに退職の挨拶とかしてないね」
「しなくていいですよ。ややこしいことになりますから」
そうかな。でもそうなると僕って経理部の人たちにどう思われているのだろうか。突然騎士団へ移動を命じられて、その後割とすぐに退職したことになっているはず。なんか逃げたと思われていそうだな。
「経理部行ってみる?」
「絶対にダメです」
強めに否定されて「冗談だよ」と笑っておく。そんなガチで否定しなくても。
再び王宮内をふらふらする僕。ちょっと隙を見て経理部方面へと足を向ければ、すかさずスコットが軌道修正してくる。なんて手強い。
僕にピタリとくっついて離れないスコットであったが、チャンスが訪れた。騎士と思われる男が駆け寄ってきてスコットになにやら耳打ちした。真面目な顔をするスコットは、僕にちらりと目をやって「リア様」と固い声を発する。
「ん?」
「ちょっと急用が。彼とここで大人しくしていてください」
スコットが呼びに来た青年の背中を軽く押す。それに応じて青年が「近衛騎士団所属のカイルです」とにこやかに名乗った。
僕とカイルを残して走り去るスコット。「なにがあったの?」とカイルに尋ねてみるが微笑で誤魔化されてしまった。
おとなしく待てと言われたが、こんな何もない場所で時間を潰すのは無理。素早く判断した僕は、気にせず歩き出す。ちょっと驚いたような顔をしたカイルが「どちらへ?」と首を傾げた。
「ちょっと散歩」
「では私もお供いたします」
「……なんか、どっかで会ったことある?」
近衛騎士団所属だからどこかですれ違ったのだろうか。いかにもな優男に見えるカイルは、僕の問いかけに目を瞬いた。
清潔感あふれる出立ちで、どことなく上品な佇まい。うーんと考えていればカイルが苦笑した。
「えぇ、一度だけ」
「やっぱり?」
「はい。その」
なぜか言いにくそうに言葉を切ったカイルは、ちょっぴり困ったように笑った。
「前にリア様が殿下のもとからお逃げになった際に。声をかけさせていただきました」
「……あ」
あの時のナンパ男か。
あれは僕がエドワードの愛人をやめてどこかへ逃げようとした時だ。声をかけてきた優男の世話になろうとついて行った宿屋にエドワードがいてあっさり捕まった。その時の優男がカイルだったらしい。
「すごい僕。ちゃんと覚えてた」
「光栄です」
エドワードの罠にまんまと嵌って悔しかったから覚えていたのかも。
「でも君のナンパは下手くそだったよ」
ウインクをしてやれば、カイルが「初めてだったんですよ」と照れたように俯いた。
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