嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

781 拒否

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 お父様としばらく会話をしていると、ユリスが急に立ち上がった。「僕たちはこれで」と、唐突に話を打ち切るユリスに、お父様が苦笑している。ユリスは両親相手には比較的おとなしいけど、それでもやっぱり基本は自由だ。

「行くぞ、ルイス」

 なぜか偉そうに俺を呼びつけてくる。
 はいはいと応じて、お父様に手を振った。ついでにグリシャにも手を振ると、控えめな一礼が返ってくる。色々聞かれてしまったが、グリシャは真面目で口も堅いので大丈夫。特に口止めなんてしなくても、空気を読んで黙っててくれるという安心感がある。

「綿毛ちゃん、行くよ!」
『えー』

 いまだにお父様の膝の上をキープする生意気な毛玉を引っ張る。お父様がなぜか俺に対して「そんなに引っ張って大丈夫?」とやんわり注意してきた。綿毛ちゃんは長生きしているから大丈夫だと思う。『長生きは関係ないよねぇ?』とむにゃむにゃ言う毛玉は、やれやれ言いながらソファをおりた。

『じゃあねぇ、お父様ぁ』
「綿毛ちゃんのお父様じゃないから!」

 ピシッと強気に注意するが、毛玉はへらへら笑うだけで態度を改めない。ドアの前で待っていたユリスが「なぜ犬なんかと父上を取りあっているんだ」と、呆れたように腕を組んだ。別に取りあってはいない。毛玉が生意気なことを言うから、注意をしているだけである。

 廊下に出るなり、ティアンがホッと安堵の息を吐いた。どうやら緊張していたらしい。ブルース兄様相手にはそこまで緊張していなかっただろ。でもなんだか気持ちはわかるかもしれない。お父様は常ににこにこしているけど、あまり隙がない。あのアロンでさえ、お父様を揶揄うようなことはしない。

「ティアンのお父さんには言わなくていいの? クレイグ団長。もう団長じゃないけど」

 元団長のクレイグは、ティアンの気持ちを知っていたのだろうか。今は領地で暮らしているのだが、ヴィアン家の人手が足りないときなどには、たまに駆けつけてくれたりしている。多分ブルース兄様が無茶を言っているんだと思う。

「ティアンのお母さんには、会ったことないね」
『オレもなーい。会いたーい』

 足元にいた綿毛ちゃんが、声をあげる。ユリスも興味津々といった顔で頷いている。

「いや、僕のところはいいですよ」

 報告したところで、彼の両親が反対するわけがないとティアンは言う。たしかに。クレイグは元うちに仕えていた騎士である。あまり表立って反対はできない立場だ。ティアンが言いたいのは、そういうことだろう。でも一応教えておいた方がいいのは間違いない。このまま何も言わないのは、違うだろう。

「僕も一緒に行ってやろうか。ティアンの実家」

 ユリスの積極的な言葉に、俺は目を丸くした。そうだよ。クレイグに挨拶するとなれば、ティアンの実家に行けるじゃん。ティアンは秘密主義なのか知らないが、なかなか俺を自宅や自室に入れてくれない。

 一度だけティアンの別邸に行ったことはあるが、今ではほとんど使われていない建物だった。ティアンの部屋も、なにも置いていない殺風景な空間だった。

 そんな感じなので、俺はもちろんティアンの実家に行ったことはない。

「行きたい!」
『行きたーい!』

 手をあげて主張すれば、ティアンがあからさまに嫌そうな顔をした。楽しいこと好きの毛玉が、はやくもぴょんぴょん跳ねている。綿毛ちゃんは犬っぽい見た目なのに、よく跳ねる。うさぎみたいだ。

「行きません。行く必要ありません」
「でもご報告しないと」
「では僕の親をこちらに呼びます」
「なんでそうなるの」

 ご報告する立場なのに、呼びつけるのは違うだろう。どう考えても、こちらが足を運んで報告すべきだ。けれどもティアンは一歩も引かない。クレイグであれば、呼べばすぐに来るとの一点張りだ。

「呼びつけるのは、常識的に考えてちょっと違うだろう」

 偉そうに意見するユリスの背中を、俺はバシバシ叩いた。やや常識の欠けるユリスでさえ、こう言っているんだ。やはり呼びつけるのは違うと思う。

 ユリスに常識を指摘されたのが嫌だったのか。ティアンの頬が若干引きつっている。

『お出かけだぁ! わーい、わーい!』

 お泊まりお泊まりと跳ねる綿毛ちゃんに、ティアンが「勝手に泊まりにしないでくれる?」と弱々しく抗議している。

「行きません、泊まりません。両親をこちらに呼ぶのでご心配なく!」

 きっぱり言い切ったティアンに、ユリスと毛玉から非難の声があがる。それを聞き流すティアンは強かった。
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