嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

797 忘れないで

「あのさ、ルイス」
「なに?」

 真面目な顔で俺の部屋に乗り込んできたオーガス兄様は、迷うように視線を彷徨わせている。その煮え切らない態度に、俺は本を閉じて顔を上げた。

「どうしたの?」
「あのさ、ルイス」
「うん。なに」

 促しても声を出さないオーガス兄様は、なぜか俺とティアンを静かに見比べている。その意味深な仕草に、ティアンがなにやらハッとした。

「あ! えっと、オーガス様」

 急にわたわたするティアンは、オーガス兄様の前に出る。

「ご報告が遅れて申し訳ありません。その、ルイス様とお付き合いさせていただくことになりました!」

 なにやら早口で告げたティアンに、オーガス兄様が「言うのが遅いよ」と顔を覆って俯いてしまう。

「なんでいつも僕にだけ報告が遅れるの!?」

 悲痛な叫びに、俺は首を傾げた。

「……あれ? 言ってなかった?」
「言ってないよ! まったくなにも聞かされてないけど!?」

 声を荒げるオーガス兄様に、ティアンが平謝りしている。どうやらティアンも、オーガス兄様のことをすっかり忘れていたらしい。なんでだろうか。不思議だねぇ。

 のんびり笑うと、オーガス兄様が「なにも不思議じゃないけど!? お願いだから僕のこと忘れないで!」と懇願してきた。なんだか悪いことをした。

『オーガスくん、元気出してぇ。オレはオーガスくんのこと忘れたことはないよぉ?』

 適当な励ましをする綿毛ちゃんは、兄様の足元をうろちょろしている。

 ひどいよ、と泣いてしまうオーガス兄様。ティアンが何度も謝っている。

「ごめんね、オーガス兄様」
「ううん。忘れ去られるくらいの存在感しかない僕が悪いんだよ」
「ふーん」
「納得しないで。ここ否定するところだから」

 注文の多い兄様は、背中を丸めて頼りない姿である。なんだか申し訳ない気分になってきたぞ。

「ごめんね。なんかもう報告したつもりでいたの」

 わざとじゃないよ、とオーガス兄様の背中をバシバシ叩いた。ついうっかり失念してしまっただけである。大勢の人にご報告したから、なんかもうオーガス兄様にも報告したつもりになってしまっていた。

「あのね、俺、ティアンと付き合うことにしたから」

 改めて報告すると、オーガス兄様が「そうなんだ」とやる気のない返事をした。

「どうせすぐに別れるんだろ?」
「別れないけど」
「え。だってルイスって飽きっぽいよね?」
「そうだっけ?」

 オーガス兄様は俺のことを飽きっぽいと思っているらしい。なぜだ。心当たりのない俺は、ひとり首を捻る。早々に別れる予定を訊かれたティアンが微妙な表情になってしまった。

「だってデニスと付き合った時にも、すぐに別れたでしょ」
「いつの話してるの?」

 あれは俺が十歳のときである。そんな昔のことを引き合いに出されても。

 あのときは、とにかくデニスと趣味が合わなくて苦労した。けれども俺も、もう大人である。ティアンとの付き合いも長いし、絶望的に趣味が合わないということもない。だから別れる理由はないよと説明するのだが、兄様はいまいち納得いかないような顔をしている。

 しかし結局は「まぁ、相手はティアンだからいいか」と締めくくった。ティアンならいいんだ。なにがいいんだろうか。謎である。

「相手が変な男じゃなくてよかったよ」
「変な男って?」
「アロンとか」
「ほーん」

 オーガス兄様は、アロンのことを変な男だと思っているのか。そうだな。

「アロンと付き合うって言い出したらどうしようと思ってた。ティアンなら別にいいよ」
「ありがとう」

 謎に上から目線でお許しをいただいた。
 当のティアンは、俺に続いて「ありがとうございます」と微妙な顔でお礼を言った。アロンと比較されるのが不服なのだろう。

「ルイスに変なことしないでね」
「それはもちろんです」

 ティアンに詰め寄るオーガス兄様は、突然兄っぽいことを言い始める。

「ルイスのこと泣かせたら許さないから。ブルースが」
「……はい」

 なぜブルース兄様。こんなところで弱気な一面を見せるんじゃない。いまいち格好のつかないオーガス兄様は、「じゃあ、そういうことで」と一方的に話を切り上げてしまう。

 そそくさ退出した兄様の背中を見送って、俺はティアンと顔を見合わせた。足元では、綿毛ちゃんが『オーガスくんも大変だねぇ』とわかったような口をきいている。毛玉に兄様の大変さが理解できるのか?

 頼りない兄だけど、俺の味方をしてくれたのは素直に嬉しい。オーガス兄様は、色々言いつつも最後まで俺の味方でいてくれる人である。

「じゃあ、次はティアンのご両親にも報告しないとね」
「あ、それは大丈夫です。お構いなく」

 いや構うよ。
 頑なにご報告を拒否するティアンは、気まずさを誤魔化すように頬をかいた。
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