嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

798 デートしよう

「ねー、ティアン。ちょっと来て」
「はい?」

 手招きすると、なぜか部屋の隅で寝ていた綿毛ちゃんがむくっと起きた。『なになに?』と満面の笑みで寄ってくる。俺は綿毛ちゃんじゃなくて、ティアンを呼んだんだけど?

 図々しい毛玉を避けて、ティアンの腕をとる。

 今日の俺は一日暇である。暇なので、恋人らしくティアンの相手でもしてやろうと思う。

「デートしよう!」
「……」

 バーンと片手をあげて宣言すると、毛玉が『わーい! お出かけだぁ』とぴょんぴょん跳ねる。綿毛ちゃんのことは誘ってないから。

 対するティアンは、なぜか固まってしまった。

「ティアン? 聞いてる?」
「え、あ、はい」

 ぎこちなく頷いたティアンは、けれども困ったように視線を彷徨わせた。

「……仕事中なので」

 やがてそんな言い訳のような言葉を吐き出す。え、仕事中だとデートだめなの? 一緒にお出かけするだけじゃん。

 というかティアンの休みの日っていつ。ティアンはほとんど毎日俺と一緒にいる。お休みなんて滅多にとらない。

 いつも真面目に仕事しているし、夜は俺の相手をしてくれない。仕事中にでも遊ばないと、機会がないだろう。

「だめ?」

 首を傾げる俺に、綿毛ちゃんが『いいよ、行こう』と勝手に返事をしてくる。うるさいぞ。

 デートという言葉に動揺したらしいティアンは、落ち着きなく俺から顔を背けてしまう。だが、俺はもう決めてしまった。ジャンに頼んで、上着を用意してもらう。せっせとお出かけ準備をする俺に、ティアンが「どちらに行くつもりですか」と静かに問いかけてきた。

「うーん? まだ決めてないけど。どこがいいと思う?」

 俺はティアンと一緒だったらどこでもいいよと笑えば、ティアンが唇を引き結んだ。それはどういう感情なの?

 挙動不審なティアンから視線を外して、俺はとりあえず綿毛ちゃんにリードをつけてみた。うるさいので、一緒に連れて行ってやることにした。

「じゃあ行こう」
『わーい! お出かけ!』

 立ち尽くすティアンを振り返ると、「綿毛ちゃんも連れて行くんですか」と変な顔をされた。だって綿毛ちゃんがうるさいから。それにデートに犬を連れて行くのは、そんなにおかしなことではないと思う。ちょっとうるさい犬だけど。

 ティアンの微妙な態度に、なぜかジャンがあわあわしている。俺からやんわりリードを受け取って、「私が見ておきますので」と言い出した。なんだろう。ジャンも綿毛ちゃんのお散歩してみたかったのだろうか。俺はいつでもできるからね。いいよと譲ってあげると、綿毛ちゃんが『え……?』と小さく困惑していた。

「綿毛ちゃんはジャンとお散歩ね」
『えー、そんなぁ』

 ふるふる震えていた綿毛ちゃんであるが、申し訳なさそうに眉尻を下げるジャンを見て再び笑顔になった。珍しく空気を読んだらしい。

『仕方がないねぇ。オレはジャンさんと一緒にお散歩でもしようかな』

 途端に尻尾を勢いよく振る綿毛ちゃんは、『でもリードはいらないと思うけどねぇ』と文句を言い始める。我儘な犬である。

 ジャンの申し出もあり、ティアンは断れない雰囲気を察したのだろう。渋々といった様子で、俺のあとを追いかけてくる。

「どこ行く?」

 ティアンを伴い、廊下を歩く。少し後ろをついてくる彼は、なんだか落ち着きがない。

 俺とデートするの嫌なのかな? なんでだろう。

 ちょっと歩みを緩めてティアンの隣に並んでみる。すると足を止めたティアンが、わざわざ後ろに下がった。なんでだよ。

 なんか避けられたみたいでショック。半眼になる俺に、ティアンが眉を寄せた。

「いや、仕事中なので」
「いつもじゃん」
「そうなんですけど」

 困ったように返すティアンは、しきりに周囲を気にしている。もしかして誰かに見られるのが嫌なのか?

 しかしティアンとお付き合いすることは、もういろんな人に言ってしまった。今更隠すようなことでもないだろう。

 もしかして、仕事中に遊んでいると思われるのが嫌なのだろうか。真面目なティアンである。もしアロンなどに見られて揶揄われるのが嫌なのだろう。気持ちはちょっとわかる。アロンは絶対、全力でティアンを揶揄う。でも。

「ちょっとくらいよくない? 俺はティアンとデートしたい」
「デートって、なにをするんですか」
「……散歩?」

 そんな改めて訊かれると難しい。意味もなく歩く俺は、とりあえず庭にでも出てみる。

 面白いものがないかと視線を動かしてみるが、特になにもない。すっかり見慣れた庭である。

 ティアンにこそこそ近づいて、そっと手を握ってみる。一瞬だけ驚いたティアンだが、振り払われることはない。

「……楽しい?」

 手を繋いだまま庭を眺めていた俺は、ティアンを見上げた。「はい」と静かに肯定するティアンであるが、本当だろうか。

「今度さ。本当にどこか行かない? 街とか」
「……」

 少し考えるティアンは、しかし小声で「楽しそうですね」と言った。途端に、俺は笑顔になる。

「でしょ!?」
「はい。ルイス様と一緒だと、どこでも楽しそうですけど」

 やっぱり? 俺も同じこと思ってた。
 ティアンと一緒だと、たぶんどこに行っても楽しいと思うのだ。
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