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17歳
813 くだらない喧嘩
「おい、ルイス」
綿毛ちゃんと共に廊下を走っていると、苦い顔のブルース兄様に睨まれてしまった。
「走るな」
「はーい」
『はーい』
毛玉と一緒に笑って誤魔化すけれど、兄様は険しい顔のまま。「何度言ったらわかるんだ」と小言が続く。そんなに何回も言ってないと思うけどね。でも反論すると面倒なことになるので、真面目な顔でふむふむ頷いておく。隣にいる綿毛ちゃんも、俺の真似してふむふむ頷いていた。
「なにをそんなに急いでいる」
真面目な兄様は、俺が急いでいた理由を尋ねてくる。綿毛ちゃんと視線を交わして、俺は窓の外を指さした。
「外でアロンとニックが喧嘩してるから。綿毛ちゃんと一緒に見に行くの」
「そんなもの見に行くんじゃない」
余計なことをするなと口うるさい兄様は、「そんなもの放っておけ」と冷たいことを言う。アロンとニックは仲良しだけど、たまに言い争いをしている。ほとんど原因はアロンだ。アロンはニックに対してくだらない嫌がらせをしたりするから。
俺には見に行くなと言いつつも、ブルース兄様は俺と共に外へ出た。結局、兄様も興味あるのだろう。見たいなら見たいと初めから言えばいいのに。
アロンとニックは、ちょうど俺の部屋の窓から見える位置で喧嘩していた。ニックの「ふざけるな!」という大声が急に響いてきて、びっくりした俺は綿毛ちゃんと共に様子を見に行くことにしたのだ。綿毛ちゃんは修羅場が好きである。嬉々として首を突っ込もうとしていた。ちなみにジャンは揉め事があまり好きではないので、部屋に置いてきた。ティアンは用事があるらしく、どこかに行っていた。おそらく騎士棟だと思う。
庭では、ニックがアロンに掴み掛かろうとしているところであった。
「……」
『……』
その様子をじっと眺めていると、ニックがこちらを見た。直後、「げっ!」と小さく呟いたニックは、慌ててアロンから手を離す。どうやら俺の背後にいたブルース兄様の存在に気がついたらしい。
「なにをやっているんだ」
ブルース兄様の低い声に、ニックが「あ、いえ。なんでも」と小声で返す。先程までの勢いはどこへ行ったのだろうか。弱気になるニックに、アロンがニヤリと笑った。悪い顔だな。
「聞いてくださいよ、ブルース様。ニックが突然俺に殴りかかってこようとしたんですけど」
急に被害者ぶるアロンに、ニックが「はぁ!?」と大声を出す。けれどもブルース兄様は、アロンを睨みつけて「どうせおまえが余計なことをしたんだろう」と一方的に決めつけた。これにアロンが面白くないと眉を寄せた。
「なんで俺のせいになるんですか。酷いと思いませんか? ルイス様」
「あ、うん」
話を振られて頷いてしまった俺であるが、実を言うと俺もアロンが悪いと思っていた。ニックはセドリックの追っかけで仕事をサボりがちであるが、それを除けば割と普通の人である。無闇に人と争ったりしない。対するアロンは、常日頃からニックに対して些細な嫌がらせを繰り返していた。どう考えても、アロンが発端だと思う。
「仲良くしようよ。綿毛ちゃん触らせてあげるから」
『触っていいよぉ。もふもふだよぉ』
とりあえず場を和ませようと毛玉を差し出しておく。乗り気な綿毛ちゃんは、ニックの足にすり寄っている。迷惑そうな表情になったニックが、綿毛ちゃんから距離を取る。黒い騎士服は、毛がつくとちょっと目立ってしまうのだ。
ブルース兄様が詳しい事情を聞き出したところによれば、やはりアロンが発端だったらしい。
庭でばったり鉢合わせた際に、アロンが突然、ニックを罵倒したらしい。どうしてそうなるんだ。
いい歳した大人が、どうしてそう子供じみた喧嘩ができるのか。謎である。
「くだらないことをしていないで、真面目に仕事してくれよ」
ブルース兄様の苦々しい声に、ニックが「はい」と小声で応じた。アロンは素知らぬ顔で無視している。
「今日は午後から客が来るんだ。頼むから余計なことをしないでくれ」
「え? お客さん?」
そんな話は聞いていない。一体どこの誰が来るのか。途端にわくわくしてきた俺に、ブルース兄様が「うるさい」と暴言を吐いた。そんなにうるさくしてないけど?
「誰? 誰が来るの?」
「……」
教えて! とブルース兄様の周りをぐるぐるしていると、アロンが「エリック殿下ですよ」と教えてくれた。
「なんだ。エリックか」
もっと楽しいお客さんを想像していた俺は、落ち着きを取り戻した。しかしエリックがうちに来るのは珍しい。一応は王太子だし、最近は子供ができて忙しそうにしていた。しかしエリックか。まぁ、ブルース兄様がピリピリしている理由が納得できてしまった。王太子に何かあれば大問題である。警備に穴があったら大変。それでやや気を張っているらしい。
お忍びで来るのだろう。だから俺にもエリックが来ることは内緒にしていたのだ。
「綿毛ちゃんでも見せてあげようかな」
たしかエリックは、お喋りする不思議な犬のことを気に入っていた。久しぶりに見せてあげようと思う。きっと喜ぶに違いない。
綿毛ちゃんと共に廊下を走っていると、苦い顔のブルース兄様に睨まれてしまった。
「走るな」
「はーい」
『はーい』
毛玉と一緒に笑って誤魔化すけれど、兄様は険しい顔のまま。「何度言ったらわかるんだ」と小言が続く。そんなに何回も言ってないと思うけどね。でも反論すると面倒なことになるので、真面目な顔でふむふむ頷いておく。隣にいる綿毛ちゃんも、俺の真似してふむふむ頷いていた。
「なにをそんなに急いでいる」
真面目な兄様は、俺が急いでいた理由を尋ねてくる。綿毛ちゃんと視線を交わして、俺は窓の外を指さした。
「外でアロンとニックが喧嘩してるから。綿毛ちゃんと一緒に見に行くの」
「そんなもの見に行くんじゃない」
余計なことをするなと口うるさい兄様は、「そんなもの放っておけ」と冷たいことを言う。アロンとニックは仲良しだけど、たまに言い争いをしている。ほとんど原因はアロンだ。アロンはニックに対してくだらない嫌がらせをしたりするから。
俺には見に行くなと言いつつも、ブルース兄様は俺と共に外へ出た。結局、兄様も興味あるのだろう。見たいなら見たいと初めから言えばいいのに。
アロンとニックは、ちょうど俺の部屋の窓から見える位置で喧嘩していた。ニックの「ふざけるな!」という大声が急に響いてきて、びっくりした俺は綿毛ちゃんと共に様子を見に行くことにしたのだ。綿毛ちゃんは修羅場が好きである。嬉々として首を突っ込もうとしていた。ちなみにジャンは揉め事があまり好きではないので、部屋に置いてきた。ティアンは用事があるらしく、どこかに行っていた。おそらく騎士棟だと思う。
庭では、ニックがアロンに掴み掛かろうとしているところであった。
「……」
『……』
その様子をじっと眺めていると、ニックがこちらを見た。直後、「げっ!」と小さく呟いたニックは、慌ててアロンから手を離す。どうやら俺の背後にいたブルース兄様の存在に気がついたらしい。
「なにをやっているんだ」
ブルース兄様の低い声に、ニックが「あ、いえ。なんでも」と小声で返す。先程までの勢いはどこへ行ったのだろうか。弱気になるニックに、アロンがニヤリと笑った。悪い顔だな。
「聞いてくださいよ、ブルース様。ニックが突然俺に殴りかかってこようとしたんですけど」
急に被害者ぶるアロンに、ニックが「はぁ!?」と大声を出す。けれどもブルース兄様は、アロンを睨みつけて「どうせおまえが余計なことをしたんだろう」と一方的に決めつけた。これにアロンが面白くないと眉を寄せた。
「なんで俺のせいになるんですか。酷いと思いませんか? ルイス様」
「あ、うん」
話を振られて頷いてしまった俺であるが、実を言うと俺もアロンが悪いと思っていた。ニックはセドリックの追っかけで仕事をサボりがちであるが、それを除けば割と普通の人である。無闇に人と争ったりしない。対するアロンは、常日頃からニックに対して些細な嫌がらせを繰り返していた。どう考えても、アロンが発端だと思う。
「仲良くしようよ。綿毛ちゃん触らせてあげるから」
『触っていいよぉ。もふもふだよぉ』
とりあえず場を和ませようと毛玉を差し出しておく。乗り気な綿毛ちゃんは、ニックの足にすり寄っている。迷惑そうな表情になったニックが、綿毛ちゃんから距離を取る。黒い騎士服は、毛がつくとちょっと目立ってしまうのだ。
ブルース兄様が詳しい事情を聞き出したところによれば、やはりアロンが発端だったらしい。
庭でばったり鉢合わせた際に、アロンが突然、ニックを罵倒したらしい。どうしてそうなるんだ。
いい歳した大人が、どうしてそう子供じみた喧嘩ができるのか。謎である。
「くだらないことをしていないで、真面目に仕事してくれよ」
ブルース兄様の苦々しい声に、ニックが「はい」と小声で応じた。アロンは素知らぬ顔で無視している。
「今日は午後から客が来るんだ。頼むから余計なことをしないでくれ」
「え? お客さん?」
そんな話は聞いていない。一体どこの誰が来るのか。途端にわくわくしてきた俺に、ブルース兄様が「うるさい」と暴言を吐いた。そんなにうるさくしてないけど?
「誰? 誰が来るの?」
「……」
教えて! とブルース兄様の周りをぐるぐるしていると、アロンが「エリック殿下ですよ」と教えてくれた。
「なんだ。エリックか」
もっと楽しいお客さんを想像していた俺は、落ち着きを取り戻した。しかしエリックがうちに来るのは珍しい。一応は王太子だし、最近は子供ができて忙しそうにしていた。しかしエリックか。まぁ、ブルース兄様がピリピリしている理由が納得できてしまった。王太子に何かあれば大問題である。警備に穴があったら大変。それでやや気を張っているらしい。
お忍びで来るのだろう。だから俺にもエリックが来ることは内緒にしていたのだ。
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