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17歳
閑話39 別れてほしい
「ルイス様、一回ティアンと別れてみましょう」
「うーん」
アロンの唐突な言葉に、俺は首を傾げる。そんな気軽に提案されても。
「少しでいいんです。少しの間だけティアンと別れてみましょう」
変に粘るアロンは、真剣だった。居合わせた綿毛ちゃんが『えー? どうしようかなぁ』と考え始める。なんで綿毛ちゃんが悩む必要があるんだ。関係ないでしょ。
ティアンのいない時間を狙ってやって来たアロンは、椅子に座るなり冒頭のようなおかしな提案をしてくる。
曖昧に流してしまおうとするけど、アロンはしつこい。まったく諦める気配なく「少しでいいので」と繰り返してくる。少しってなに。少しの間だけ別れるというのが理解できない。それになんの意味があるというのか。
綿毛ちゃんを捕まえてブラッシングを始める俺に、アロンが立ち上がって寄ってくる。俺の隣に屈んだアロンはまたしても「少しだけでいいので」と言う。
「少しってどれくれい?」
どうせアロンのことだ。十年くらい、とか平気で言いそう。下手をすればアロンの気が済むまでとか強引な要求をされるだろう。ため息と共に尋ねた俺に、アロンは僅かに眉間に皺を寄せた。
「そうですね。今日の午前中とか」
「みじかっ」
え、なにそのリアルな時間。
本当に少しの間じゃん。
驚く俺に、アロンが「いいですか?」と伺うような目を向けてくる。
「えっと。どうしよう」
思わぬ短さに困惑する俺。『痛いでーす』と俺のブラッシングに文句を言っていた綿毛ちゃんが『それくらいならいいんじゃない?』と適当なことを言った。
そんな綿毛ちゃんによる雑な後押しもあって。
俺はアロンのお願いを受け入れることにした。
雑用から戻って来たティアンを見て、俺は立ち上がる。アロンの姿を確認したティアンが「なんでいるんですか」と嫌そうに顔をしかめた。
「副団長が探してましたよ。ちゃんと仕事してくださいよ」
「……」
後輩からのお叱りの言葉を聞き流すアロンは、椅子を陣取って偉そうに足を組んだ。
見守り体勢に入ったアロンを横目に、俺はティアンと向かい合った。綿毛ちゃんのブラッシングはジャンにお任せする。俺からブラシを受け取ったジャンが、手際よくブラッシングしている。ジャンのブラッシングには、なぜか綿毛ちゃんは文句を言わない。俺となにが違うっていうんだ。あんまり変わらないだろ。
「ティアン」
「なんですか、ルイス様」
アロンのことを意識しつつ俺に視線をやったティアンは、目が合うと微笑んでくれる。
「一旦俺と別れる?」
「……え? なんですって?」
けれどもその微笑みも、俺の言葉で台無しになってしまった。妙に張り詰めた空気に、ティアンが悲しい顔になった。
「あー、その。ルイス様が、いやその」
たぶんティアンは、俺が別れたいならそれでいいと言おうとしているのだろう。なんかそんな顔だもん。けれども別れたくないという思いから、言葉が出てこないのだろう。
その思い悩んだ様子に、俺は途端に罪悪感に襲われる。やっぱり気軽にそんなこと言ったらダメだ。すぐに「ごめんね! 今の嘘だから!」とティアンの腕を掴む。途端にティアンがホッとした。
でも俺の気持ちを尊重したいという思いはあるようで、「本当にいいんですか?」と控えめに尋ねてくる。なんでそんなに控えめなの。ティアンだって嫌なら嫌ってはっきり言っていいのに。
「別れたいなんて本当に思ってないから! アロンに言えって言われただけで」
たどたどしく説明する俺であったが、アロンの名前が出た途端にティアンの表情が消えた。すぐにアロンに顔を向けると「どういうつもりですか!」と詰め寄っていく。
それに肩をすくめるアロンは「なんで俺のせいにするわけ?」と逆にティアンを責めた。
『あー、喧嘩はよくないよぉ』
「綿毛ちゃん、静かにするんだ」
ジャンの手を振り解いて、アロンとティアンの間に割り込もうとする修羅場大好きな毛玉。今はやめた方がいいと思う。
綿毛ちゃんの隣に屈んで、俺は言い合いを始めたティアンとアロンを眺めた。
「毎度毎度! なんでそう妙なことばっかりするんですか!」
「はぁ? 俺がいつ妙なことなんてした? 言いがかりはやめてくれる?」
「なんで言いがかりって断言できるんですか」
ついにはアロンが、舌打ちした。ガラが悪いぞ。
一方のティアンは、アロンに対して散々正当な文句を言った後に俺を振り返った。
「ルイス様も」
「え、俺?」
眉を吊り上げて怒ってますと言わんばかりのティアンは、こっちに大股で寄ってくる。
「この人の言うことにいちいち付き合う必要はないですから。なんで毎回従うんですか」
「だってアロンが。どうしてもって言うから」
アロンに視線を向けるが、クソなアロンは「俺、そんなこと言いましたっけ?」ととぼけた。クソ野郎め。
「うーん」
アロンの唐突な言葉に、俺は首を傾げる。そんな気軽に提案されても。
「少しでいいんです。少しの間だけティアンと別れてみましょう」
変に粘るアロンは、真剣だった。居合わせた綿毛ちゃんが『えー? どうしようかなぁ』と考え始める。なんで綿毛ちゃんが悩む必要があるんだ。関係ないでしょ。
ティアンのいない時間を狙ってやって来たアロンは、椅子に座るなり冒頭のようなおかしな提案をしてくる。
曖昧に流してしまおうとするけど、アロンはしつこい。まったく諦める気配なく「少しでいいので」と繰り返してくる。少しってなに。少しの間だけ別れるというのが理解できない。それになんの意味があるというのか。
綿毛ちゃんを捕まえてブラッシングを始める俺に、アロンが立ち上がって寄ってくる。俺の隣に屈んだアロンはまたしても「少しだけでいいので」と言う。
「少しってどれくれい?」
どうせアロンのことだ。十年くらい、とか平気で言いそう。下手をすればアロンの気が済むまでとか強引な要求をされるだろう。ため息と共に尋ねた俺に、アロンは僅かに眉間に皺を寄せた。
「そうですね。今日の午前中とか」
「みじかっ」
え、なにそのリアルな時間。
本当に少しの間じゃん。
驚く俺に、アロンが「いいですか?」と伺うような目を向けてくる。
「えっと。どうしよう」
思わぬ短さに困惑する俺。『痛いでーす』と俺のブラッシングに文句を言っていた綿毛ちゃんが『それくらいならいいんじゃない?』と適当なことを言った。
そんな綿毛ちゃんによる雑な後押しもあって。
俺はアロンのお願いを受け入れることにした。
雑用から戻って来たティアンを見て、俺は立ち上がる。アロンの姿を確認したティアンが「なんでいるんですか」と嫌そうに顔をしかめた。
「副団長が探してましたよ。ちゃんと仕事してくださいよ」
「……」
後輩からのお叱りの言葉を聞き流すアロンは、椅子を陣取って偉そうに足を組んだ。
見守り体勢に入ったアロンを横目に、俺はティアンと向かい合った。綿毛ちゃんのブラッシングはジャンにお任せする。俺からブラシを受け取ったジャンが、手際よくブラッシングしている。ジャンのブラッシングには、なぜか綿毛ちゃんは文句を言わない。俺となにが違うっていうんだ。あんまり変わらないだろ。
「ティアン」
「なんですか、ルイス様」
アロンのことを意識しつつ俺に視線をやったティアンは、目が合うと微笑んでくれる。
「一旦俺と別れる?」
「……え? なんですって?」
けれどもその微笑みも、俺の言葉で台無しになってしまった。妙に張り詰めた空気に、ティアンが悲しい顔になった。
「あー、その。ルイス様が、いやその」
たぶんティアンは、俺が別れたいならそれでいいと言おうとしているのだろう。なんかそんな顔だもん。けれども別れたくないという思いから、言葉が出てこないのだろう。
その思い悩んだ様子に、俺は途端に罪悪感に襲われる。やっぱり気軽にそんなこと言ったらダメだ。すぐに「ごめんね! 今の嘘だから!」とティアンの腕を掴む。途端にティアンがホッとした。
でも俺の気持ちを尊重したいという思いはあるようで、「本当にいいんですか?」と控えめに尋ねてくる。なんでそんなに控えめなの。ティアンだって嫌なら嫌ってはっきり言っていいのに。
「別れたいなんて本当に思ってないから! アロンに言えって言われただけで」
たどたどしく説明する俺であったが、アロンの名前が出た途端にティアンの表情が消えた。すぐにアロンに顔を向けると「どういうつもりですか!」と詰め寄っていく。
それに肩をすくめるアロンは「なんで俺のせいにするわけ?」と逆にティアンを責めた。
『あー、喧嘩はよくないよぉ』
「綿毛ちゃん、静かにするんだ」
ジャンの手を振り解いて、アロンとティアンの間に割り込もうとする修羅場大好きな毛玉。今はやめた方がいいと思う。
綿毛ちゃんの隣に屈んで、俺は言い合いを始めたティアンとアロンを眺めた。
「毎度毎度! なんでそう妙なことばっかりするんですか!」
「はぁ? 俺がいつ妙なことなんてした? 言いがかりはやめてくれる?」
「なんで言いがかりって断言できるんですか」
ついにはアロンが、舌打ちした。ガラが悪いぞ。
一方のティアンは、アロンに対して散々正当な文句を言った後に俺を振り返った。
「ルイス様も」
「え、俺?」
眉を吊り上げて怒ってますと言わんばかりのティアンは、こっちに大股で寄ってくる。
「この人の言うことにいちいち付き合う必要はないですから。なんで毎回従うんですか」
「だってアロンが。どうしてもって言うから」
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