嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

830 行ってくる

 俺たちがグリシャの部屋を訪れることはあまりない。ましてこんな時間である。ちょっと不安になる俺だけど、ユリスのほうは何も思っていないらしい。片手をポケットに突っ込んで、気怠そうにドアをノックしてみせた。

 やや間を置いてから、部屋の中で物音が聞こえてきた。どうやらグリシャは部屋にいたらしい。ニックたちと一緒にいたんじゃないのか。今日は置いていかれたのかな?

「……はい?」

 ドアを細く開けたグリシャは、俺とユリスの顔を見るなり意外そうに目を瞬いた。そりゃそうだね。こんな時間に俺たちが訪ねてくるなんて想像もしていなかっただろう。びっくりさせてごめんね。

「部屋をお間違えでは?」
「間違えてはない。ちょっと中に入るぞ」
「え?」

 強引に押し入るユリスに続いて、俺もグリシャの部屋に侵入した。おそらく寝ていたのであろうグリシャは、欠伸をかみ殺しながらドアを閉めた。

 グリシャの部屋は綺麗に片付けられている。いや、そもそも物が少ない。なんというか殺風景という言葉が似合う部屋だった。あまり物にお金をかけない性格なのだろう。グリシャだしね。きっとほとんどギャンブルに注ぎ込んでいるに違いない。

「あの? こんな時間に何のご用ですか」
「アロンどこ?」

 質問に質問で返す俺に、グリシャが首を傾げる。

「アロンさんは、部屋にいるのでは?」
「いなかったの。あと綿毛ちゃんもティアンもいないの。ニックもいなかった」
「はぁ、なるほど」

 眠そうな顔のグリシャは、「え、それで?」と困惑気味に俺たちを見据えてきた。いつもきっちり仕事モードのグリシャしか見ていないので、今日の彼はなんだか新鮮だった。思わず凝視する俺の横で、ユリスが「行くぞ」と唐突に言い放った。

「どちらへ?」

 困惑顔で当然の質問を投げるグリシャは、ユリスと俺を見比べては警戒するかのように一歩後ろに下がった。

 それに小さく笑ってみせたユリスは「決まっているだろう」と偉そうに腕を組んだ。ここでグリシャは、ようやく俺たちが寝巻きじゃないことに気が付いたらしい。「え、まさか」と眉を寄せている。

「ちょっと探しに行こうと思う」
「それは具体的にどこへ?」
「街」

 えぇ? と困惑気味に髪をいじったグリシャは、「今からですか?」とユリスに問いかけた。それに素早く頷いたユリスは「行くぞ」と言って俺の手を取った。

「ちょっとお待ちください。もう時間が時間ですよ。危ないのでやめておきましょう」

 正論をぶつけてくるグリシャであったが、ユリスは余裕の態度だ。どうやら策があるらしいので、俺は余計な口を挟まずに見守ろうと思う。

 ドアのところまで戻ったユリスに、グリシャが「ではロニーさんに報告してから考えませんか?」と面倒事をロニーに押し付けようとした。ここでセドリックの名前が出てこないあたり、彼が騎士団においてちゃんと団長としての仕事をまっとうしているのか少々心配になる。

 しかしロニーにも一緒に来てもらうのはいいかもしれない。ユリスに「どうする?」と訊いてみるが、呆れた表情を俺に向けたユリスは「ダメに決まっているだろ」と素っ気なく言った。

 まぁ、ロニーに知られたら絶対に止められるもんね。ここはユリスの言うことに従っておこう。

 ロニーに報告してくると言うグリシャに、ユリスは「勝手にしろ」と焦ることなく言った。直後にニヤッと笑ってみせたユリスは「僕たちは先に屋敷を出るからな」と一方的に宣言した。

 なるほど。さすがユリスだ。

 これにグリシャが露骨に困った様子をみせた。ユリスは一度言ったら実行するタイプである。グリシャが俺とユリスを無理矢理引き止めることができない以上、ロニーや他の騎士にこの件を報告しようとしたら一度俺たちから目を離さなければならない。

 その隙に、俺たちはさっさと街に向かってしまおうということだ。

 それがわかっていながら、グリシャは俺たちを放置したりはできないと踏んだらしい。さすがユリスだ。悪知恵が働くな。

「じゃあ、僕たちは先に行っておく」

 ひらひらと手を振ったユリスが、早足に外に向かう。慌ててそれを追いかける俺。

 顔をしかめたグリシャが、「ちょっと待ってください」と言い置いて踵を返した。

 やがてほとんど間を置かずに部屋から出てきたグリシャは、外に出てもおかしくはない格好に着替えていた。着替えはやいね。

「これ、私まで叱責される羽目になるのでは?」

 背後からグリシャの投げやりな声が聞こえてきて、俺は「ごめんね」と謝っておく。こんな時間に勝手に外出するのはまずいとわかっている。でもどうしても気になるし、それに純粋に夜のお出かけは楽しそうだ。

 俺たちから目を離して、勝手に街に行かれる方がまずいと結論付けたのだろう。渋々同行を決めてくれたグリシャに、俺は「でも」と明るく話しかける。

「バレなければ大丈夫だよ!」
「確実にバレますよ」

 しかしため息混じりのそんな言葉が返ってきて、俺は再度「ごめんね」と謝っておいた。
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