嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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12歳

305 毛玉

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 細かいことは、いいや。俺はずっと、喋るペットが欲しかった。黒猫ユリスが人間ユリスになって、猫とお喋りできなくなったことが、すごく不満だった。

 せっかく発見した喋る犬だ。逃すわけにはいかない。

「いいか、犬。俺は猫派だけど、おまえは喋るから特別にペットにしてやる」
『うっす! あざす!』

 キリッとお座りする犬を前に、とりあえず角を隠そうと奮闘する。幸い、毛がもさもさだから上手く隠せそうだ。

「この角なに」
『オレの本体』
「……」
『冗談だよ?』

 毛をわーっとぐしゃぐしゃにすれば、普通の犬になった。ちょっとボサボサになってしまったが、まぁいいだろう。

『ところで、坊ちゃん。おいくつだい? お名前言えるかなぁ?』
「ルイス」
『ルイス坊ちゃんか。よろしくね。んで何歳かな?』
「この角とっていい?」
『とれねぇよ? あと頑なに年齢教えてくれないのはどうしてなの。わざとなの?』

 何歳? としつこい犬を見下ろす。

「十八歳」
『大嘘じゃん。坊ちゃん、どう見ても十八は無理があるよ』
「じゃあ十二歳」
『そっかぁ。十二歳か。子供だねぇ。さばの読み方が大胆だね』
「大人なの!」

 なんだこの失礼な犬。睨みつけてやるが、犬はどこ吹く風である。

 そうして庭に座り込んで、犬とお喋りしていれば、ロニーが歩いてくる。さらに後ろには、ジャンもいる。

「どこに行っていたんですか?」
「温室見てきた」

 そうですか、と微笑むロニーは、俺の足元に座る犬を見て、目を見張った。

「あれ、それは」
「犬。拾った。飼っていい?」

 お願いと顔の前で手を合わせるが、ロニーは困ったように眉間に皺を寄せてしまう。

「ちゃんとお世話するから!」
「ですが。猫ちゃんはどうするんですか?」
「猫も友達が欲しいって言ってる。犬も猫と親友になるって言ってる」
「わんっ!」

 わざとらしく吠えてみせた犬は、尻尾を振ってアピールしている。

「じゃあ、オーガス兄様がいいって言ったら飼っていい?」
「それは、うーん。オーガス様が良いとおっしゃるのであれば」

 やった。これはもう俺の勝ち確定である。

 ロニーの気が変わらないうちにと、急いで屋敷に戻る。そのまま二階に上がって、オーガス兄様の部屋に突入する。

「兄様! 犬飼っていい?」
「え?」

 きょとんとする兄様に、早速もふもふ白髪犬を差し出してみる。

「うわ!」

 大袈裟なくらいに上半身を逸らした兄様。そんなビビらなくても。

「どこで見つけてきたんですか」
「ニックも触る? もふもふだよ」
「嫌です」

 文句しか言わないニックは放っておこう。今は、オーガス兄様の許可をもらうことが最優先だ。

「ねぇ! いいでしょ! ちゃんとお世話するからぁ」
「もう猫飼ってるじゃん。なんでもかんでも拾ってこないの」

 戻してきなさい、と冷たいこと言う兄様に、地団駄を踏む。なんでわかってくれないのか。ブルース兄様不在の今がチャンスだというのに。

「嫌だ! 俺が見つけたんだから俺の犬だもん!」

 絶対に飼う、と大声で主張すれば、兄様は眉を寄せる。快諾してはくれないが、ちょっと悩んでいる様子である。ここぞとばかりに、俺が今まで白猫のお世話をサボったことがあるかと問い詰めれば、兄様は「そうだね。猫のお世話はちゃんとしてるもんね」と前向き発言をする。

「うーん。ちゃんとお世話するって約束できるなら」
「やった!」

 最終的には、反対するのも面倒になったらしい。兄様がいいと言えば、反対する者は、他にいなかった。

 晴れて犬をペットにした俺は、急いで部屋に戻る。「なんでそんなにボサボサなの?」と、オーガス兄様が犬に手を伸ばしてきたからだ。

 せっかく隠した角が、見つかってしまう。

「犬。ここが俺の部屋」

 案内してやれば、犬は真っ先に本棚へと寄っていく。そうしてうんと背伸びして、本棚の中を確認し始める。変な犬。

 だが、小さいためによく見えないらしい。抱っこしろとでも言うかのように、俺のまわりをぐるぐるする。

 お望み通り抱っこしてやれば、犬は真剣に本棚を眺める。本が好きなのかな。喋れるし、もしかしたら本も読めるのかもしれない。

「お名前、考えないといけませんね」
「うん。なにがいいかな」

 ロニーと一緒に、お名前を考える。そういえば、ジャンは犬派だったことを思い出して、「触っていいよ」と、差し出しておく。

 おずおずと手を伸ばしたジャンは、犬の背中あたりをゆっくり撫でている。

 角に気が付かないでね。

 結局、この犬はなんだろうか。なんか喋ることに興奮して、拾ってきてしまったが、大丈夫だろうか。

 もしかしたら、ユリスのお仲間かもしれない。

 銀色の毛をわしゃわしゃと撫でてみる。どこからどう見ても、犬にしか見えないが、小さい角が生えている。異世界ならではの生き物かもしれない。

 だが、この世界に不思議生物がいるなんて聞いたこともない。

 うーん。頑張って考える俺を、ロニーが微笑ましそうに見てくる。どうやら、俺が必死で犬のお名前を考えていると思っているらしい。そうだな。お名前もどうしよう。なんかいい感じの。

「……毛玉おばけにしよう」

 犬が、すごい目でこっちを見てくる。わんわん鳴く彼は、どうやらお名前が気に入らないらしい。ふるふると勢いよく首を振って、一生懸命に抗議している。「それはちょっと」と、ロニーもやんわり抗議してくる。すごく不評だ。

「じゃあ、綿毛わたげにする」

 ちょっと妥協すれば、「いいですね」とロニーが賛成してくれる。犬は相変わらず不満そうだけど、毛玉おばけよりはマシだと考えたのか、大人しくなった。

「行くぞ! 綿毛」

 もふもふの犬を前にして、唐突に、散歩をしてみたい気になった。昔から、犬を散歩させることに、すごく憧れていたことを思い出す。

「……ジャン。紐ちょうだい」
「紐、ですか?」

 少々お待ちくださいと、部屋を出て行くジャン。長くて丈夫なやつね、とその背中に声をかける。

 犬が、すごく不安そうな顔をしている。

「お散歩したいでしょ?」

 半眼の犬は、ロニーがいるためお喋りしない。喋れることは、秘密なのだ。捨ててこいと言われても悲しいから。

「こちらでよろしかったでしょうか」
「うん」

 ジャンから受け取った紐は、ちょうど良い長さである。犬を捕まえてしゃがみ込めば、『あ、なんか嫌な予感』と、小声で犬が暴れ始める。

「大人しくしろ」
『いやいやいや。なんやこの子。すんげぇ悪ガキじゃん』

 黙って。ロニーとジャンに聞かれてしまう。慌てて犬の口を塞いで、静かにしろと伝えれば、犬はこくこくと頷く。そのまま犬の首に紐を巻き付けようとするのだが、ロニーに止められてしまう。

「ダメですよ、ルイス様。可哀想ですよ」
「お散歩したい」

 せめて首輪を用意してからにしましょうと、困ったように提案してくるロニー。

「……うん」

 仕方ない。一旦、諦めよう。

 命拾いしたと、大袈裟なほどに尻尾を振ってロニーに飛びかかって行く犬を、引き離す。ロニーは俺のだぞ。

 そのまま壁際まで犬を追い詰めて、小声で「大人しくしろ」と言い聞かせる。普通の犬じゃないことがバレてしまう。

『オレは大人しくしてたよ。坊ちゃんが、思っていた以上に悪ガキでびっくりなんだけど』
「勝手にロニーと遊ばないで」
『あの人、ロニーさんっていうの? オレの命の恩人だよ』

 ふざけたことを言う犬の頭を、ペシペシしておく。ユリスにも犬を自慢したいが、あいつは魔法とかそういうものが大好きなお子様だ。喋る犬なんて珍しいもの、見せた瞬間に横から奪われるかもしれない。

 もっふもふの犬を見下ろす。今日は、こいつと一緒に遊びたい。ユリスにとられるのは、絶対に嫌。

 もうちょっとだけ、ユリスには内緒にしておこうかな。
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