嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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17歳

690 人生最大のミス(sideカミール)

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 パーティーが始まったというのに一向に姿を見せないルイス様。もはやデニス様をはじめとするみなさまの視線が痛い。

 もうこれ無理なのでは? 俺はやはり社交辞令を真に受けてしまった大馬鹿野郎なのでは? とこっそり顔を覆っていたそのときであった。

「ごめーん。ちょっと遅れた」

 そんな間延びした軽やかな声と共に、ルイス様が姿を現した。待ちわびた人物の登場に会場内が一瞬だけ静まり返る。ついであがる驚きを含んだざわめき。

 ちょっとというか。かなり遅れているのだが。それを指摘する度胸は俺にはない。とりあえず揶揄われたわけではないとわかり途端に胸をなでおろす。正直もう緊張でどうにかなるところだった。

 パタパタと会場に駆け込んできたルイス様は、にっこり笑みを浮かべて俺の元まで一直線に走ってくる。そんな走らなくていいのに。慌ててこちらも駆け寄れば、身振り手振りで「誕生日おめでとう!」と告げられる。

 ……可愛すぎないか?

 なぜかぴょんぴょん飛び跳ねているルイス様は「俺も十七になったけどね!」と付け足す。慌てて「おめでとうございます」と返せばドヤ顔が返ってきた。

 え、なにその満面の笑み。めっちゃ可愛いのだが? 天使か?

 フリルがあしらわれたブラウスを身につけたルイス様は、上着の胸元に赤色の小振りなブローチをつけている。すごくお似合いで。装飾品にも劣らないお綺麗な顔立ちのルイス様に、会場内が浮き足立っているのがわかる。

 ひしひしと感じる視線の数々。不躾なものはないが、会場のほとんどがルイス様に注目しているのがわかる。

 単に大公家と関わりを持ちたいと考えていた者たちが、ルイス様の美貌に息を飲んでいる様があちこちで見受けられる。ルイス様に声をかける機会を窺って、大勢がそわそわしている。

 先程までとは違う注目に、頬が引きつる。どちらにせよ俺は人の注目を浴びるのが得意ではない。

 無難に挨拶を済ませようとルイス様に笑顔を向ければ、再び「ごめんね」と眉尻を下げられる。

「ちゃんと間に合うように出発したんだけどね。途中でカミールへのプレゼント忘れたことに気がついて。取りに戻ったから遅くなっちゃった」
「それは。お気遣いありがとうございます」

 まさかの理由になんとも言えない気分になる。ルイス様が俺のプレゼントを用意してくれたという事実は嬉しい。だがそのために遅れたのはちょっと。俺がどれだけ気まずい思いをしたことか。だが面と向かって文句を言うわけにもいかないので愛想笑いで流しておく。

「ちゃんとカミールが欲しいもの用意したよ。懐中時計。壊れたって言ってたよね?」
「……うん?」

 思わず素で訊き返した俺は悪くない。
 愛用していた懐中時計が壊れたのは事実である。それなりに不便な思いをしているのも事実である。だが壊れたのはつい先日のことだし、それをルイス様に教えた覚えもない。

 え、こっわ。
 どこ情報!? 俺の懐中時計が壊れたって心底くだらない噂が出回っているのか? どんな噂だよ。

 そんな内心の焦りが顔に出ていたのだろうか。目を瞬いたルイス様が内緒話でもするかのように、俺の耳元に口を寄せてきた。思わぬ接近にビクッと肩が揺れる。

「あのね、カミールが時計壊れて困ってるって。情報屋のお兄さんから聞いたの」
「へ、へぇー??」

 情報屋のお兄さんってなに!? 俺の個人情報探られてんの!?

 怒涛の事実に、頭が動かない。
 どうやら相当困惑していたらしい。ぽんぽんと肩を叩かれて、我に返る。

「っ!」

 すぐ目の前にルイス様のお綺麗な顔があって危うく悲鳴を上げるところであった。

「あ、えっと。ありがとうございます」

 それ以外に返す言葉がなくて、周囲を見渡す。俺たちの会話が終わるのを待っている人間が大勢いる。そろそろ譲った方がいいだろうかと一歩後ろに下がったそのとき。

「ルイス様! お久しぶりです! 結婚してくださいっ」

 この馬鹿が。
 俺とルイス様の間に文字通り割り込んできたテオドールが、例の花束をルイス様に差し出している。おまえそれ、デニス様に突き返されたやつだろ。花束の使い回しとか悪質だからやめろ。

 きらきらとした目で花束を観察するルイス様は「綺麗だね」と微笑む。

「ルイス様の方が断然お綺麗ですよ」

 クソうぜぇ。
 芝居がかった仕草で前髪をかきあげるテオドールの手から、ルイス様が花束を受け取る。

 受け取っちゃったよ。周囲から声にならない悲鳴が上がっている。そりゃそうだろう。側から見ればテオドールのプロポーズが成功したように映るだろう。だが俺は知っている。ルイス様にそのつもりはまったくないことを。

 これ以上騒がれる前にとルイス様の手からそっと花束を回収してテオドールに返却する。それと同時にルイス様が後ろ手を組んで「ごめんね!」と言い放った。

「テオドールに興味ない」
「興味くらいは持っていただけると嬉しいです」
「無理!」

 相変わらずはっきりとした物言いである。テオドールの頬が引きつっている。そんな中、のんびりとした足取りで会場に入ってきた人物が視界を掠めて息を呑む。

「おい、ルイス。勝手に走っていくな」

 どこか不機嫌そうな面持ちで登場したのは、ルイス様とそっくりなお顔の美少年。

「遅いぞ、ユリス」

 くるりと振り返って文句を言うルイス様はどこか楽しそうな様子だ。

 間違いない。ヴィアンの氷の花。ユリス様だ。

 こうやってお目にかかるのは初めてだ。表舞台には滅多に顔を出さない謎めいた人物。昔は彼の冷酷さを示唆するろくでもない噂が出回っていた。そういった噂を聞かなくなったのはいつ頃からだろうか。

 ルイス様と揃いの艶やかな黒髪。顔立ちは同じはずだが纏う雰囲気がまったく異なる。

 無邪気で笑顔の絶えないルイス様。対するユリス様は氷のような冷たい目に、迂闊に寄れば切れてしまいそうな鋭い雰囲気。

 あまりの存在感に、会場が水を打ったように静まり返る。誰もが双子の一挙手一投足に注目する異様な空気の中、またしても空気を読まない赤が動いた。

「俺と結婚してくださいっ!」

 響き渡った本日三度目のプロポーズに、そっと額を押さえた。

 真面目な顔で膝をつき、堂々と花束を差し出すテオドール。だからそれ、使い回すのやめろ。

 こいつをこのパーティーに招待したのは、俺の人生最大のミスかもしれない。
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