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17歳
693 居心地
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「……疲れた」
人が途切れたタイミングでぼそっと呟けば、ずっと俺に付き合ってくれていたヘイゼルが堪えきれないといった感じで小さく笑った。
今までの大人びた綺麗な微笑とは違う親しみやすい笑顔である。思わずヘイゼルの横顔を見つめていれば、視線に気がついた彼女が照れたように俯いてしまう。
「そうですね。たしかに少々疲れましたね」
にこやかに返されて、頷いておく。とはいえヘイゼルの顔に疲れは見えない。俺に合わせてくれたのだろう。俺の方が歳上なんだけどな。すごくまめに世話を焼かれている。
「人の少ないところに移動しますか?」
言いながら、ヘイゼルが俺を案内するように歩き出す。「中庭はここより静かだと思います」と添えられて、迷うことなく後を追う。
賑やかな雰囲気の会場は楽しいのだが、気が抜けない。次から次に声をかけられて、もう誰となにを話したのか覚えきれない。一回落ち着きたい。そんな俺の気持ちを察してくれたのだろう。中庭へと誘導してくれたヘイゼルに、俺は盛大に感謝する。
「ありがとう。ヘイゼル」
「いえ。実は私も立ちっぱなしで疲れてしまって」
まるで内緒話でもするかのように小声で告げられ、笑みがこぼれる。多分俺に気を遣わせないようにとの発言なのだろう。
「普段あまりヒールの高い靴を履かないもので」
ちらりと自分の足を見下ろしたヘイゼルは、少しだけ恥ずかしそうに俯いた。たしかに歩きづらそうな靴だ。中庭を見渡せば、ベンチがあった。
人のいない中庭にて、ヘイゼルの手をとる。
「ちょっと休憩しよう」
ベンチに座るよう促せば、ヘイゼルが「ありがとうございます」と遠慮気味に腰を下ろす。俺も隣に座って、ようやくひと息つけた。
「パーティーって、楽しいけど大変だね」
本音を漏らせば、ヘイゼルが釣られたように頷く。俺はふらっとやってきて参加するだけだったけど、主催者側のヘイゼルは準備とか色々大変だったんだろうな。
いつの間にか暗くなっていた空を見上げて、ホッと息を吐く。会場の方からは賑やかな声が漏れ聞こえてくる。
なんか、前にもこういうことやったな。
エリック主催のパーティーで、あのときはティアンと共に庭に避難していた。俺って実はパーティーに向いていないのかも。最初は楽しいんだけどな。時間が経つにつれて疲れてくるのだ。みんな最後まで真面目に参加しててすごいな。
今頃ユリスはなにをしているのだろうか。俺よりも面倒くさがりのユリスだが、今のところ真面目に参加している。デニスがいるからだろうか。
綺麗な星空を飽きずに眺めていれば、ヘイゼルが身じろぎするのがわかった。ちらりと隣に視線をやれば、彼女も俺と同じように星空を見上げている。
会話も途切れてしまったが、不思議と居心地の悪さは感じない。
ヘイゼルが俺よりも歳下だから?
なんにせよ必要以上に気を遣わなくていいのは助かる。
ヘイゼルは必要なときに的確な手助けをしてくれるけど、無理に場を盛り上げたりはしない。それが俺にとってはちょうどいい気がする。今日一日、ずっと声をかけられて疲れてしまった。
「……綺麗だね」
星を見上げたまま呟けば、ヘイゼルが「えぇ、とても」と穏やかに返してくれる。優しい風が吹き抜けて、心地よい。
しばらく無言のまま空を眺める。
ヘイゼルは結局、ずっと俺の側にいるけど大丈夫なのだろうか。カミールは忙しそうだった。まぁ彼は主役だからな。
「カミールは優しい?」
なんとなく尋ねれば、ヘイゼルがこちらに顔を向けた。ぱちぱちとゆっくり目を瞬いた彼女は、少し考えてから「優しすぎるのも困りものですね」と苦笑する。
「カミールがね。ヘイゼルは美人だって言ってたよ。自慢の妹なんだね」
すごく楽しそうにヘイゼルのことを褒めていた。微笑ましくて俺はにこにこ聞いていたのだが、ヘイゼルはちょっぴり苦い顔をする。
「兄が申し訳ありません。いろんなところで私のことを美人だとか賢いだとか言いふらしているらしくて。本気でやめてほしいですね」
マジなトーンでため息を吐き出すヘイゼル。その本音だとわかる言い方に思わず笑ってしまう。どうやらカミールは妹のことが大好きらしい。ついつい自慢しちゃうのだろう。
「でもヘイゼルが美人で賢いのは事実だよ」
「ありがとうございます。ルイス様にそう仰っていただけて光栄です。でも本当に恥ずかしくて。やめてくれと何度も言っているのですが」
「なるほどなるほど」
でも自慢したくなっちゃうカミールの気持ちもわかる。ヘイゼルとはまだ出会って数時間だが、すごくいい子だってわかってしまった。
「俺も兄がいるけどね。うーん。ちょっとだけ優しいよ」
眉間に皺の寄ったブルース兄様を思い浮かべる。ついでに頼りないオーガス兄様も。
ブルース兄様は文句を言いつつも面倒見がいい。なにかと気にかけてくれる。でもはっきり優しいと口にするのが照れくさくて誤魔化せば、ヘイゼルが口元を緩める。どうやら俺の葛藤を察したらしい。「自分の兄を褒めるのは照れくさいものがありますね」と、控えめに発した彼女は悪戯っぽく微笑んでくれた。
人が途切れたタイミングでぼそっと呟けば、ずっと俺に付き合ってくれていたヘイゼルが堪えきれないといった感じで小さく笑った。
今までの大人びた綺麗な微笑とは違う親しみやすい笑顔である。思わずヘイゼルの横顔を見つめていれば、視線に気がついた彼女が照れたように俯いてしまう。
「そうですね。たしかに少々疲れましたね」
にこやかに返されて、頷いておく。とはいえヘイゼルの顔に疲れは見えない。俺に合わせてくれたのだろう。俺の方が歳上なんだけどな。すごくまめに世話を焼かれている。
「人の少ないところに移動しますか?」
言いながら、ヘイゼルが俺を案内するように歩き出す。「中庭はここより静かだと思います」と添えられて、迷うことなく後を追う。
賑やかな雰囲気の会場は楽しいのだが、気が抜けない。次から次に声をかけられて、もう誰となにを話したのか覚えきれない。一回落ち着きたい。そんな俺の気持ちを察してくれたのだろう。中庭へと誘導してくれたヘイゼルに、俺は盛大に感謝する。
「ありがとう。ヘイゼル」
「いえ。実は私も立ちっぱなしで疲れてしまって」
まるで内緒話でもするかのように小声で告げられ、笑みがこぼれる。多分俺に気を遣わせないようにとの発言なのだろう。
「普段あまりヒールの高い靴を履かないもので」
ちらりと自分の足を見下ろしたヘイゼルは、少しだけ恥ずかしそうに俯いた。たしかに歩きづらそうな靴だ。中庭を見渡せば、ベンチがあった。
人のいない中庭にて、ヘイゼルの手をとる。
「ちょっと休憩しよう」
ベンチに座るよう促せば、ヘイゼルが「ありがとうございます」と遠慮気味に腰を下ろす。俺も隣に座って、ようやくひと息つけた。
「パーティーって、楽しいけど大変だね」
本音を漏らせば、ヘイゼルが釣られたように頷く。俺はふらっとやってきて参加するだけだったけど、主催者側のヘイゼルは準備とか色々大変だったんだろうな。
いつの間にか暗くなっていた空を見上げて、ホッと息を吐く。会場の方からは賑やかな声が漏れ聞こえてくる。
なんか、前にもこういうことやったな。
エリック主催のパーティーで、あのときはティアンと共に庭に避難していた。俺って実はパーティーに向いていないのかも。最初は楽しいんだけどな。時間が経つにつれて疲れてくるのだ。みんな最後まで真面目に参加しててすごいな。
今頃ユリスはなにをしているのだろうか。俺よりも面倒くさがりのユリスだが、今のところ真面目に参加している。デニスがいるからだろうか。
綺麗な星空を飽きずに眺めていれば、ヘイゼルが身じろぎするのがわかった。ちらりと隣に視線をやれば、彼女も俺と同じように星空を見上げている。
会話も途切れてしまったが、不思議と居心地の悪さは感じない。
ヘイゼルが俺よりも歳下だから?
なんにせよ必要以上に気を遣わなくていいのは助かる。
ヘイゼルは必要なときに的確な手助けをしてくれるけど、無理に場を盛り上げたりはしない。それが俺にとってはちょうどいい気がする。今日一日、ずっと声をかけられて疲れてしまった。
「……綺麗だね」
星を見上げたまま呟けば、ヘイゼルが「えぇ、とても」と穏やかに返してくれる。優しい風が吹き抜けて、心地よい。
しばらく無言のまま空を眺める。
ヘイゼルは結局、ずっと俺の側にいるけど大丈夫なのだろうか。カミールは忙しそうだった。まぁ彼は主役だからな。
「カミールは優しい?」
なんとなく尋ねれば、ヘイゼルがこちらに顔を向けた。ぱちぱちとゆっくり目を瞬いた彼女は、少し考えてから「優しすぎるのも困りものですね」と苦笑する。
「カミールがね。ヘイゼルは美人だって言ってたよ。自慢の妹なんだね」
すごく楽しそうにヘイゼルのことを褒めていた。微笑ましくて俺はにこにこ聞いていたのだが、ヘイゼルはちょっぴり苦い顔をする。
「兄が申し訳ありません。いろんなところで私のことを美人だとか賢いだとか言いふらしているらしくて。本気でやめてほしいですね」
マジなトーンでため息を吐き出すヘイゼル。その本音だとわかる言い方に思わず笑ってしまう。どうやらカミールは妹のことが大好きらしい。ついつい自慢しちゃうのだろう。
「でもヘイゼルが美人で賢いのは事実だよ」
「ありがとうございます。ルイス様にそう仰っていただけて光栄です。でも本当に恥ずかしくて。やめてくれと何度も言っているのですが」
「なるほどなるほど」
でも自慢したくなっちゃうカミールの気持ちもわかる。ヘイゼルとはまだ出会って数時間だが、すごくいい子だってわかってしまった。
「俺も兄がいるけどね。うーん。ちょっとだけ優しいよ」
眉間に皺の寄ったブルース兄様を思い浮かべる。ついでに頼りないオーガス兄様も。
ブルース兄様は文句を言いつつも面倒見がいい。なにかと気にかけてくれる。でもはっきり優しいと口にするのが照れくさくて誤魔化せば、ヘイゼルが口元を緩める。どうやら俺の葛藤を察したらしい。「自分の兄を褒めるのは照れくさいものがありますね」と、控えめに発した彼女は悪戯っぽく微笑んでくれた。
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