いたずらっ子な転生者はおっきいもふもふを捕まえたい!

岩永みやび

文字の大きさ
105 / 105

105 いける気がする

しおりを挟む
 俺は頑張った。すごく頑張った。コンちゃんの邪魔をしないように最大限気を使った。そのおかげで、コンちゃんは上手いこと屋敷を抜け出す計画を思い付いたに違いない。

 夜。
 オリビアも就寝して寝室でひとりになった俺は、一緒に寝ていたユナを叩き起こす。

『なに』
「起きろ! コンちゃんの部屋に行くぞ」
『はぁ?』

 嫌だよ、面倒くさいと。
 ひどいことを吐き捨てるユナを抱えて、ポメちゃんに駆け寄る。昼も夜もずっと寝ているポメちゃんは、一体なにが楽しいのだろうか。そんなに無防備で、よく魔獣なんてやっていられたな。

 ポメちゃんの頭をペシペシ叩いて起こしてみる。しかしむにゃむにゃするだけで起きる気配のないポメちゃんは、なんかもうダメだと思う。

「いいや。ポメちゃんは置いて行こう」
『ボクのことも置いて行っていいよ』
「うるさいぞ!」
『うるさいのはそっちだろ』

 いちいち言い返してくる生意気猫の頭を叩いておく。あまり騒ぐとオリビアが様子を見に来るかもしれないから静かにするんだ。

 そうしてこっそり部屋を抜け出した俺は、コンちゃんが寝起きに使っている部屋に忍び込んだ。コンちゃんは人間を舐めているので基本的に鍵はかかっていない。

「何の用だ」

 やはり椅子に座ってぼんやりしていたコンちゃんは、俺の姿を確認するなり低い声を出した。コンちゃんは、ベッドであんまり眠らない。なんでだろう。あまり隙を見せたくないのだろうか。だったら部屋に鍵を掛ければ済む話なのにね。

 どうやらコンちゃん、眠る時はおっきいキツネ姿にならないと落ち着かないらしい。あの姿であれば、簡単にやられないもんね。

「コンちゃん。作戦できたのか?」

 暗闇の中、椅子に座って偉そうに腕を組んでいるコンちゃんに駆け寄る。

 微動だにしない彼の膝にユナを置いてみる。眉を寄せたコンちゃんが、ユナを払い落とした。猫が可哀想でしょうが。

「いつ街に行く? 明日? 明日でしょ!?」

 明日は俺も暇である。お出かけにはピッタリだと言えば、生意気猫が『ご主人様は毎日暇でしょ』とまた余計なことを言った。

 バッと両手をあげて、ユナを威嚇しておく。『いや、なにそれ。意味わかんない』と俺から距離を取るユナは、俺の威嚇にビビったらしい。猫に勝った!

 満足した俺は、コンちゃんに視線を戻す。

「いつでもいいが」
「じゃあ明日ね!」

 さすがコンちゃん。頼りになる。
 コンちゃんは、人間にも化けられるすごいキツネ魔獣なのだ。魔力量が多いと騎士団の面々もコンちゃんを褒めていた。褒められたコンちゃんは舌打ちしていたけど。

『やめた方がいいと思うけどなぁ』
「うるさいぞ、猫!」

 楽しい雰囲気に水を差すようなことを言うユナは、やる気がない。

 本当はポメちゃんも一緒にお出かけしたいのだが、あのぐうたらポメラニアンを移動させるのは至難の業だと思われる。なのでポメちゃんにはお留守番を任せようと思う。

「で!? どんな作戦?」

 オリビアの目を盗んで出かけるとなれば、まず邪魔になるのはルルである。緑と黄色が混じったような変な色したちっちゃい鳥。飛べるからといって、あいつは遠目からいつも俺のことを監視しているのだ。おまけにそれをオリビアに報告している。オリビアの子分の嫌な鳥である。

「あの鳥どうする? 捕まえて焼き鳥にする?」
『こっわ』

 やめなよ、と苦言を呈してくるユナを無視してコンちゃんが「そんな必要はない」と言った。

「焼かないで食べるってこと?」
「馬鹿」
「誰が馬鹿だ!」

 突然俺の悪口を吐いたコンちゃんは、腕を組んだまま俺を睨みつけてきた。うるさいと言わんばかりの表情である。

「あれはどうにでもなる。私があんな小鳥に遅れを取るわけがないだろう」
「ほほう」

 自信満々なコンちゃんは、ルルに負けないと宣言した。まぁそうだろうな。まず体の大きさからして違うからね。ルルなんて、コンちゃんの相手にもならないだろう。

 わくわくする俺であるが、コンちゃんの立てた計画はシンプルだった。ルルを捕まえて、オリビアに余計な報告がいく前に屋敷を抜け出すというものだった。

 肝心の屋敷を抜け出す方法なのだが、コンちゃんは人のいない裏手部分から行くべきだと言った。

「どうやって?」
「塀を乗り越える」
「おぉ……!」

 なんだかすごい気がする。
 俺ひとりではできない作戦だ。しかしコンちゃんが一緒であれば、塀を乗り越えるくらい簡単にできてしまうかもしれない。

 期待に目を輝かせた俺は、頑張る決意をした。

 作戦の実行は明日の朝。
 オリビアが騎士団の訓練に顔を出して、俺から目を離した隙に行うことになる。侍従のケイリーは簡単に撒けるので問題はない。いざとなったらポメちゃんにも協力してもらおう。

「いいか、猫。オリビアに余計なこと言うんじゃないぞ」
『はいはい』

 俺の行動に文句を言うユナである。作戦をオリビアに暴露されたらたまらない。しかし俺の使い魔のユナは、文句を言いつつも俺に従うのが常であった。

 今回もたぶん大丈夫。

 そうして俺は、明日に向けて気合いを入れた。
しおりを挟む
感想 8

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

ヨミン
2025.09.07 ヨミン

とても好きです!!

解除
ヨミン
2025.09.07 ヨミン

小説家になろうから来ました

BLじゃなかったから読まなかったけど
早く読めば良かった!!
本当に悪ガキなんですけど
なぜか憎めない…
岩永先生はそういう主人公の表現が
とても素晴らしいです!!

ルイスくんの幼少期(ユリス期)が
とても好きなので
類似してるこちらも大変、可愛らしかったです!

解除
あ。
2025.05.07 あ。

コンちゃん面倒見良いなw
態々危険なところに行かせないようにしてたし。
結局行こうとしてるけどw

解除

あなたにおすすめの小説

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。