いたずらっ子な転生者はおっきいもふもふを捕まえたい!

岩永みやび

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104 邪魔しない

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 コンちゃんは少し時間がほしいと言った。オリビアを出し抜くための作戦を立てるのに時間が必要らしい。本当であれば今すぐにでも街へと駆け出したい俺である。けれどもそんなことしてもオリビアにあっさり捕まってしまうだろう。

 仕方がないのでコンちゃんを待つことにする。

 コンちゃんは、ほとんど一日中ボケッとしている。そのぼんやり時間に作戦を立ててくれるらしい。なので俺は、できるだけコンちゃんの邪魔をしないようにしようと決めた。

 椅子に座ってぼんやりしているコンちゃんの横で、俺は静かに遊ぶ。

「猫! 毛をよこせ!」
『なんだって??』

 きょとんとするユナの前に立って、俺は腰に両手を当てた。ユナは灰色猫である。ちょっともふもふ。

 勢いよくユナの前に屈んで、ガシッと捕まえた。

『え? なに!? 毛がなんだって?』

 ジタバタするユナの頭をガシッと掴む。

『助けて! よくわかんないけど助けて!』
「うるさいぞ!」
『いや誰のせいだと思ってんのさ!』

 コンちゃんは作戦を立てるために集中しているんだぞ。邪魔をするんじゃない。ふにゃふにゃ暴れるユナをどうにか押さえつけて、俺は毛を掴んだ。そのまま引き抜こうとするけど、ユナはしぶとい。

『いや本当になにしてんの!?』
「毛! 毛をよこせ!」
『なんのために!』

 助けてぇと悲鳴をあげるユナ。これにコンちゃんが「うるさいっ」と大きな声を出した。仕方がないので一旦ユナから手を離す。途端に俺から距離を取るユナは『なにこの凶暴なガキ』と俺の悪口を言った。許せない。

 俺のどこが凶暴なんだ。俺は丁寧に毛を少しくださいとお願いしただけである。なんて失礼な猫。

 拳を握りしめて怒る俺に、コンちゃんが「静かにしろ」と低い声を出した。なんで俺のせいみたいになっているんだ。今のはどう考えても勝手に大暴れしたユナが悪いと思うぞ。

 半眼になる俺は、発散できない怒りを抱えたままポメちゃんに突進した。

 騒ぎを横目にすやすやお昼寝を続行していたポメちゃんは、俺がぶつかると薄目を開けた。

『なにぃ?』
「起きろ! ぐうたらポメラニアンめ!」
『変な呼び方しないでよね』

 眠そうな顔でむにゃむにゃと文句を言うポメちゃんは、大きく欠伸をした。

 そんな感じで騒いでいるとオリビアが戻ってきた。

「なんの騒ぎですか?」

 変な目で俺を見つめてくるオリビアは、普通に失礼だと思う。なんで最初から俺を疑うのだ。

 オリビアの足元に『助けてぇ』とすり寄って行くユナも生意気だ。その俺がいじめたみたいな態度をやめるんだ。

 案の定、オリビアの眉間に皺が寄った。

「オリビア、顔が怖いよ」

 皺をどうにかしないと手遅れになっちゃうよと親切心から指摘しておく。そんな風にいつも眉間に皺を寄せていたら、将来的にとれなくなっちゃう可能性が大だと思われる。

 しかしオリビアは俺の心配にますます皺を深くした。なんでだよ。

「テオ様がおとなしくしていてくだされば全部解決するんですけどね」
「なんでも俺のせいにしないで」

 どうしてオリビアの眉間の皺が俺のせいなんだ。言いがかりがひどい。

 むぎゅっと顔に力を入れて全力で不満を表しておく。それを半眼で眺めるオリビアは「ユナをいじめたらいけないと何度言ったら理解してくれるんですか?」と急に小言を吐き始めた。

「俺はいじめてない! この猫が勝手にいじめられてるだけ!」
『どういうことだよ……』

 意味のわかんない言い訳するなと、偉そうに口を挟んでくる生意気ユナ。隣にオリビアがいるからと随分強気である。

 キッとユナを睨みつけるけど、隣のオリビアが「テオ様」と低い声を出した。オリビアに喧嘩を売っても勝ち目はない。

「命拾いしたな、猫」

 捨て台詞を吐く俺に、ユナが『何なんだよ、一体』と呆れたように言った。

 こんな騒ぎがあったというのに、ぐうたらポメラニアンはのんびりお昼寝を継続中である。どういう神経しているのだろうか。少しは周りのことに興味を持てよ。そんなんでよく魔獣を名乗れるな。

 一方のコンちゃんは、オリビアが部屋に入ってきた途端に苦い顔になった。すんごく小さく舌打ちもしていた。コンちゃんは、どうしてそんなにオリビアのことが嫌いなのだろうか。よくわからない。

「オリビア! この猫が毛をくれない!」

 とりあえずユナの悪行を報告してみるが、オリビアは「は?」と言うだけでユナを叱らない。なんでだよ。こんなの不公平だろ。

「え、ちょっと待ってください。ユナの毛なんて。何に使うんですか?」

 真顔で問いかけてくるオリビアに、俺は「別に使わないけど」と教えてあげる。

「なんか欲しいからちょうだいって言っただけ。でもこの猫ケチだからくれない!」
『ボクの毛、引っこ抜こうとしただろ!』

 尻尾を立てて威嚇してくるユナ。生意気なのでその頭を叩いてやろうと右手を振り上げるけど、オリビアに止められてしまう。

「暴力はいけません」
「まだ叩いてないもん!」
「叩こうとしてたでしょ」
「まだ叩いてない!」
「いや、ですから」

 眉を寄せるオリビアは、やがて呆れたようにため息を吐いた。俺の顔を見てため息なんて、普通に失礼だぞ。
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