20 / 105
20 救出
ユナは、ちゃんとオリビアのことを呼んできてくれた。ついでにちっこい鳥であるルルも一緒だった。あの鳥、いままでどこに隠れていたのだろうか。俺の側で見張りをするという仕事はどうなったのだろうか。
木の上でシクシク泣く俺と、その下で困ったように立ち尽くすフレッド兄上を視界に入れるなり、オリビアは苦い顔をした。本音では苦言のひとつでも呈してやりたいが、兄上の手前強く出られずに困っているのだろう。兄上は、公爵家の長男である。オリビアの雇い主的立場だ。
俺相手には文句を言いまくるオリビアも、兄上相手だと遠慮するのだ。俺が子供だと思って馬鹿にしているに違いなかった。
「オリビアぁ。兄上がいじめてくる」
だが、そんな失礼オリビアも俺のことはちゃんと助けてくれる。とりあえず兄上の所業を報告しておけば、オリビアは何とも言えない顔をしてみせた。どう反応を返してよいのかわからないのだろう。
「そんなところに登るからですよ」
ようやくといった様子で口を開いたオリビアは、呆れたように俺と兄上を見比べている。
「今おろしてあげますから」
そう言って、携えていた腰の剣を鞘ごと兄上に預けたオリビアは、軽く腕をまわすと一番近い枝に手をかけた。そのまま身軽に登ってきた彼女は、あっという間に俺のところまでやって来る。
身動きするのも怖くて仕方がない俺は、なるべく下を見ないようにして固まっていることしかできない。そんな俺のことを軽々と抱き上げたオリビアは、「しっかり掴まっていてくださいね」と言い聞かせてくる。言われなくてもそのつもりだ。ぎゅっとオリビアの首に腕をまわしてしがみつく。片手で器用に俺のことを支えるオリビア。
そうして空いている方の手で枝を掴んだ彼女は、「いきますよ」と声をかけてから枝にぶら下がった。そのまま手を離して華麗に着地してみせる。さすが騎士。毎日体を鍛えているだけはある。
「はい。まったく。危ないことばかりして」
俺を地面に立たせたオリビアは、眉間に皺を寄せる。服を整えて、ついでに乱れてもいない俺の髪を撫で付ける彼女は、少しだけ動揺していたらしい。オリビアによる鮮やかな救出劇を見守っていた兄上は「なるほど。そうやって降ろすのか」と、ひとりで何度も頷いている。
ようやく地上に帰ってくることのできた俺は、安堵から流れた涙を袖で拭う。
「もう一生あのままかと思った」
オリビアにお礼を言えば、彼女は苦笑してしまう。その横では、兄上が「そんなわけないだろ」と呆れたように肩をすくめている。
兄上から剣を受け取って、再び腰に戻したオリビアは騎士っぽくてかっこいい。役に立たない兄上とは大違いだ。
「オリビアありがと。ずっと俺の護衛騎士やってていいよ。いままで邪魔だと思っててごめん」
「私のこと、邪魔だと思っていたのですか?」
虚をつかれたのか。動揺したように目を見張ったオリビアは、所在なさげに頬を掻いた。
だってオリビアは俺のやること全てを妨害してくる。本音を言えば、はやく新しい護衛と交代してほしいと思っていた。
「もっと優しい人がいいと思ってた。オリビア早く辞めればいいのにとか思っててごめんね」
「……そんなこと思ってたんですか? 私は、それを聞かされてどういう反応をすればいいのですか?」
偉そうに腕を組むオリビアは、なんだか怒っているようであった。そんな彼女の肩を叩いて、「すまない。テオはちょっと馬鹿なところがあるから」と、兄上がクソ失礼な発言をしている。兄上だって、俺に木から飛び降りろとか馬鹿な発言したくせに。
「ありがと、オリビア。お礼に俺の猫貸してあげる。今日は猫と一緒に寝てもいいよ」
『勝手にボクを貸すな』
俺の足元に座っていたユナを指差せば、オリビアは困ったように兄上に視線を向ける。
「どうにかしてくださいよ、フレッド様」
「どうにかって言われても」
こほんとわざとらしい咳払いをした兄上。
「いいか、テオ。これに懲りたらもう余計なことはするんじゃないぞ」
「うん」
もう怖い思いをするのはごめんだ。心配しなくとも、当分の間は木登りなんてしないから安心してほしい。
ユナを抱き上げて、オリビアに差し出す。だが、彼女は「お構いなく」と言って受け取ってくれない。
「なんで? 猫いらないの?」
「テオ様を助けることは私の仕事ですので」
だからお礼はいらないと言うオリビアは、いい人だった。だが、お断りされたユナが可哀想ではある。
「じゃあ兄上に貸してあげる」
兄上も、方法はちょっとあれだが、一応は俺を助けてくれようとした。感謝の気持ちとして猫を渡すが、兄上も受け取ってくれなかった。
「いらない」
「なんで?」
「私はもう大人だ。おまえと一緒にするな」
「どういう意味?」
よくわからないことを口走る兄上は、大きくため息を吐いた。
木の上でシクシク泣く俺と、その下で困ったように立ち尽くすフレッド兄上を視界に入れるなり、オリビアは苦い顔をした。本音では苦言のひとつでも呈してやりたいが、兄上の手前強く出られずに困っているのだろう。兄上は、公爵家の長男である。オリビアの雇い主的立場だ。
俺相手には文句を言いまくるオリビアも、兄上相手だと遠慮するのだ。俺が子供だと思って馬鹿にしているに違いなかった。
「オリビアぁ。兄上がいじめてくる」
だが、そんな失礼オリビアも俺のことはちゃんと助けてくれる。とりあえず兄上の所業を報告しておけば、オリビアは何とも言えない顔をしてみせた。どう反応を返してよいのかわからないのだろう。
「そんなところに登るからですよ」
ようやくといった様子で口を開いたオリビアは、呆れたように俺と兄上を見比べている。
「今おろしてあげますから」
そう言って、携えていた腰の剣を鞘ごと兄上に預けたオリビアは、軽く腕をまわすと一番近い枝に手をかけた。そのまま身軽に登ってきた彼女は、あっという間に俺のところまでやって来る。
身動きするのも怖くて仕方がない俺は、なるべく下を見ないようにして固まっていることしかできない。そんな俺のことを軽々と抱き上げたオリビアは、「しっかり掴まっていてくださいね」と言い聞かせてくる。言われなくてもそのつもりだ。ぎゅっとオリビアの首に腕をまわしてしがみつく。片手で器用に俺のことを支えるオリビア。
そうして空いている方の手で枝を掴んだ彼女は、「いきますよ」と声をかけてから枝にぶら下がった。そのまま手を離して華麗に着地してみせる。さすが騎士。毎日体を鍛えているだけはある。
「はい。まったく。危ないことばかりして」
俺を地面に立たせたオリビアは、眉間に皺を寄せる。服を整えて、ついでに乱れてもいない俺の髪を撫で付ける彼女は、少しだけ動揺していたらしい。オリビアによる鮮やかな救出劇を見守っていた兄上は「なるほど。そうやって降ろすのか」と、ひとりで何度も頷いている。
ようやく地上に帰ってくることのできた俺は、安堵から流れた涙を袖で拭う。
「もう一生あのままかと思った」
オリビアにお礼を言えば、彼女は苦笑してしまう。その横では、兄上が「そんなわけないだろ」と呆れたように肩をすくめている。
兄上から剣を受け取って、再び腰に戻したオリビアは騎士っぽくてかっこいい。役に立たない兄上とは大違いだ。
「オリビアありがと。ずっと俺の護衛騎士やってていいよ。いままで邪魔だと思っててごめん」
「私のこと、邪魔だと思っていたのですか?」
虚をつかれたのか。動揺したように目を見張ったオリビアは、所在なさげに頬を掻いた。
だってオリビアは俺のやること全てを妨害してくる。本音を言えば、はやく新しい護衛と交代してほしいと思っていた。
「もっと優しい人がいいと思ってた。オリビア早く辞めればいいのにとか思っててごめんね」
「……そんなこと思ってたんですか? 私は、それを聞かされてどういう反応をすればいいのですか?」
偉そうに腕を組むオリビアは、なんだか怒っているようであった。そんな彼女の肩を叩いて、「すまない。テオはちょっと馬鹿なところがあるから」と、兄上がクソ失礼な発言をしている。兄上だって、俺に木から飛び降りろとか馬鹿な発言したくせに。
「ありがと、オリビア。お礼に俺の猫貸してあげる。今日は猫と一緒に寝てもいいよ」
『勝手にボクを貸すな』
俺の足元に座っていたユナを指差せば、オリビアは困ったように兄上に視線を向ける。
「どうにかしてくださいよ、フレッド様」
「どうにかって言われても」
こほんとわざとらしい咳払いをした兄上。
「いいか、テオ。これに懲りたらもう余計なことはするんじゃないぞ」
「うん」
もう怖い思いをするのはごめんだ。心配しなくとも、当分の間は木登りなんてしないから安心してほしい。
ユナを抱き上げて、オリビアに差し出す。だが、彼女は「お構いなく」と言って受け取ってくれない。
「なんで? 猫いらないの?」
「テオ様を助けることは私の仕事ですので」
だからお礼はいらないと言うオリビアは、いい人だった。だが、お断りされたユナが可哀想ではある。
「じゃあ兄上に貸してあげる」
兄上も、方法はちょっとあれだが、一応は俺を助けてくれようとした。感謝の気持ちとして猫を渡すが、兄上も受け取ってくれなかった。
「いらない」
「なんで?」
「私はもう大人だ。おまえと一緒にするな」
「どういう意味?」
よくわからないことを口走る兄上は、大きくため息を吐いた。
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。
辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。