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57 おとなしくする
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もういじめちゃダメですよ、と。
やけにお姉さんぶって俺を叱りつけてくるオリビアから猫を奪い返す。
「勝手に俺の猫お世話しないで!」
ぎゅっと猫を抱きしめれば『く、苦しいぃ』という呻き声が聞こえてきて慌てて力を緩めた。その様子を、オリビアが冷たい目で見下ろしてくる。なんだその目は。文句があるなら言ってみろ。
「猫。俺が一緒に遊んでやるからな」
『うへぇ。全然わかってないじゃん、ご主人様』
ぶつぶつ言う猫をしっかり抱えて、屋敷に駆け込む。オリビアが慌てて追いかけてくる。
「ついてくるな! 訓練はどうした!」
「もう終わりましたよ」
俺は全力で走っているのに涼しい顔でついてくるオリビアは、隣に並んでくる。なんて嫌な奴。こっちは七歳だぞ。手加減しろ。
ムシャクシャしたので、屋敷内を出鱈目に走ってやる。わーっと勢いよくバタバタ走っていれば、オリビアが「こら!」と言いながら俺の肩を掴んできた。
「なにをする!」
「暴れない! 走らない!」
「走ってない!」
なんでそんな無意味な嘘を吐くんですか、と眉間に皺を寄せるオリビアは俺を抱っこしてしまう。おろせと暴れてやるが、オリビアは動じない。
「……脳筋め」
「なんですって?」
眉を吊り上げるオリビアに、俺は猫を抱きしめる。『おろせよ』とぐちぐちうるさい猫が我儘なのはいつものことだ。
俺を抱えたままオリビアは俺の部屋に入る。
「少しはおとなしくできないんですか」
「俺はいつもおとなしい」
「堂々と嘘を吐かないでください」
失礼な物言いをするオリビアは、俺を部屋におろすと腕を組んだ。
「ポメちゃん! お利口さんにしてたか?」
部屋の中央でぐだっと寝ているポメちゃんに近寄って、毛をわしゃわしゃ撫でる。やる気なしポメラニアンであるポメちゃんは、一日の大半を寝て過ごしている。なんでこんなに寝ているのか。暇じゃないのだろうか。
「オリビアも触っていいよ」
むすっとした顔で突っ立っているオリビアに声をかければ、彼女は無言で隣にやってきた。そして俺がぐしゃぐしゃにしたポメちゃんの毛を丁寧に整えるように撫でていく。
なんとなくオリビアとポメちゃんを見比べて、再びぐうたらポメちゃんをわしゃわしゃする。
ボサボサになったでっかいポメラニアンを見て笑っていれば、オリビアが「そんなことしない」と言いながらまた毛を綺麗にし始める。
「ポメちゃんのこと好きなのか?」
オリビアは俺の猫も勝手にお世話している。もしやポメちゃんも狙っているのか。
すかさずポメちゃんに抱きつけば、オリビアが「優しくしないとダメですよ」と小言をぶつけてきた。
どうやらオリビアは動物が好きみたい。これは魔獣だけど、害がないから似たようなものだ。
ポメちゃんの頭をペシペシしながら、オリビアを窺う。相変わらずお綺麗な顔をしている彼女は、眉間に皺がなければ優しそうなお姉さんだ。
「ちっこい鳥は? どこ?」
遊ぶからちょっと貸してと右手を差し出せば、オリビアは「ルルですか?」と窓の外に視線をやった。
「近くにいると思いますけど」
「呼んで。俺が呼んでも出てこないの」
「それはテオ様が乱暴なことするから」
俺がいつ乱暴なことしたって言うんだ。毎日楽しく遊んであげてただろうが。
「ルルとなに話すの。あの鳥口悪いでしょ」
ルルという可愛らしい名前なのに、口を開けばおっさんみたい。オリビアとどんな会話しているのか想像できない。
「普通に。今日はテオ様がどんな悪戯してたとか」
「俺は悪戯なんてしないけど?」
「よくそんなことが言えますね?」
俺の頭を軽く撫でてくるオリビアは「テオ様がもう少しお利口さんになってくれたら私も楽なんですが」と肩をすくめる。
俺は前世の記憶がある賢い子だぞ。そこら辺の七歳児と一緒にされたら困る。
だが、俺の前世の件はいまいち周りが信用してくれない。兄上なんて前世の話をしても「そうか」で流してしまう。なんて素っ気ない兄。弟にはもうちょっと優しくするべきだと思う。
『重いぃ』
オリビアとのんびり会話していれば、ポメちゃんがそう呻いた。俺は現在、ポメちゃんの上に座っていた。ハッとしたオリビアが俺のことを抱えてポメちゃんの上からおろしてしまう。
文句ばっかりの我儘ポメちゃんは、大きく欠伸をして体を伸ばした。それに猫がビビって距離をとっている。
ポメちゃんはおとなしいけど、体が大きいのでちょっぴり怖く見えてしまう。騎士団も最初はポメちゃんのことをすごく警戒していた。見た目もライオンみたいで凶暴そうだから。
でもポメちゃんはおとなしい。俺ががっかりするくらい物静かだ。俺としてはもっとでっかいペットと庭で遊びたかった。何度もポメちゃんを庭に引き摺り出そうと頑張ったのだが、上手くいかなかった。
「ポメちゃん、庭で遊ぼう」
『嫌だ。めんどう』
「やる気なしポメラニアンめ」
『変なあだ名つけないでよ』
我儘ポメちゃんの頭を叩いて、窓の外を眺める。俺がまたポメちゃんにのって庭を散歩できる日は果たしてくるのだろうか。来ない気がする。
やけにお姉さんぶって俺を叱りつけてくるオリビアから猫を奪い返す。
「勝手に俺の猫お世話しないで!」
ぎゅっと猫を抱きしめれば『く、苦しいぃ』という呻き声が聞こえてきて慌てて力を緩めた。その様子を、オリビアが冷たい目で見下ろしてくる。なんだその目は。文句があるなら言ってみろ。
「猫。俺が一緒に遊んでやるからな」
『うへぇ。全然わかってないじゃん、ご主人様』
ぶつぶつ言う猫をしっかり抱えて、屋敷に駆け込む。オリビアが慌てて追いかけてくる。
「ついてくるな! 訓練はどうした!」
「もう終わりましたよ」
俺は全力で走っているのに涼しい顔でついてくるオリビアは、隣に並んでくる。なんて嫌な奴。こっちは七歳だぞ。手加減しろ。
ムシャクシャしたので、屋敷内を出鱈目に走ってやる。わーっと勢いよくバタバタ走っていれば、オリビアが「こら!」と言いながら俺の肩を掴んできた。
「なにをする!」
「暴れない! 走らない!」
「走ってない!」
なんでそんな無意味な嘘を吐くんですか、と眉間に皺を寄せるオリビアは俺を抱っこしてしまう。おろせと暴れてやるが、オリビアは動じない。
「……脳筋め」
「なんですって?」
眉を吊り上げるオリビアに、俺は猫を抱きしめる。『おろせよ』とぐちぐちうるさい猫が我儘なのはいつものことだ。
俺を抱えたままオリビアは俺の部屋に入る。
「少しはおとなしくできないんですか」
「俺はいつもおとなしい」
「堂々と嘘を吐かないでください」
失礼な物言いをするオリビアは、俺を部屋におろすと腕を組んだ。
「ポメちゃん! お利口さんにしてたか?」
部屋の中央でぐだっと寝ているポメちゃんに近寄って、毛をわしゃわしゃ撫でる。やる気なしポメラニアンであるポメちゃんは、一日の大半を寝て過ごしている。なんでこんなに寝ているのか。暇じゃないのだろうか。
「オリビアも触っていいよ」
むすっとした顔で突っ立っているオリビアに声をかければ、彼女は無言で隣にやってきた。そして俺がぐしゃぐしゃにしたポメちゃんの毛を丁寧に整えるように撫でていく。
なんとなくオリビアとポメちゃんを見比べて、再びぐうたらポメちゃんをわしゃわしゃする。
ボサボサになったでっかいポメラニアンを見て笑っていれば、オリビアが「そんなことしない」と言いながらまた毛を綺麗にし始める。
「ポメちゃんのこと好きなのか?」
オリビアは俺の猫も勝手にお世話している。もしやポメちゃんも狙っているのか。
すかさずポメちゃんに抱きつけば、オリビアが「優しくしないとダメですよ」と小言をぶつけてきた。
どうやらオリビアは動物が好きみたい。これは魔獣だけど、害がないから似たようなものだ。
ポメちゃんの頭をペシペシしながら、オリビアを窺う。相変わらずお綺麗な顔をしている彼女は、眉間に皺がなければ優しそうなお姉さんだ。
「ちっこい鳥は? どこ?」
遊ぶからちょっと貸してと右手を差し出せば、オリビアは「ルルですか?」と窓の外に視線をやった。
「近くにいると思いますけど」
「呼んで。俺が呼んでも出てこないの」
「それはテオ様が乱暴なことするから」
俺がいつ乱暴なことしたって言うんだ。毎日楽しく遊んであげてただろうが。
「ルルとなに話すの。あの鳥口悪いでしょ」
ルルという可愛らしい名前なのに、口を開けばおっさんみたい。オリビアとどんな会話しているのか想像できない。
「普通に。今日はテオ様がどんな悪戯してたとか」
「俺は悪戯なんてしないけど?」
「よくそんなことが言えますね?」
俺の頭を軽く撫でてくるオリビアは「テオ様がもう少しお利口さんになってくれたら私も楽なんですが」と肩をすくめる。
俺は前世の記憶がある賢い子だぞ。そこら辺の七歳児と一緒にされたら困る。
だが、俺の前世の件はいまいち周りが信用してくれない。兄上なんて前世の話をしても「そうか」で流してしまう。なんて素っ気ない兄。弟にはもうちょっと優しくするべきだと思う。
『重いぃ』
オリビアとのんびり会話していれば、ポメちゃんがそう呻いた。俺は現在、ポメちゃんの上に座っていた。ハッとしたオリビアが俺のことを抱えてポメちゃんの上からおろしてしまう。
文句ばっかりの我儘ポメちゃんは、大きく欠伸をして体を伸ばした。それに猫がビビって距離をとっている。
ポメちゃんはおとなしいけど、体が大きいのでちょっぴり怖く見えてしまう。騎士団も最初はポメちゃんのことをすごく警戒していた。見た目もライオンみたいで凶暴そうだから。
でもポメちゃんはおとなしい。俺ががっかりするくらい物静かだ。俺としてはもっとでっかいペットと庭で遊びたかった。何度もポメちゃんを庭に引き摺り出そうと頑張ったのだが、上手くいかなかった。
「ポメちゃん、庭で遊ぼう」
『嫌だ。めんどう』
「やる気なしポメラニアンめ」
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