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64 お小遣い
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ガサゴソと遠慮なしに俺のバッグをあさる副団長を半眼で眺める。
「ひどいね。人の荷物を狙うなんて」
『たいした物入ってないでしょ』
ユナを抱っこしてこそこそ耳打ちしていれば、副団長が「げ!」と大声を発した。突然のことに、腕の中のユナをぎゅっと抱きしめてしまった。『いたい!』とユナが悲鳴を上げたので慌てて力を緩める。
団長も驚いたようで「なんだ。どうした」とデリック副団長に詰め寄っている。副団長が引きつった顔で取り出したのは、俺のお小遣い入れ。ちらっと横から覗き込んだ団長も「え?」と驚愕の表情で固まってしまう。
「ちょっとテオ様。なんでこんな大金持ち歩いてるんですか」
「大金なの?」
俺はまだ七歳である。おまけに両親やら兄やらが過保護のためろくに買い物もしたことない。正直言ってこの国における平均的な給料の額とかも知らない。
お父様があっさりくれたお小遣いだからそこまでたいした金額でもないと思っていた。けれども違ったらしい。団長と副団長の反応を見る限り結構な額のようだ。お父様、俺に甘すぎない?
さっとお小遣いをバッグに押し込む副団長は「いいですか。それを誰かに見せたらダメですよ」と真剣な眼差しで言い聞かせてくる。子供が大金を持ち歩いていると知られれば狙われるかもしれないからね。心配しなくても、堂々と取り出したりしないから大丈夫。俺に任せておけ。
ユナも魔獣だから、人間世界のお金には詳しくない。『え? それってそんなにまずい額?』と目をぱちぱちさせている。
しっかりバッグの奥底にお小遣いを隠した副団長は「落としたりしないでくださいね」と心配な面持ちでバッグを返してくれた。ぎゅっと体の前で抱え込めば、「普通に持っていていいですよ」と苦笑されてしまった。
いかにも大事ですみたいな持ち方をすれば怪しまれるということだ。なるほどね。
アドバイスに従って、いつも通りにバッグを肩にかける。
「じゃあ、俺はちょっと遊んでくるね」
ばいばいと手を振って駆け出そうとするが、副団長にあっさり捕まってしまった。どさくさに紛れて逃げようと思ったのに。悔しい。
「お金ちょっとあげるから見逃して」
こうなったら賄賂をあげてどうにかしよう。いそいそお金を取り出そうとすれば、慌てた副団長が腕を掴んで止めに入る。
「いけませんよ、テオ様」
「ケチ」
ため息を吐いて団長へと向き直る副団長は、「テオ様を屋敷に連れて帰ります」と勝手に宣言してしまう。俺はその提案に同意していませんけど?
頷く団長は「何人かつけよう」と騎士たちが集まる場所へと歩いて行ってしまう。俺は帰りませんけど?
「猫。今のうちに逃げるぞ」
走る準備をしておけと足元のユナに声をかければ、「逃しませんよ」と副団長が俺を抱っこしてしまう。
「おろせ! 勝手に抱っこするな!」
「いって、ちょっと」
ペシペシ副団長の頭を叩いてやる。
それでも頑なに俺をおろさない副団長は生意気だ。
「兄上に言ってやる!」
「ご自由にどうぞ」
「お父様に言ってやる!」
「それはちょっと勘弁してください」
お父様は俺に激甘である。ちょっと泣き真似して告げ口すれば、「可哀想に。大変だったね」と俺の味方をしてくれるのだ。兄上よりもずっと頼りになる。
副団長もそれを知っているのだろう。眉尻を下げて困っている。
「告げ口されたくなければ俺を離せ」
「それは無理ですね。テオ様に万が一のことがあれば私の責任になるので」
「大丈夫だよ。俺は大人だからね。ひとりでも問題ないよ」
「七歳は大人じゃないですよ」
「大人だもん!」
ムキになって言い返すが、副団長は笑って流してしまう。今の話のどこに笑う要素があったのだ。
たしかに七歳だけど、俺には前世の記憶がある。ちょびっとだけど。
「はいはい。とにかく屋敷に戻りましょうね」
話を聞かない副団長が俺を馬車に乗せようとしたその時であった。
広場に集まっていた騎士たちがざわざわし始めた。怒鳴り声が飛び交い、バタバタと慌ただしく走りまわっている。突然ざわつき始めた街の広場に、副団長も眉を寄せた。俺と副団長は現在、広場の隅に停車していた騎士団の馬車にいた。
「なんでしょうか」
険しい表情になった副団長が「テオ様はここを動かないでくださいね」と言い置いて団長のもとへと走って行く。
ただ事ではない雰囲気に、ユナと顔を見合わせる。馬車をおりて様子を窺おうとするけど、俺の身長ではなにも見えない。
「行くぞ、猫」
『おとなしくしてろって言われたでしょ』
「言われただけで俺は同意していない」
『なにその屁理屈』
とりあえず騎士たちが集まる場所へと行く。ざわざわすると何が起きているのか気になって仕方がない。野次馬しに行くのだ。
ユナも騎士たちのところへ行くのであればと強くは反対してこない。団長と副団長のところへ行くだけだもんね。ひとりで馬車にいるよりずっと安全だと思う。
「ひどいね。人の荷物を狙うなんて」
『たいした物入ってないでしょ』
ユナを抱っこしてこそこそ耳打ちしていれば、副団長が「げ!」と大声を発した。突然のことに、腕の中のユナをぎゅっと抱きしめてしまった。『いたい!』とユナが悲鳴を上げたので慌てて力を緩める。
団長も驚いたようで「なんだ。どうした」とデリック副団長に詰め寄っている。副団長が引きつった顔で取り出したのは、俺のお小遣い入れ。ちらっと横から覗き込んだ団長も「え?」と驚愕の表情で固まってしまう。
「ちょっとテオ様。なんでこんな大金持ち歩いてるんですか」
「大金なの?」
俺はまだ七歳である。おまけに両親やら兄やらが過保護のためろくに買い物もしたことない。正直言ってこの国における平均的な給料の額とかも知らない。
お父様があっさりくれたお小遣いだからそこまでたいした金額でもないと思っていた。けれども違ったらしい。団長と副団長の反応を見る限り結構な額のようだ。お父様、俺に甘すぎない?
さっとお小遣いをバッグに押し込む副団長は「いいですか。それを誰かに見せたらダメですよ」と真剣な眼差しで言い聞かせてくる。子供が大金を持ち歩いていると知られれば狙われるかもしれないからね。心配しなくても、堂々と取り出したりしないから大丈夫。俺に任せておけ。
ユナも魔獣だから、人間世界のお金には詳しくない。『え? それってそんなにまずい額?』と目をぱちぱちさせている。
しっかりバッグの奥底にお小遣いを隠した副団長は「落としたりしないでくださいね」と心配な面持ちでバッグを返してくれた。ぎゅっと体の前で抱え込めば、「普通に持っていていいですよ」と苦笑されてしまった。
いかにも大事ですみたいな持ち方をすれば怪しまれるということだ。なるほどね。
アドバイスに従って、いつも通りにバッグを肩にかける。
「じゃあ、俺はちょっと遊んでくるね」
ばいばいと手を振って駆け出そうとするが、副団長にあっさり捕まってしまった。どさくさに紛れて逃げようと思ったのに。悔しい。
「お金ちょっとあげるから見逃して」
こうなったら賄賂をあげてどうにかしよう。いそいそお金を取り出そうとすれば、慌てた副団長が腕を掴んで止めに入る。
「いけませんよ、テオ様」
「ケチ」
ため息を吐いて団長へと向き直る副団長は、「テオ様を屋敷に連れて帰ります」と勝手に宣言してしまう。俺はその提案に同意していませんけど?
頷く団長は「何人かつけよう」と騎士たちが集まる場所へと歩いて行ってしまう。俺は帰りませんけど?
「猫。今のうちに逃げるぞ」
走る準備をしておけと足元のユナに声をかければ、「逃しませんよ」と副団長が俺を抱っこしてしまう。
「おろせ! 勝手に抱っこするな!」
「いって、ちょっと」
ペシペシ副団長の頭を叩いてやる。
それでも頑なに俺をおろさない副団長は生意気だ。
「兄上に言ってやる!」
「ご自由にどうぞ」
「お父様に言ってやる!」
「それはちょっと勘弁してください」
お父様は俺に激甘である。ちょっと泣き真似して告げ口すれば、「可哀想に。大変だったね」と俺の味方をしてくれるのだ。兄上よりもずっと頼りになる。
副団長もそれを知っているのだろう。眉尻を下げて困っている。
「告げ口されたくなければ俺を離せ」
「それは無理ですね。テオ様に万が一のことがあれば私の責任になるので」
「大丈夫だよ。俺は大人だからね。ひとりでも問題ないよ」
「七歳は大人じゃないですよ」
「大人だもん!」
ムキになって言い返すが、副団長は笑って流してしまう。今の話のどこに笑う要素があったのだ。
たしかに七歳だけど、俺には前世の記憶がある。ちょびっとだけど。
「はいはい。とにかく屋敷に戻りましょうね」
話を聞かない副団長が俺を馬車に乗せようとしたその時であった。
広場に集まっていた騎士たちがざわざわし始めた。怒鳴り声が飛び交い、バタバタと慌ただしく走りまわっている。突然ざわつき始めた街の広場に、副団長も眉を寄せた。俺と副団長は現在、広場の隅に停車していた騎士団の馬車にいた。
「なんでしょうか」
険しい表情になった副団長が「テオ様はここを動かないでくださいね」と言い置いて団長のもとへと走って行く。
ただ事ではない雰囲気に、ユナと顔を見合わせる。馬車をおりて様子を窺おうとするけど、俺の身長ではなにも見えない。
「行くぞ、猫」
『おとなしくしてろって言われたでしょ』
「言われただけで俺は同意していない」
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