いたずらっ子な転生者はおっきいもふもふを捕まえたい!

岩永みやび

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66 もふもふ

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 暇な俺は、時折「魔獣見たいなぁ」と呟きながらエルドと一緒におとなしくしていた。お利口さんなので。

 そうしてどれくらいが経っただろうか。
 魔獣が出たというのに、街の中心にある広場にはのんびりとした空気が流れている。エルドによれば、このような事態は珍しくないらしい。

 先日も街中に出現したおっきいもふもふ魔獣を騎士団が確保したばかり。そう。あのぐうたらポメラニアンのことである。

 ポメちゃんは、街中に現れたはいいが騒ぐことなく呑気に寝ていたのだという。しかし見た目がちょっぴりライオンに似ていて凶暴そう。居座られて困った末に、騎士団が確保してエヴァンズ家に連れ帰ってきたのだとか。

 なので住民のみなさんもこういう事態には慣れているらしく、必要以上にパニックになることはない。

「ポメちゃんも来ればよかったのに。新しい魔獣と戦わせてどっちが強いか決めるんだ」
「あの魔獣は戦闘向きなんですか?」

 どうだろう。見た目はライオンだけど、中身は本当にポメラニアンのような弱さだ。戦闘向きには見えない。他の魔獣と戦っても、すぐに負けちゃうかもしれないな。いや、そもそも面倒くさがって戦うことすらしないだろう。なんて情けない魔獣なんだ。

 そんなどうでもいい雑談をしていた時である。突如広場の一角から悲鳴が上がった。

 ビクッと肩を揺らす俺に、エルドが素早く腰の剣に手をかけた。

「え? なに? どうしたの?」

 状況がわからず立ち尽くす俺の耳に、「魔獣だ!」という叫び声が届いた。

 え、魔獣? だって団長たちが討伐に向かったはずじゃあ。

 一瞬で広場がパニックになる。
 見えないところで魔獣が出現したのと、実際に魔獣が目の前に現れたのでは恐怖が段違いだ。先程までの緩い空気が霧散して、あちらこちらへと人が好き勝手に逃げ回るのでもう滅茶苦茶だ。

 広場の隅で固まる俺の前に、エルドが立つ。

 そのうち逃げ惑う人々の合間から魔獣の姿が見えた。

「わ!」

 目に飛び込んできた魔獣に、俺は目を丸くする。

 あれは……! おっきいキツネ!

 もふもふしている魔獣は、ポメちゃんよりも確実に大きい。

「ふわふわ! もふもふだ!」

 きゃあと悲鳴をあげる俺に、エルドが「テオ様。一旦落ち着きましょうか」と肩越しに声をかけてくる。ユナも『はしゃいでる場合じゃないよ!』と呆れたように俺の足に寄り添ってくる。自分よりもおっきな魔獣にビビっているらしい。

 落ち着けるか。

 白いキツネだ。すごく大きい。座った際の身長が団長よりも高いだろう。特に首元がもふもふしている。襟巻きみたいに首の周りだけが薄く青付いている。青いマフラーを巻いているみたいだ。ふんわりと膨らんだ尻尾の先も青色が混じっている。すごく可愛い。

 白と青のキツネだ。

 現れたキツネは、細い目をさらに細めて広場を見渡している。ぱっと見たところ外傷はなく、もふもふしている。

 おそらく団長たちが討伐に向かった魔獣だろう。大きいから足が速いのかもしれない。騎士たちから逃げてここに迷い込んだのだろうか。

 逃げ惑う人々をのんびり眺めている魔獣は、やがてお座りの体勢をやめて四つ足で歩き始めた。品定めするように視線を走らせるキツネ魔獣に、広場から人の姿が消え始める。みんな一心不乱に広場から出ていく。

 エルドが剣を抜いた。

「テオ様も逃げて、っ!」

 エルドが俺を振り返った一瞬のことであった。
 剣を確認したキツネ魔獣が、エルドに向かって突っ込んできたのだ。

 なんとか突撃を免れたエルドであるが、ぽかんと立ち尽くしていた俺と離れてしまう。なにやらエルドが「テオ様! 逃げてください!」と叫んでいるが、どこに逃げればいいのかわからない。目の前には、こちらを見下ろすキツネがいる。

 みんな逃げたのだろう。避難する住民たちと入れ替わるように、こちらへ走ってくる騎士たちの姿が見えた。魔獣を追いかけてきたらしい。

 再びざわつき始める広場。
 キツネ魔獣がくるりと俺に背を向けて、集まってきた騎士たちをじっと見据えている。キツネの視線が逸れた隙を狙って、エルドがこちらに駆けてくる。

 俺の目の前には、もっふもふの尻尾。

 釣られるように一歩前に出れば、ユナが『やめなよ! ちょっと!』と声を荒げる。それを無視して、俺の手はもふもふに吸い寄せられる。
 
『あ! こら!』

 ユナが俺のズボンの裾を噛んでくるけど気にしない。エルドが「テオ様!?」と悲鳴のような声をあげているが、それどころではない。

 ぽふっと。

 俺の手がキツネのもふもふ尻尾に触れた。
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