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70 バチバチ
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屋敷に到着するなり、オリビアがすごい勢いで馬車に乗り込んできた。そうしてあっという間に俺を抱っこして馬車をおりるオリビアは「なんて無茶なことをするんですか」と急に叱りつけてくる。
どうやら屋敷までの道中、副団長たちから俺がおっきいキツネ魔獣を捕まえたと聞いたらしい。馬車の中にいると知って慌てたのだろう。
でも心配せずともコンちゃんはおとなしい魔獣だ。どこか人間を下に見ているような気はするが、無駄な争い事は嫌いなタイプなのだと思う。コンちゃんも「私は理性を持った崇高な存在だ。感情のままに暴れるほど下品ではない」と刺々しい物言いをしていた。
なんというか鼻につく言い草である。全力で人間を見下していることが言葉の端々から察せられる。性格の悪そうな魔獣だな。もふもふキツネじゃなければ絶対に側には置きたくないタイプだ。
コンちゃんは、おそらくオリビアとは合わないだろう。癖の強い魔獣をペットにしてしまった。
オリビアに抱っこされたまま彼女の話をはいはい聞き流す俺は、馬車から視線を外せない。
俺のあとを追いかけるように飛び降りてきたユナが『あー、疲れた。なんでボクがこんな苦労を』とひとりでぐちぐち言っている。ユナは別に何もしていないだろう。俺の背後をとことこ歩いていただけだ。なにその苦労アピール。
それに続いて降りてくるコンちゃんは、無表情で佇んでいる。ちらっと周囲を見渡して、退屈そうに鼻を鳴らしている。
この魔獣、全然可愛くないな。
「コンちゃん。キツネに戻って!」
もふもふキツネ姿であれば俺は楽しくコンちゃんと遊べるだろう。愛想の悪いお兄さん姿では、視界に入っても何ひとつテンション上がらない。
お願いと懇願するが、コンちゃんは無視してくる。
オリビアは「コンちゃん?」と訝しみながら俺のことを抱え直す。
「あれ、コンちゃん。俺が捕まえたおっきいもふもふ。今はもふもふでもないし、おっきくもないけど」
「……」
いやコンちゃんは背が高いけどね。でもキツネ姿の時はもっと大きかった。おそらく今のコンちゃんが人間の中に混じっていても、誰も彼が魔獣だとは疑わないだろう。それくらい完璧な擬態である。嬉しくない。
せめて尻尾くらいは残しておいてほしかった。もふもふを常に側に置いて愛でたい。冷たい目の成人男性を側に置いても楽しくはないだろう。
「本当に使い魔に?」
疑うようなオリビアの問いかけに、こくんと頷く。きちんと契約できたのは事実である。コンちゃんだって俺の言うことには不服そうではあるが従ってくれる。
俺の額に触ったり、頭を撫でたり。しきりに触ってくるオリビアは「体調に変化は?」と真剣な眼差しで確認してくる。大丈夫。異変はない。すごく元気である。
「暴れたりしないでしょうね?」
険しい顔でコンちゃんを見るオリビア。それを受けて、コンちゃんが負けじと険しい表情をしてみせる。
バチバチと無言の睨み合いを繰り広げるふたり。交互にその顔を見比べて「仲良くしないとダメだよ」と割り込んでおく。先に視線を逸らしたのは意外にもコンちゃんであった。てっきり人間に負けるなんてプライドが許さないのかと。
しかしコンちゃんは、大袈裟に肩をすくめると薄く笑った。意地の悪い笑みだ。まるでオリビアのことなんて眼中にないと言わんばかりの態度に、オリビアが眉を寄せる。
「仲良くして?」
ペシペシと彼女の腕を叩くが「それはあちら次第です」という淡々とした声。仲良くする気ないな、こいつ。
ピリピリした空気の中、オリビアの抱っこから抜け出そうと奮闘する。けれども逆に腕に力を込めてくる脳筋オリビアのせいで上手くいかない。七歳児の俺が力でオリビアに勝とうなんて到底無理な話である。
「コンちゃんは俺のペット。ポメちゃんにもご紹介する」
眉間に皺を寄せて俺を見下ろすオリビアは、コンちゃんのことが嫌いなのだろう。しかも見た目が完全に人間なので、どう扱えばいいのか迷っているらしい。
「コンちゃん。オリビアと仲良くしてね」
とりあえずコンちゃんにも協力するよう要請すれば、ふいと顔を逸らされてしまう。都合の悪い言葉は無視するつもりか。
慌ただしく馬車の片付けなどをする騎士たちを横目に、オリビアはため息を吐く。そうして俺の部屋目指して歩き始めた彼女の後ろを、当然のような顔でコンちゃんがついてくる。
当面の間は、コンちゃんが誰かと喧嘩しないように注意して見ておかないと。でもコンちゃんは喧嘩なんて野蛮だと思っていそうなので大丈夫かな。口喧嘩はしそうだけど。
どうやら屋敷までの道中、副団長たちから俺がおっきいキツネ魔獣を捕まえたと聞いたらしい。馬車の中にいると知って慌てたのだろう。
でも心配せずともコンちゃんはおとなしい魔獣だ。どこか人間を下に見ているような気はするが、無駄な争い事は嫌いなタイプなのだと思う。コンちゃんも「私は理性を持った崇高な存在だ。感情のままに暴れるほど下品ではない」と刺々しい物言いをしていた。
なんというか鼻につく言い草である。全力で人間を見下していることが言葉の端々から察せられる。性格の悪そうな魔獣だな。もふもふキツネじゃなければ絶対に側には置きたくないタイプだ。
コンちゃんは、おそらくオリビアとは合わないだろう。癖の強い魔獣をペットにしてしまった。
オリビアに抱っこされたまま彼女の話をはいはい聞き流す俺は、馬車から視線を外せない。
俺のあとを追いかけるように飛び降りてきたユナが『あー、疲れた。なんでボクがこんな苦労を』とひとりでぐちぐち言っている。ユナは別に何もしていないだろう。俺の背後をとことこ歩いていただけだ。なにその苦労アピール。
それに続いて降りてくるコンちゃんは、無表情で佇んでいる。ちらっと周囲を見渡して、退屈そうに鼻を鳴らしている。
この魔獣、全然可愛くないな。
「コンちゃん。キツネに戻って!」
もふもふキツネ姿であれば俺は楽しくコンちゃんと遊べるだろう。愛想の悪いお兄さん姿では、視界に入っても何ひとつテンション上がらない。
お願いと懇願するが、コンちゃんは無視してくる。
オリビアは「コンちゃん?」と訝しみながら俺のことを抱え直す。
「あれ、コンちゃん。俺が捕まえたおっきいもふもふ。今はもふもふでもないし、おっきくもないけど」
「……」
いやコンちゃんは背が高いけどね。でもキツネ姿の時はもっと大きかった。おそらく今のコンちゃんが人間の中に混じっていても、誰も彼が魔獣だとは疑わないだろう。それくらい完璧な擬態である。嬉しくない。
せめて尻尾くらいは残しておいてほしかった。もふもふを常に側に置いて愛でたい。冷たい目の成人男性を側に置いても楽しくはないだろう。
「本当に使い魔に?」
疑うようなオリビアの問いかけに、こくんと頷く。きちんと契約できたのは事実である。コンちゃんだって俺の言うことには不服そうではあるが従ってくれる。
俺の額に触ったり、頭を撫でたり。しきりに触ってくるオリビアは「体調に変化は?」と真剣な眼差しで確認してくる。大丈夫。異変はない。すごく元気である。
「暴れたりしないでしょうね?」
険しい顔でコンちゃんを見るオリビア。それを受けて、コンちゃんが負けじと険しい表情をしてみせる。
バチバチと無言の睨み合いを繰り広げるふたり。交互にその顔を見比べて「仲良くしないとダメだよ」と割り込んでおく。先に視線を逸らしたのは意外にもコンちゃんであった。てっきり人間に負けるなんてプライドが許さないのかと。
しかしコンちゃんは、大袈裟に肩をすくめると薄く笑った。意地の悪い笑みだ。まるでオリビアのことなんて眼中にないと言わんばかりの態度に、オリビアが眉を寄せる。
「仲良くして?」
ペシペシと彼女の腕を叩くが「それはあちら次第です」という淡々とした声。仲良くする気ないな、こいつ。
ピリピリした空気の中、オリビアの抱っこから抜け出そうと奮闘する。けれども逆に腕に力を込めてくる脳筋オリビアのせいで上手くいかない。七歳児の俺が力でオリビアに勝とうなんて到底無理な話である。
「コンちゃんは俺のペット。ポメちゃんにもご紹介する」
眉間に皺を寄せて俺を見下ろすオリビアは、コンちゃんのことが嫌いなのだろう。しかも見た目が完全に人間なので、どう扱えばいいのか迷っているらしい。
「コンちゃん。オリビアと仲良くしてね」
とりあえずコンちゃんにも協力するよう要請すれば、ふいと顔を逸らされてしまう。都合の悪い言葉は無視するつもりか。
慌ただしく馬車の片付けなどをする騎士たちを横目に、オリビアはため息を吐く。そうして俺の部屋目指して歩き始めた彼女の後ろを、当然のような顔でコンちゃんがついてくる。
当面の間は、コンちゃんが誰かと喧嘩しないように注意して見ておかないと。でもコンちゃんは喧嘩なんて野蛮だと思っていそうなので大丈夫かな。口喧嘩はしそうだけど。
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