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75 ご紹介
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頭が痛いと若干ふらふらしながら部屋に戻って行く兄上を見送って、俺はコンちゃんに触りまくる。
けれどもそれが嫌だったのだろうか。
目を細めてうんと伸びをしたコンちゃんは、なんの前触れもなく人間姿になってしまった。
「なんで人間になっちゃうの!」
「おまえがベタベタ触るからだ」
「いいじゃん! 触るくらい」
主人である俺をおまえ呼ばわりする失礼な使い魔は、兄上が去って行った方角を眺めてから「誰だ」と吐き出した。
「なにが?」
「先程私に触った人間だ。誰だ」
「俺の兄上」
俺と兄上は髪色などは一緒なのだが、あまり似ているとは言われない。なんか雰囲気が違うらしい。それはちょっとわかる。俺は愛想がよくて気の利くいい子なので常に笑顔。対する兄上は気難しい顔で黙り込んでいることが多い。性格がまったく違うので、あまり似ていないのだろう。俺としても、兄上に似てると言われても嬉しくはない。あの堅物に似ているとかもはや悪口だと思う。
そういうことを説明してやれば、コンちゃんが興味深そうに「ふうん?」と首を傾げた。
「テオ様。そろそろお部屋に戻りましょう」
これまで黙っていたエルドが、そう言って俺の肩を押す。コンちゃんはもふもふキツネになってくれそうにないので、素直に部屋に戻ることにする。
その道中、廊下を歩いてくるケイリーとばったり鉢合わせた。
視線が合うなり、にこりと微笑むケイリーは部屋のドアを開けてくれる。エルドが「今までどちらに?」と訝しんでいるが、ケイリーは微笑むだけで答えない。
「ケイリー! コンちゃんだぞ。仲良くしてね!」
「テオ様。いくらなんでも紹介が雑ですよ」
エルドの言うことも一理ある。
改めて、俺が街で捕まえたおっきいもふもふキツネ魔獣だと説明してやれば、ケイリーが「左様でございますか」と緩く頷いてくれる。
そんなケイリーの態度に、エルドが引いている。もっと言うことあるだろ的な視線がケイリーに突き刺さっている。それをまったく気にしないケイリーはすごい。
「誰だ」
今度はコンちゃんが俺の肩を小突いて、ケイリーを顎で示す。「俺の侍従」と簡単に紹介すれば「侍従なのに、なぜ側にいない」と嫌なことを言い始める。
コンちゃんは、意外と人間世界の常識を知っているらしい。キツネなのに。長生きなのだろうか。年の功ってやつ?
なんとなく気になって「コンちゃん何歳?」と訊いてみれば、「おまえよりは長生きだ」という面白味のない答え。俺は七歳だもん。俺と比べられても。
「何歳なの?」
「何歳でもいいだろう」
「覚えてないの?」
「うるさい」
俺を雑にあしらってくるコンちゃんは、我が物顔でどかりと椅子に腰を下ろす。すっかり寛いでいる。俺の部屋だけどね、ここ。
相変わらず呑気にお昼寝しているポメちゃんは、コンちゃんのことを警戒したりしない。なんて弱そうなポメラニアンだ。その緩さで、いままでどうやって野生で生活していたのだろうか。謎である。他の魔獣に襲われたりしなかったのかな。とはいえポメちゃんのことだ。争いになる前に早々に逃げていたのだろう。それに見た目はライオンみたいだし。強そうに見えるのかもしれない。
「コンちゃん。一緒に遊ぼう。お絵描きしよう」
「なぜ」
コンちゃんはいちいち理由を尋ねてくる。ちょっと面倒だと思う。お絵描きしたらお母様が喜ぶ。「テオは天才ね。上手ね」と褒めてくれるのだ。だからお絵描きする。それだけである。
「コンちゃん描いてあげる」
「いい」
「遠慮せずに。俺、絵は上手だよ」
渋い顔をするコンちゃんを無視して、お絵描きする。「私と遊ぶという話はどこへ行ったんだ」と、コンちゃんが不思議そうに首を傾げるが構っている暇はない。
エルドは、オリビアが戻ってくるまで俺の側にいるつもりらしい。ケイリーがいるけど、ケイリーはすぐに俺を放置してどこかへ行ってしまうから信用していないのだろう。ケイリーは、俺の世話以外にも屋敷の雑用もやっている。正直言って、それはケイリーの仕事ではない。
「コンちゃんは、なんで毛が青なの?」
「なんでと言われても。知らない。おまえだってなぜ己の髪が金色なのか訊かれて答えられないだろう。それと一緒だ」
「なるほどぉ」
確かにね。自分で決めたわけじゃないもんね。
でもコンちゃんは魔獣だから。何か特別な理由があるのかと思ったのだ。例えば水魔法が得意だから青色なのだとか。しかしコンちゃんの話を聞く限りそういうわけでもないらしい。色に特別な意味はないのだとか。そういうものなのか。
けれどもそれが嫌だったのだろうか。
目を細めてうんと伸びをしたコンちゃんは、なんの前触れもなく人間姿になってしまった。
「なんで人間になっちゃうの!」
「おまえがベタベタ触るからだ」
「いいじゃん! 触るくらい」
主人である俺をおまえ呼ばわりする失礼な使い魔は、兄上が去って行った方角を眺めてから「誰だ」と吐き出した。
「なにが?」
「先程私に触った人間だ。誰だ」
「俺の兄上」
俺と兄上は髪色などは一緒なのだが、あまり似ているとは言われない。なんか雰囲気が違うらしい。それはちょっとわかる。俺は愛想がよくて気の利くいい子なので常に笑顔。対する兄上は気難しい顔で黙り込んでいることが多い。性格がまったく違うので、あまり似ていないのだろう。俺としても、兄上に似てると言われても嬉しくはない。あの堅物に似ているとかもはや悪口だと思う。
そういうことを説明してやれば、コンちゃんが興味深そうに「ふうん?」と首を傾げた。
「テオ様。そろそろお部屋に戻りましょう」
これまで黙っていたエルドが、そう言って俺の肩を押す。コンちゃんはもふもふキツネになってくれそうにないので、素直に部屋に戻ることにする。
その道中、廊下を歩いてくるケイリーとばったり鉢合わせた。
視線が合うなり、にこりと微笑むケイリーは部屋のドアを開けてくれる。エルドが「今までどちらに?」と訝しんでいるが、ケイリーは微笑むだけで答えない。
「ケイリー! コンちゃんだぞ。仲良くしてね!」
「テオ様。いくらなんでも紹介が雑ですよ」
エルドの言うことも一理ある。
改めて、俺が街で捕まえたおっきいもふもふキツネ魔獣だと説明してやれば、ケイリーが「左様でございますか」と緩く頷いてくれる。
そんなケイリーの態度に、エルドが引いている。もっと言うことあるだろ的な視線がケイリーに突き刺さっている。それをまったく気にしないケイリーはすごい。
「誰だ」
今度はコンちゃんが俺の肩を小突いて、ケイリーを顎で示す。「俺の侍従」と簡単に紹介すれば「侍従なのに、なぜ側にいない」と嫌なことを言い始める。
コンちゃんは、意外と人間世界の常識を知っているらしい。キツネなのに。長生きなのだろうか。年の功ってやつ?
なんとなく気になって「コンちゃん何歳?」と訊いてみれば、「おまえよりは長生きだ」という面白味のない答え。俺は七歳だもん。俺と比べられても。
「何歳なの?」
「何歳でもいいだろう」
「覚えてないの?」
「うるさい」
俺を雑にあしらってくるコンちゃんは、我が物顔でどかりと椅子に腰を下ろす。すっかり寛いでいる。俺の部屋だけどね、ここ。
相変わらず呑気にお昼寝しているポメちゃんは、コンちゃんのことを警戒したりしない。なんて弱そうなポメラニアンだ。その緩さで、いままでどうやって野生で生活していたのだろうか。謎である。他の魔獣に襲われたりしなかったのかな。とはいえポメちゃんのことだ。争いになる前に早々に逃げていたのだろう。それに見た目はライオンみたいだし。強そうに見えるのかもしれない。
「コンちゃん。一緒に遊ぼう。お絵描きしよう」
「なぜ」
コンちゃんはいちいち理由を尋ねてくる。ちょっと面倒だと思う。お絵描きしたらお母様が喜ぶ。「テオは天才ね。上手ね」と褒めてくれるのだ。だからお絵描きする。それだけである。
「コンちゃん描いてあげる」
「いい」
「遠慮せずに。俺、絵は上手だよ」
渋い顔をするコンちゃんを無視して、お絵描きする。「私と遊ぶという話はどこへ行ったんだ」と、コンちゃんが不思議そうに首を傾げるが構っている暇はない。
エルドは、オリビアが戻ってくるまで俺の側にいるつもりらしい。ケイリーがいるけど、ケイリーはすぐに俺を放置してどこかへ行ってしまうから信用していないのだろう。ケイリーは、俺の世話以外にも屋敷の雑用もやっている。正直言って、それはケイリーの仕事ではない。
「コンちゃんは、なんで毛が青なの?」
「なんでと言われても。知らない。おまえだってなぜ己の髪が金色なのか訊かれて答えられないだろう。それと一緒だ」
「なるほどぉ」
確かにね。自分で決めたわけじゃないもんね。
でもコンちゃんは魔獣だから。何か特別な理由があるのかと思ったのだ。例えば水魔法が得意だから青色なのだとか。しかしコンちゃんの話を聞く限りそういうわけでもないらしい。色に特別な意味はないのだとか。そういうものなのか。
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