いたずらっ子な転生者はおっきいもふもふを捕まえたい!

岩永みやび

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 庭に丸くなってお昼寝するコンちゃんを見て、ローマンがわかりやすく硬直している。猫のユナは見せたけど、コンちゃんを見せるのは初めてだ。想像よりもおっきくてビビっているのかもしれない。気持ちはわかるぞ。オリビアや副団長も初めは驚いていたから。

「え、魔獣です、か?」
「そうだよ。俺が捕まえたの」

 ドヤ顔で自慢しておく。信じられないといった表情で、口を大きく開けるローマンはそのまま固まってしまう。ピクリとも動かないローマンのことがちょっとだけ心配になる。

「ローマン?」

 ぐいぐいと彼の腕を引っ張れば、ローマンがハッとしたようにオリビアを振り返った。

「え、あの。契約は?」
「テオ様の使い魔ということになってる。正直私も意味がわからないけどね」

 やれやれと肩をすくめるオリビアは割と呑気だ。そのマイペースな態度に、ローマンが若干引いている。

 こちらを一切気にせず昼寝を続けているコンちゃん。コンちゃんは基本的に人間を舐めているので。自分が人間に負けるわけがないと油断しているのだ。まぁ実際にコンちゃんを討伐するのは難しいと思う。

「触ってもいいよ。尻尾が青色なの。可愛いでしょ」

 ローマンの手を引いて、コンちゃんの尻尾に近寄る。そのままローマンの手をコンちゃんの尻尾に押しつければ、ローマンがビクッと肩を揺らす。

「……」
「大丈夫だよ。コンちゃんはおとなしいよ」

 表情を強張らせるローマンを横目に、コンちゃんの尻尾を力強くペシペシ叩いてみせる。一瞬だけローマンが驚愕の表情を見せたが、オリビアがなにも言わないので困惑している。

「コンちゃん、起きろ! ローマンが来たぞ」

 すやすや寝息を立てるコンちゃんの尻尾にしがみついて、そのまま登ってみる。だが案の定うまく登れない。毛がつるつる滑ってしまう。オリビアに手伝ってとお願いしてみるが、「危ないですよ」と逆に引き剥がされてしまった。俺はなんて無力なんだ。目の前のもふもふに満足に登れないなんて。しょんぼり肩を落としておく。

 そんなやり取りを無言で眺めていたローマンは、ごくりと息を呑む。

 やはり七歳の俺がこんなにおっきな魔獣と契約するなんて簡単には信じられないのだろう。だがいつまでも固まっているわけにはいかない。

 そろそろと動き出したローマンは、おそるおそるといった様子でコンちゃんを撫で始める。

「すごいでしょ!? すごいでしょ!?」

 ぴょんぴょん飛び跳ねてアピールすれば、ローマンが「は、はい」と小さく頷いた。まだ衝撃から立ち直れないのだろうか。そんな強張った顔しなくてもいいのに。

「コンちゃんはね! 優しいよ! ちょっとだけ優しいよ!」
「ちょっとだけ、ですか」

 ははっと乾いた笑みを浮かべるローマンは、「ちょっと失礼」と言いながら俺とコンちゃんをじっと見比べる。その後もコンちゃんに手をかざしたりして何かを調べているらしい。

 オリビアと一緒に見守っていれば、ローマンが「たしかに。契約が結ばれているようですね」と大きく頷く。

「これってやっぱり異例なこと?」

 仕事モードに入ったオリビアが、ローマンを捕まえてあれこれ質問している。オリビアは魔法が得意ではないので、魔獣関連についてもあまり興味がないのだろう。ルルというちっこい鳥を使い魔にしているが、あれは使い勝手がいいから手元に置いているだけだろう。主に俺の監視にちょうどいいとか考えていそうである。

「そうですね。ちょっとあり得ないことかと」

 オリビアの問いかけに、律儀に答えるローマンは顎に手をやって考え込む。

「もしやテオ様には膨大な魔力が?」
「いや。おそらく魔力は普通だと思うけど」
「えぇー?」

 ますますわからないと顔をしかめるローマンは、俺のことをじっと観察し始める。よくわからないので仁王立ちでドヤ顔しておく。オリビアが「なんですか、その態度は」と肩に手を置いてくるけど気にしない。

「俺はすごい! とってもすごい!」

 自画自賛しておけば、ローマンが面食らったように「は、はい」と肯定してくれる。冷たいオリビアとは大違いである。

「ねー、ポメちゃんも見せてあげる! おっきいポメラニアンだよ!」
「え、もしかしてまだ魔獣が?」
「うん。俺の部屋で寝てると思う。ぐうたらだから」

 コンちゃんはしばらく起きそうにないので、ポメちゃんと遊ぼう。ポメちゃんはコンちゃんよりも控えめな大きさなので、俺でも背中によじ登ることができる。

 はやく行こうとローマンの手を引いて、俺は屋敷に駆け込んだ。
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