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100 仕方がない
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「テオ。あまりあの魔獣をあちこちで見せるな」
「はーい」
夕食の時間。
眉を寄せた兄上が、苦い顔で注意をしてくる。あの魔獣とは、もちろんコンちゃんのことである。
そんなに心配しなくても。俺は普段から屋敷に引きこもっているし、遊び相手もオリビアかケイリーか、それにエルドかローマンくらいである。見せびらかす相手がいないなぁ。
とりあえずマシュー先生にバレないように気をつければいいや。マシュー先生は魔法の先生である。今のところコンちゃんのご紹介はしていない。引き続き先生の前にコンちゃんを出さないようにすればいいだけの話である。
「兄上は? 使い魔いらないの?」
「興味ない」
「ふーん?」
素っ気なく顔を背ける兄上。
兄上は魔法の勉強を趣味でやっている。なのでまったく魔法や魔獣に興味がないというわけではないだろう。これはあれだ。俺のほうが契約魔法が上手に使えるので、あまり契約魔法を使いたくないのだろう。だって兄上がコンちゃんよりも強くておっきい魔獣と契約できるとは思えない。俺に負けるのが嫌だから、そもそも使い魔には手を出さないのだろう。そうに違いない。兄上は結構プライドの高い人だから。弟の俺には負けたくないのだろう。
これまでずっと兄上に負け続けている俺である。普段はお父様に告げ口するという方法で兄上にやり返してきた。しかし、使い魔に関しては告げ口でやり返すまでもなく俺の勝ちである。
得意になってニヤニヤしていれば、兄上が「なんだその顔は」と苛立ったように吐き捨てる。
「俺の方が強い使い魔と契約できる。この勝負、俺の勝ちだな」
「なんの勝負だ」
とぼける兄上は、もはや俺の敵ではない。そんなに負けを認めたくないのか。別にいいけどね。俺が勝ちだという事実は変わらないわけだし。
「兄上が可哀想だから俺の野菜分けてあげるね」
皿に残っていた野菜を兄上の皿に移動させようとするが、その前に鋭く睨まれてしまう。なぜ睨む。ここは俺の優しさに感動する場面である。
「おまえが嫌いなだけだろう」
「兄上! 大人はみんな野菜が好き。兄上はまだ大人じゃないのか?」
「そんな屁理屈言っていないで自分で食べろ」
「俺はまだ子供だもん。野菜嫌いだもん」
「うるさい」
兄上の眉間の皺が深くなったので、これ以上は諦めよう。あまり怒らせると厄介だ。オリビアに告げ口されたらすごく面倒な事態になる。オリビアは怒ると怖いので。
口うるさい兄上は、コンちゃんをキツネ姿にさせるのは控えろと上から目線で指示してくる。コンちゃんはたまに庭でキツネ姿になって日向ぼっこをしている。だが屋敷の庭は急な来客などで人の出入りも多い場所である。誰かに目撃されたら大変だから控えろと言っているらしい。普通屋敷の庭にあんなおっきな魔獣が寝ていたらパニックになる。だから兄上の指摘はわからなくもない。
なんか思っていたのと随分違うな。
おっきいもふもふ魔獣を捕まえたらみんなに手放しで褒められると思っていたのに。現実ではすごく面倒な扱いをされている。コンちゃんのせいで事態がややこしくなっているような気がする。
もっと堂々とコンちゃんと遊びたいのに。
いやまぁコンちゃんはケチだからね。たとえこういう複雑な問題が生じなかったとしても俺とは遊んでくれないんだろうけどさ。
「なんかつまんない」
ぽつりと呟けば、兄上が「仕方がないだろう」と言い返してくる。
「前例がなさすぎる。公になれば間違いなく混乱が生じる。私は誰彼構わず魔獣を見せびらかすなと言っているだけだ。それくらいテオでもできるだろう?」
なんだか俺を小馬鹿にしたような物言いなのは気になるが。しかし兄上なりに俺の生活を守ろうとしてくれていることは分かる。俺だって変に狙われたりするのはごめんである。なので素直に頷けば、兄上は満足そうに話を終わらせた。
「はーい」
夕食の時間。
眉を寄せた兄上が、苦い顔で注意をしてくる。あの魔獣とは、もちろんコンちゃんのことである。
そんなに心配しなくても。俺は普段から屋敷に引きこもっているし、遊び相手もオリビアかケイリーか、それにエルドかローマンくらいである。見せびらかす相手がいないなぁ。
とりあえずマシュー先生にバレないように気をつければいいや。マシュー先生は魔法の先生である。今のところコンちゃんのご紹介はしていない。引き続き先生の前にコンちゃんを出さないようにすればいいだけの話である。
「兄上は? 使い魔いらないの?」
「興味ない」
「ふーん?」
素っ気なく顔を背ける兄上。
兄上は魔法の勉強を趣味でやっている。なのでまったく魔法や魔獣に興味がないというわけではないだろう。これはあれだ。俺のほうが契約魔法が上手に使えるので、あまり契約魔法を使いたくないのだろう。だって兄上がコンちゃんよりも強くておっきい魔獣と契約できるとは思えない。俺に負けるのが嫌だから、そもそも使い魔には手を出さないのだろう。そうに違いない。兄上は結構プライドの高い人だから。弟の俺には負けたくないのだろう。
これまでずっと兄上に負け続けている俺である。普段はお父様に告げ口するという方法で兄上にやり返してきた。しかし、使い魔に関しては告げ口でやり返すまでもなく俺の勝ちである。
得意になってニヤニヤしていれば、兄上が「なんだその顔は」と苛立ったように吐き捨てる。
「俺の方が強い使い魔と契約できる。この勝負、俺の勝ちだな」
「なんの勝負だ」
とぼける兄上は、もはや俺の敵ではない。そんなに負けを認めたくないのか。別にいいけどね。俺が勝ちだという事実は変わらないわけだし。
「兄上が可哀想だから俺の野菜分けてあげるね」
皿に残っていた野菜を兄上の皿に移動させようとするが、その前に鋭く睨まれてしまう。なぜ睨む。ここは俺の優しさに感動する場面である。
「おまえが嫌いなだけだろう」
「兄上! 大人はみんな野菜が好き。兄上はまだ大人じゃないのか?」
「そんな屁理屈言っていないで自分で食べろ」
「俺はまだ子供だもん。野菜嫌いだもん」
「うるさい」
兄上の眉間の皺が深くなったので、これ以上は諦めよう。あまり怒らせると厄介だ。オリビアに告げ口されたらすごく面倒な事態になる。オリビアは怒ると怖いので。
口うるさい兄上は、コンちゃんをキツネ姿にさせるのは控えろと上から目線で指示してくる。コンちゃんはたまに庭でキツネ姿になって日向ぼっこをしている。だが屋敷の庭は急な来客などで人の出入りも多い場所である。誰かに目撃されたら大変だから控えろと言っているらしい。普通屋敷の庭にあんなおっきな魔獣が寝ていたらパニックになる。だから兄上の指摘はわからなくもない。
なんか思っていたのと随分違うな。
おっきいもふもふ魔獣を捕まえたらみんなに手放しで褒められると思っていたのに。現実ではすごく面倒な扱いをされている。コンちゃんのせいで事態がややこしくなっているような気がする。
もっと堂々とコンちゃんと遊びたいのに。
いやまぁコンちゃんはケチだからね。たとえこういう複雑な問題が生じなかったとしても俺とは遊んでくれないんだろうけどさ。
「なんかつまんない」
ぽつりと呟けば、兄上が「仕方がないだろう」と言い返してくる。
「前例がなさすぎる。公になれば間違いなく混乱が生じる。私は誰彼構わず魔獣を見せびらかすなと言っているだけだ。それくらいテオでもできるだろう?」
なんだか俺を小馬鹿にしたような物言いなのは気になるが。しかし兄上なりに俺の生活を守ろうとしてくれていることは分かる。俺だって変に狙われたりするのはごめんである。なので素直に頷けば、兄上は満足そうに話を終わらせた。
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