いたずらっ子な転生者はおっきいもふもふを捕まえたい!

岩永みやび

文字の大きさ
100 / 105

100 仕方がない

しおりを挟む
「テオ。あまりあの魔獣をあちこちで見せるな」
「はーい」

 夕食の時間。
 眉を寄せた兄上が、苦い顔で注意をしてくる。あの魔獣とは、もちろんコンちゃんのことである。

 そんなに心配しなくても。俺は普段から屋敷に引きこもっているし、遊び相手もオリビアかケイリーか、それにエルドかローマンくらいである。見せびらかす相手がいないなぁ。

 とりあえずマシュー先生にバレないように気をつければいいや。マシュー先生は魔法の先生である。今のところコンちゃんのご紹介はしていない。引き続き先生の前にコンちゃんを出さないようにすればいいだけの話である。

「兄上は? 使い魔いらないの?」
「興味ない」
「ふーん?」

 素っ気なく顔を背ける兄上。
 兄上は魔法の勉強を趣味でやっている。なのでまったく魔法や魔獣に興味がないというわけではないだろう。これはあれだ。俺のほうが契約魔法が上手に使えるので、あまり契約魔法を使いたくないのだろう。だって兄上がコンちゃんよりも強くておっきい魔獣と契約できるとは思えない。俺に負けるのが嫌だから、そもそも使い魔には手を出さないのだろう。そうに違いない。兄上は結構プライドの高い人だから。弟の俺には負けたくないのだろう。

 これまでずっと兄上に負け続けている俺である。普段はお父様に告げ口するという方法で兄上にやり返してきた。しかし、使い魔に関しては告げ口でやり返すまでもなく俺の勝ちである。

 得意になってニヤニヤしていれば、兄上が「なんだその顔は」と苛立ったように吐き捨てる。

「俺の方が強い使い魔と契約できる。この勝負、俺の勝ちだな」
「なんの勝負だ」

 とぼける兄上は、もはや俺の敵ではない。そんなに負けを認めたくないのか。別にいいけどね。俺が勝ちだという事実は変わらないわけだし。

「兄上が可哀想だから俺の野菜分けてあげるね」

 皿に残っていた野菜を兄上の皿に移動させようとするが、その前に鋭く睨まれてしまう。なぜ睨む。ここは俺の優しさに感動する場面である。

「おまえが嫌いなだけだろう」
「兄上! 大人はみんな野菜が好き。兄上はまだ大人じゃないのか?」
「そんな屁理屈言っていないで自分で食べろ」
「俺はまだ子供だもん。野菜嫌いだもん」
「うるさい」

 兄上の眉間の皺が深くなったので、これ以上は諦めよう。あまり怒らせると厄介だ。オリビアに告げ口されたらすごく面倒な事態になる。オリビアは怒ると怖いので。

 口うるさい兄上は、コンちゃんをキツネ姿にさせるのは控えろと上から目線で指示してくる。コンちゃんはたまに庭でキツネ姿になって日向ぼっこをしている。だが屋敷の庭は急な来客などで人の出入りも多い場所である。誰かに目撃されたら大変だから控えろと言っているらしい。普通屋敷の庭にあんなおっきな魔獣が寝ていたらパニックになる。だから兄上の指摘はわからなくもない。

 なんか思っていたのと随分違うな。
 おっきいもふもふ魔獣を捕まえたらみんなに手放しで褒められると思っていたのに。現実ではすごく面倒な扱いをされている。コンちゃんのせいで事態がややこしくなっているような気がする。

 もっと堂々とコンちゃんと遊びたいのに。
 いやまぁコンちゃんはケチだからね。たとえこういう複雑な問題が生じなかったとしても俺とは遊んでくれないんだろうけどさ。

「なんかつまんない」

 ぽつりと呟けば、兄上が「仕方がないだろう」と言い返してくる。

「前例がなさすぎる。公になれば間違いなく混乱が生じる。私は誰彼構わず魔獣を見せびらかすなと言っているだけだ。それくらいテオでもできるだろう?」

 なんだか俺を小馬鹿にしたような物言いなのは気になるが。しかし兄上なりに俺の生活を守ろうとしてくれていることは分かる。俺だって変に狙われたりするのはごめんである。なので素直に頷けば、兄上は満足そうに話を終わらせた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

処理中です...