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9 ほんとごめん
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ちょっと来いと、ドミニクによって無理矢理に襟首を掴まれた俺は、そのままひと気のない建物裏へと連行された。
薄暗い空間に呑まれて、息を呑んだ。なんかすげぇピンチだ。
「おい。なんで俺を無視した」
俺を外壁へと追い詰めたドミニクは、鋭い目線でこちらを見下ろしていた。俺は、まさに蛇に睨まれた蛙であった。
ひんやり冷たい外壁にぴたりと背中を張り付けて、情けなくもドミニクの一挙手一投足を窺うことしかできない。
どう考えても、このレオの細腕でドミニクに立ち向かうのは無茶であった。そもそも繊細な俺に、自分よりも体格のよろしい男へと立ち向かう度胸なんてものはない。
俺の眉は、情けなく下がっているに違いない。
俺を追い詰めることが好きなのだろうか。わざわざ俺と距離を詰めてくるドミニクは、俺の顔の真横に手をついた。
「おい、レオ。まさか俺との約束を忘れたなんて言わないよな?」
「いや、えっと」
「あぁ!?」
鋭い声が飛んできて、首を竦めた。
カッチコチに固まった俺は、もはや逃げることも叶わない。
「……あいつは?」
「へっ!?」
声のトーンを落としたドミニクが、囁くような声音で言った言葉の意味を咄嗟に理解できなかった。それを受けて、ドミニクが苛立たし気に舌打ちした。
「トミーだよ。今一緒にいただろが」
「あ、あぁ。トミーね」
「どうなんだ。あいつは」
どうと言われても。
トミーには、ちょっと今夜どう? と軽いお誘いをされただけである。
そんな怖い顔で詰め寄られるようなことは一切なかった。だがしかし。ウォルトの話によると、ドミニクはレオに好意を寄せているそうだ。ドミニクのことを散々避けていた俺が、トミーとふたりで会話していたのだ。避けられていたドミニクとしては当然面白くはないだろう。
「トミーは別に。なんでもない」
早口で否定すれば、ドミニクが「んだよ」と小声で苦々しく呟いた。
それってどういう感情なの?
俺がトミーとただならぬ関係(?)にあると思って問い詰めたのに、違うとわかって居た堪れないみたいな感じなのか?
なんで? え、ドミニクはレオのなんなの?
その彼氏面やめてくれないかな。
え? 違うよね? 彼氏ではないよね?
わからない。ウォルト情報によれば、ドミニクはレオに一方的な好意を寄せているとのことだった。その情報は果たして正しいのだろうか。
「じゃあ誰なんだ」
「……はい?」
唐突な問いかけに、俺は間抜けな声を出してしまった。これにドミニクが険しい表情になってしまった。慌てて愛想笑いを浮かべた俺は、視線を彷徨わせる。
頑張れ、俺。
よくわからないけど、記憶喪失設定はウォルト以外の人間に知られるのは得策ではないと思う。
ドミニク相手だったら尚更だろう。
虎視眈々とレオを狙っているドミニクである。そんな隙を見せたら「自分とレオは恋仲だった」という嘘を平然と主張するかもしれない。そんな面倒事はごめんだ。
話の流れから考えて、レオの男を巡るあれこれだろう。
トミーは違う。じゃあ誰なんだ、という流れ。
ここから導き出される結論はひとつ。つまりドミニクは、レオが想いを寄せている相手を知りたいのだろう。
ドミニクを振った(?)レオが、一体誰に夢中なのか。それが知りたくて苛々しているのだ。
ドミニクは、ここでは隊長というそれなりの立場。自分の面子を潰した相手を知って報復でもするつもりなのか。この物騒な男なら、やりかねない。
逃げ場を完全に失った俺は、もうパニックだった。
「おい、誰なんだ。言えや、こら」
「っ」
地を這うような声でドミニクに脅されて、俺はぎゅっと目を閉じた。
「レオ。おまえ、どういうつもりだ」
「……ウォ、ウォルト」
「あ?」
驚きの混じったドミニクの声に、俺は恐る恐る目を開けた。
しかし、ここで引くわけにはいかない。
「ウォルトです!!」
大声で宣言すると、周囲の静寂が際立った。
唖然とした様子のドミニクが、俺の顔を凝視してくる。その無言の圧に負けるわけにはいかない。
ウォルトには悪いが、俺にはこの手段しか残されていなかった。ウォルトは、多分レオのことが嫌いというか苦手というか。幼馴染という関係性ゆえに仕方がなく面倒を見ているといった感じだ。ウォルトの部屋に居候している身である。ベッドがひとつしかないので当然のように一緒に寝ているのだが、ウォルトが俺に手を出してくる気配はない。
だから俺がウォルトに想いを寄せているということにすれば、なんか丸くおさまる気がした。いや丸くはおさまらないかもだけど、他の名前をあげるよりも面倒が少ない気がしたのだ。
だってウォルトが俺に迫ってくることはないから。
「……それ、本当か?」
絞り出すようなドミニクの声は、ちょっと震えていた。
こくこく頷くことしかできない俺。
ふらりと俺から距離を取ったドミニクは、考え込むように顎へ手をやった。なにやらぶつぶつ呟くドミニクは、真剣な表情であった。
「ウォルトが? それ本当か?」
「う、うん。俺、最近はずっとウォルトの部屋に入り浸ってるから」
「……」
「……一緒のベッドで寝たし」
ダメ押しで付け足すと、ドミニクがギロリと睨んできた。いや事実だから。一緒のベッドで寝ているのは紛れもない事実である。単に隣で寝ているというだけだけど。
盛大に舌打ちしたドミニクは、苛立たし気に外壁を蹴った。その乱暴な行為に、俺はビクッと肩を跳ねさせる。
「……殺してやる」
こっわぁ。
もう既に何人か始末していそうな凶悪な表情で、ドミニクが絞り出した。
あ、なんか間違えたかもしれない。
そう思った時には、既に色々と遅かった。
こちらに背中を向けて大股で去って行くドミニクを眺めながら、俺は顔色を悪くした。
これはダメだ。なんかウォルトにピンチを押しつけてしまったかもしれない。
ごめん、ウォルト! ほんとごめん!
薄暗い空間に呑まれて、息を呑んだ。なんかすげぇピンチだ。
「おい。なんで俺を無視した」
俺を外壁へと追い詰めたドミニクは、鋭い目線でこちらを見下ろしていた。俺は、まさに蛇に睨まれた蛙であった。
ひんやり冷たい外壁にぴたりと背中を張り付けて、情けなくもドミニクの一挙手一投足を窺うことしかできない。
どう考えても、このレオの細腕でドミニクに立ち向かうのは無茶であった。そもそも繊細な俺に、自分よりも体格のよろしい男へと立ち向かう度胸なんてものはない。
俺の眉は、情けなく下がっているに違いない。
俺を追い詰めることが好きなのだろうか。わざわざ俺と距離を詰めてくるドミニクは、俺の顔の真横に手をついた。
「おい、レオ。まさか俺との約束を忘れたなんて言わないよな?」
「いや、えっと」
「あぁ!?」
鋭い声が飛んできて、首を竦めた。
カッチコチに固まった俺は、もはや逃げることも叶わない。
「……あいつは?」
「へっ!?」
声のトーンを落としたドミニクが、囁くような声音で言った言葉の意味を咄嗟に理解できなかった。それを受けて、ドミニクが苛立たし気に舌打ちした。
「トミーだよ。今一緒にいただろが」
「あ、あぁ。トミーね」
「どうなんだ。あいつは」
どうと言われても。
トミーには、ちょっと今夜どう? と軽いお誘いをされただけである。
そんな怖い顔で詰め寄られるようなことは一切なかった。だがしかし。ウォルトの話によると、ドミニクはレオに好意を寄せているそうだ。ドミニクのことを散々避けていた俺が、トミーとふたりで会話していたのだ。避けられていたドミニクとしては当然面白くはないだろう。
「トミーは別に。なんでもない」
早口で否定すれば、ドミニクが「んだよ」と小声で苦々しく呟いた。
それってどういう感情なの?
俺がトミーとただならぬ関係(?)にあると思って問い詰めたのに、違うとわかって居た堪れないみたいな感じなのか?
なんで? え、ドミニクはレオのなんなの?
その彼氏面やめてくれないかな。
え? 違うよね? 彼氏ではないよね?
わからない。ウォルト情報によれば、ドミニクはレオに一方的な好意を寄せているとのことだった。その情報は果たして正しいのだろうか。
「じゃあ誰なんだ」
「……はい?」
唐突な問いかけに、俺は間抜けな声を出してしまった。これにドミニクが険しい表情になってしまった。慌てて愛想笑いを浮かべた俺は、視線を彷徨わせる。
頑張れ、俺。
よくわからないけど、記憶喪失設定はウォルト以外の人間に知られるのは得策ではないと思う。
ドミニク相手だったら尚更だろう。
虎視眈々とレオを狙っているドミニクである。そんな隙を見せたら「自分とレオは恋仲だった」という嘘を平然と主張するかもしれない。そんな面倒事はごめんだ。
話の流れから考えて、レオの男を巡るあれこれだろう。
トミーは違う。じゃあ誰なんだ、という流れ。
ここから導き出される結論はひとつ。つまりドミニクは、レオが想いを寄せている相手を知りたいのだろう。
ドミニクを振った(?)レオが、一体誰に夢中なのか。それが知りたくて苛々しているのだ。
ドミニクは、ここでは隊長というそれなりの立場。自分の面子を潰した相手を知って報復でもするつもりなのか。この物騒な男なら、やりかねない。
逃げ場を完全に失った俺は、もうパニックだった。
「おい、誰なんだ。言えや、こら」
「っ」
地を這うような声でドミニクに脅されて、俺はぎゅっと目を閉じた。
「レオ。おまえ、どういうつもりだ」
「……ウォ、ウォルト」
「あ?」
驚きの混じったドミニクの声に、俺は恐る恐る目を開けた。
しかし、ここで引くわけにはいかない。
「ウォルトです!!」
大声で宣言すると、周囲の静寂が際立った。
唖然とした様子のドミニクが、俺の顔を凝視してくる。その無言の圧に負けるわけにはいかない。
ウォルトには悪いが、俺にはこの手段しか残されていなかった。ウォルトは、多分レオのことが嫌いというか苦手というか。幼馴染という関係性ゆえに仕方がなく面倒を見ているといった感じだ。ウォルトの部屋に居候している身である。ベッドがひとつしかないので当然のように一緒に寝ているのだが、ウォルトが俺に手を出してくる気配はない。
だから俺がウォルトに想いを寄せているということにすれば、なんか丸くおさまる気がした。いや丸くはおさまらないかもだけど、他の名前をあげるよりも面倒が少ない気がしたのだ。
だってウォルトが俺に迫ってくることはないから。
「……それ、本当か?」
絞り出すようなドミニクの声は、ちょっと震えていた。
こくこく頷くことしかできない俺。
ふらりと俺から距離を取ったドミニクは、考え込むように顎へ手をやった。なにやらぶつぶつ呟くドミニクは、真剣な表情であった。
「ウォルトが? それ本当か?」
「う、うん。俺、最近はずっとウォルトの部屋に入り浸ってるから」
「……」
「……一緒のベッドで寝たし」
ダメ押しで付け足すと、ドミニクがギロリと睨んできた。いや事実だから。一緒のベッドで寝ているのは紛れもない事実である。単に隣で寝ているというだけだけど。
盛大に舌打ちしたドミニクは、苛立たし気に外壁を蹴った。その乱暴な行為に、俺はビクッと肩を跳ねさせる。
「……殺してやる」
こっわぁ。
もう既に何人か始末していそうな凶悪な表情で、ドミニクが絞り出した。
あ、なんか間違えたかもしれない。
そう思った時には、既に色々と遅かった。
こちらに背中を向けて大股で去って行くドミニクを眺めながら、俺は顔色を悪くした。
これはダメだ。なんかウォルトにピンチを押しつけてしまったかもしれない。
ごめん、ウォルト! ほんとごめん!
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