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11 俺じゃん!
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人混みの中、すいすい歩く茶髪の青年は跳ねた毛先をちょっと鬱陶しそうに撫でつけている。その髪はオシャレに整えているわけではなく、単なる癖毛だと俺は知っていた。
だって毎朝あの癖毛と戦っていたのだ。俺は一時期サラサラのストレートに憧れていた。しかし早起きして髪を整えるのが面倒になり、最近ではもっぱら櫛を通すだけ。なんか上手い具合に跳ねているので、一見すると髪を綺麗に巻いているように見えちゃうのだ。
なんか今まで忘れていた自分自身に関する記憶が、一気に甦ってくる。
そう。
俺が人混みの中で見つけたのは俺自身であった。
特に染めてはいないのだが、生まれつき髪色がちょっと薄いらしい。「髪染めてる?」と何度も訊かれた。どこにでもいそうな平凡な大学生なのだ。
我に返った俺は、ウォルトの袖を掴む。彼の上着に皺が寄ってしまったが、それどころではない。
「ちょっ、あれ! あれ俺じゃん! 俺がいるんだけど!?」
空いているほうの手で前方を指さすが、ウォルトは「は?」と言って険しい表情になった。
「見て! あそこに俺がいるんだって!」
「いや、いないが。何を言っているんだ。目、大丈夫か?」
心底呆れたと言わんばかりの態度を見せるウォルト。なんでわかってくれないのだ。
ウォルトの背中をバシバシ叩いて、俺は必死に主張を重ねる。
「俺って言うか。なんだろ。前世? そう! 前世! 前世の俺があそこにいるんだよ!!」
「……頭大丈夫か?」
大丈夫だよ、失礼な。
なんでわかってくれないのか。悔しさに拳を握っていると、俺(?)のほうもこちらに気がついたらしい。
パッと目を輝かせた自分が「やっほー」と軽く片手をあげながら駆け寄ってきた。すごく変な光景だ。俺はそんな陽気なキャラじゃない。
愕然と眺めていると、駆け寄ってきた俺がにこりと笑みを浮かべた。
「やぁ、ウォルト。久しぶりだね」
「……どこかでお会いしたことがありましたか?」
困ったように目を細めたウォルト。知らなくて当然だと思う。だって声をかけてきた青年は前世(?)の俺なのだから。
目の前で起きている事態を把握できずに、俺はただただ立ち尽くす。
すると前世の俺が、こちらに怪し気な笑みを向けた。にんまり笑う彼は、急に俺の肩を抱いた。
「ちょっと彼のこと借りるね」
「は?」
目を丸くするウォルトを放って、前世の俺が歩き出す。肩を抱かれたままの俺も、引き摺られるようにして足を動かす。
「え、あ。え?」
振り返ると、ウォルトが呆然と突っ立っているのが見えた。
建物と建物の間にある細い道へと引き込まれた俺は、前世の俺と対峙していた。こうして自分と向き合うのは変な感じだ。
しかし、俺の中にひとつの可能性が湧いていた。
「もしかして、レオさん?」
「お! せいかーい」
にこっと笑った前世の俺、もといレオさんは「察しがいいねぇ」と上機嫌だ。
俺は突然、レオに成り代わってしまったのだ。本物のレオがどうなったのか。怖いのであまり考えないようにしていたのだが、別に消滅したというわけではなかったようで安心した。
というか、俺の体もこっちの世界に来てたんだ。なんだろう。異世界転移した反動で魂が弾き出されたのだろうか。よくわかんない。
レオは一体この事象をどう考えているのだろうか。
窺うような目を向けていると、レオが緩く笑った。ちょっと怪しげで、同時に目を惹くような華やかさがあった。
なんだろう。俺ってこんな雰囲気だったっけ?
中身が変わると外見にも影響が出るのだろうか。
人懐こい雰囲気を滲ませている前世の俺は、唐突に「僕のことはレオンって呼んでよ」と言った。
「不便だから勝手に名前つけちゃった。ごめんね」
「あ、いえ。大丈夫です。えっと、レオンさん」
元の名前に似せているのは、わざとだろう。
レオ改めレオンは、ふふっと口元に笑みを浮かべている。背中で手を組んでいるレオンは、余裕の態度だった。
「……」
その余裕はどこから出てくるのだろうか。俺は突然別人に成り代わってしまいパニックなのに。
もしやレオンは、この成り代わりに心当たりがあるのだろうか。そう思って尋ねてみたのだが、緩く笑ったレオンは何も知らないと言う。
ある日、目が覚めたら俺の体になっていたのだとか。
「まぁ、生きていればこんなこともあるよねー」
「ないだろ」
やけに気楽なレオンは、ははっと笑う。
どういうメンタルしてんだよ。だが、これくらいメンタル強くないと、同時に何人も彼氏作るなんて無理なのかもしれない。
「なんでウォルトと一緒にいたの? あれね、僕の幼馴染」
「知ってます」
「つまんない男でしょ」
「いや、どうでしょう」
ウォルトは真面目という言葉が似合うかもしれない。たしかに、面白くはないかも。でも優しいと思う。
「ウォルトねー、うん。あれは別にいいや。僕いらないから、君にあげる」
「はぁ、どうも」
貰っても困るんだが、なんかもう突っ込むのも面倒になってきた。ウォルトが、レオンの事を散々悪く言っていたのだが、なんかその気持ちが理解できてしまった。
だって毎朝あの癖毛と戦っていたのだ。俺は一時期サラサラのストレートに憧れていた。しかし早起きして髪を整えるのが面倒になり、最近ではもっぱら櫛を通すだけ。なんか上手い具合に跳ねているので、一見すると髪を綺麗に巻いているように見えちゃうのだ。
なんか今まで忘れていた自分自身に関する記憶が、一気に甦ってくる。
そう。
俺が人混みの中で見つけたのは俺自身であった。
特に染めてはいないのだが、生まれつき髪色がちょっと薄いらしい。「髪染めてる?」と何度も訊かれた。どこにでもいそうな平凡な大学生なのだ。
我に返った俺は、ウォルトの袖を掴む。彼の上着に皺が寄ってしまったが、それどころではない。
「ちょっ、あれ! あれ俺じゃん! 俺がいるんだけど!?」
空いているほうの手で前方を指さすが、ウォルトは「は?」と言って険しい表情になった。
「見て! あそこに俺がいるんだって!」
「いや、いないが。何を言っているんだ。目、大丈夫か?」
心底呆れたと言わんばかりの態度を見せるウォルト。なんでわかってくれないのだ。
ウォルトの背中をバシバシ叩いて、俺は必死に主張を重ねる。
「俺って言うか。なんだろ。前世? そう! 前世! 前世の俺があそこにいるんだよ!!」
「……頭大丈夫か?」
大丈夫だよ、失礼な。
なんでわかってくれないのか。悔しさに拳を握っていると、俺(?)のほうもこちらに気がついたらしい。
パッと目を輝かせた自分が「やっほー」と軽く片手をあげながら駆け寄ってきた。すごく変な光景だ。俺はそんな陽気なキャラじゃない。
愕然と眺めていると、駆け寄ってきた俺がにこりと笑みを浮かべた。
「やぁ、ウォルト。久しぶりだね」
「……どこかでお会いしたことがありましたか?」
困ったように目を細めたウォルト。知らなくて当然だと思う。だって声をかけてきた青年は前世(?)の俺なのだから。
目の前で起きている事態を把握できずに、俺はただただ立ち尽くす。
すると前世の俺が、こちらに怪し気な笑みを向けた。にんまり笑う彼は、急に俺の肩を抱いた。
「ちょっと彼のこと借りるね」
「は?」
目を丸くするウォルトを放って、前世の俺が歩き出す。肩を抱かれたままの俺も、引き摺られるようにして足を動かす。
「え、あ。え?」
振り返ると、ウォルトが呆然と突っ立っているのが見えた。
建物と建物の間にある細い道へと引き込まれた俺は、前世の俺と対峙していた。こうして自分と向き合うのは変な感じだ。
しかし、俺の中にひとつの可能性が湧いていた。
「もしかして、レオさん?」
「お! せいかーい」
にこっと笑った前世の俺、もといレオさんは「察しがいいねぇ」と上機嫌だ。
俺は突然、レオに成り代わってしまったのだ。本物のレオがどうなったのか。怖いのであまり考えないようにしていたのだが、別に消滅したというわけではなかったようで安心した。
というか、俺の体もこっちの世界に来てたんだ。なんだろう。異世界転移した反動で魂が弾き出されたのだろうか。よくわかんない。
レオは一体この事象をどう考えているのだろうか。
窺うような目を向けていると、レオが緩く笑った。ちょっと怪しげで、同時に目を惹くような華やかさがあった。
なんだろう。俺ってこんな雰囲気だったっけ?
中身が変わると外見にも影響が出るのだろうか。
人懐こい雰囲気を滲ませている前世の俺は、唐突に「僕のことはレオンって呼んでよ」と言った。
「不便だから勝手に名前つけちゃった。ごめんね」
「あ、いえ。大丈夫です。えっと、レオンさん」
元の名前に似せているのは、わざとだろう。
レオ改めレオンは、ふふっと口元に笑みを浮かべている。背中で手を組んでいるレオンは、余裕の態度だった。
「……」
その余裕はどこから出てくるのだろうか。俺は突然別人に成り代わってしまいパニックなのに。
もしやレオンは、この成り代わりに心当たりがあるのだろうか。そう思って尋ねてみたのだが、緩く笑ったレオンは何も知らないと言う。
ある日、目が覚めたら俺の体になっていたのだとか。
「まぁ、生きていればこんなこともあるよねー」
「ないだろ」
やけに気楽なレオンは、ははっと笑う。
どういうメンタルしてんだよ。だが、これくらいメンタル強くないと、同時に何人も彼氏作るなんて無理なのかもしれない。
「なんでウォルトと一緒にいたの? あれね、僕の幼馴染」
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「いや、どうでしょう」
ウォルトは真面目という言葉が似合うかもしれない。たしかに、面白くはないかも。でも優しいと思う。
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