染まらない花

煙々茸

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脱却

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(やっぱり……李煌さんだ。間違いなく今日も綺麗だけど……、誘ったの間違いだったか……)
 こんな時にでも発動する独占欲。
 なんか自分がちっさい男みたいで、嫌になる。
「大河。どうかした?」
「あ、いや……。行ってくる」
「うん! 頑張ってね」
 唐木の声援を背中で受けながら、俺はスタート台の前に並んだ。
 ゴーグルとキャップを身につける。
 種目はバッタの100メートル。
 前の組が泳ぎ終わり、羽織っていたジャージを脱ぎ捨てる。
「キャーッ! やばいって! カッコ良過ぎっ」
「相見せんぱーい! がんばってー!!」
「相見くんファイトー!!」
 黄色い騒音、基、声援があちこちから飛んでくる。
 が、そんな物、俺の耳には届かない。
 早く泳ぎたくて仕方がない。
 それに、今日は大好きな人が、近くで見てくれている。
 一度だけ視線を李煌さんに向けると、優しく微笑みかけてくれた。
 それだけで頑張れる。
(う……なんか現金だな)
 緩みそうになる口元を強引に引き締め、スタート台に立った。
「まさか、黒川と隣のレーンで競える日が来るとはな」
 ちらり、隣のスタート台を一瞥する。
(合川……同じ組だったのか)
「……相見だって、何度言えば分かるんだお前は」
「ちょっと待った。今まで気付いてなかったろ! 俺の事っ」
「そんなことないって」
「いや、ある!」
「口閉じないと、舌噛むぞ」
 ゴーグルを目に当てながら話を強引に断ち切る。
「位置に付いて」
 号令に合わせて上半身を折り曲げ、スタート台の先端に指を掛ける。
「よーい――」
 そして、続くホイッスルの合図で一斉にプールへ舞い上がった。
 水の中は少し冷たいが、やっと解放された気がして気持ちが楽になった。
 それでも今日だけは、全力で泳ぐ。
 理由は決まっている――。
 折り返しで壁を力いっぱい蹴り、足を揃えてバサロで水中を突き進む。
 そして腕をしなやかに動かし、水を大きく掻く。
 ゴールが目の前に迫る――。
「――ぱっ」
 壁に手をつき、顔を水中から上げて空気を取り込んだ瞬間、大きな歓声が耳に届いた。
「おおお! 相見すげータイムなんじゃないのか!?」
「相見せんぱーいっっ!!」
「こんな早かったのかよ、アイツ!」
「部の記録も更新してたりしてなっ」
 それは大袈裟だと思う。
 俺は溜息一つ零し、ゴーグルとキャップを取って息を整えながらプールから上がった。
「大河、凄かったよ。お疲れ様」
「サンキュ」
 唐木が放ってきたタオルをキャッチして、顔を拭う。
「それにしても、凄いダイナミックな泳ぎだったね。どうしちゃったのかな~?」
「……別に、たまには本気で泳いだって、罰は当たらないだろ」
「それはそうなんだけどね。意外過ぎて……ううん、もしかしたら意外でもないのかも?」
「はぁ……何言ってんだお前」
 唐木から受け取ったタオルを頭に掛けてわしゃわしゃと拭く。
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