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脱却
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「それに、凄い歓声だったと思わない?」
「さぁ。良く聞こえなかった」
「あははっ。それは嘘でしょー。照れてたのちゃんと見てたんだから」
「照れてはねーよ」
白い目を向けて否定すると唐木は口を噤んだ。
「この……黒川あぁぁ!!」
「――っ」
突然背後から伸びて来た腕に首を絞め上げられ、一瞬息が止まった。
呼び名に関しては、もう訂正するのは止めよう。疲れた。
「くっそ。負けた! やっぱスゲェわ、お前」
「今日はたまたま本気を出しただけだ。もう凄いことは起こらないぞ」
「嫌味かソレ。っつか、その本気って俺のためだったりすんの?」
「は?」
(いや、ここで否定したら拙いか……)
李煌さんの為だと言ったら怒るだろうし、他の奴等も敵に回しかねない。
(どんだけ酷い奴なんだろうな、俺って)
嘆息一つ。
「まぁ……久し振りに会ったしな。本気出さなきゃ失礼だろ」
「そっかそっかあ。ありがとな」
「おう。……それより早く離せよ。恩を仇で返すのかお前は」
未だ絡みついている腕を、強引に剥ぎ取る。
「あは。悪ィ悪ィ。ま、バッタは黒川の専門だし、次のフリーでは負けないぜ」
掻き上げた合川の髪がキラキラと光る。
覗いたおでこは、昔の面影を残していた。
そういえば、昔から負けず嫌いで強引な奴だった。
――……。
「あー! もー! 嘘だろお!? フリーでも負けるとか……」
「タッチの差だろ。落ち込むことか?」
「勝ったお前に言われても腹しか立たねぇよ! ――次はリレーか。もちろん、黒川も出んだろ?」
「……ああ」
結局、フリーのタイムで正式にリレーのメンバーに選ばれた。
あの部長に歯向かう勇気はない。
というか、グチグチ言われるのも面倒だからだが。
「そんじゃまた後でなー」
去って行く合川を見計らってか、唐木が声を掛けて来た。
「随分気に入られてるね」
「誰に対してもそうだろ、アイツは」
「そうかな? 僕はそうは思わないけど……。でも、気にするほどじゃなかったかな」
「何がだ?」
唐木の合川を見る目が、少し緩んだ気がした。
「もしかしたらライバル出現かも、って思ったけど……違ってたってことだよ」
「どういう意味だ?」
「……大河ってホント、自分のことになると超が付くほど疎くなるよね」
(ほっとけ。意味の分からないことを言う方が悪い)
顔を顰めてそっぽを向く俺に、唐木はクスリと笑う。
「ライバルだと思っているのは彼で、その相手が大河ってこと。どっちも水泳バカだよね~」
「言いたい放題だな」
「誰かさんが鈍チンだから、言う破目になるんじゃん」
五年も会っていなかったのに、ライバルだと思われてもこっちはピンと来ない。
それは初めからそういう目で見ているのとそうでないとの差なのだろう。
(ま、面倒にならなきゃどう思われていてもいいけどな)
そして、リレーも無事に終わったのだが、結局のところ、李煌さんとは最後までちゃんと話をする機会もなく、記録会は幕を閉じた。
「さぁ。良く聞こえなかった」
「あははっ。それは嘘でしょー。照れてたのちゃんと見てたんだから」
「照れてはねーよ」
白い目を向けて否定すると唐木は口を噤んだ。
「この……黒川あぁぁ!!」
「――っ」
突然背後から伸びて来た腕に首を絞め上げられ、一瞬息が止まった。
呼び名に関しては、もう訂正するのは止めよう。疲れた。
「くっそ。負けた! やっぱスゲェわ、お前」
「今日はたまたま本気を出しただけだ。もう凄いことは起こらないぞ」
「嫌味かソレ。っつか、その本気って俺のためだったりすんの?」
「は?」
(いや、ここで否定したら拙いか……)
李煌さんの為だと言ったら怒るだろうし、他の奴等も敵に回しかねない。
(どんだけ酷い奴なんだろうな、俺って)
嘆息一つ。
「まぁ……久し振りに会ったしな。本気出さなきゃ失礼だろ」
「そっかそっかあ。ありがとな」
「おう。……それより早く離せよ。恩を仇で返すのかお前は」
未だ絡みついている腕を、強引に剥ぎ取る。
「あは。悪ィ悪ィ。ま、バッタは黒川の専門だし、次のフリーでは負けないぜ」
掻き上げた合川の髪がキラキラと光る。
覗いたおでこは、昔の面影を残していた。
そういえば、昔から負けず嫌いで強引な奴だった。
――……。
「あー! もー! 嘘だろお!? フリーでも負けるとか……」
「タッチの差だろ。落ち込むことか?」
「勝ったお前に言われても腹しか立たねぇよ! ――次はリレーか。もちろん、黒川も出んだろ?」
「……ああ」
結局、フリーのタイムで正式にリレーのメンバーに選ばれた。
あの部長に歯向かう勇気はない。
というか、グチグチ言われるのも面倒だからだが。
「そんじゃまた後でなー」
去って行く合川を見計らってか、唐木が声を掛けて来た。
「随分気に入られてるね」
「誰に対してもそうだろ、アイツは」
「そうかな? 僕はそうは思わないけど……。でも、気にするほどじゃなかったかな」
「何がだ?」
唐木の合川を見る目が、少し緩んだ気がした。
「もしかしたらライバル出現かも、って思ったけど……違ってたってことだよ」
「どういう意味だ?」
「……大河ってホント、自分のことになると超が付くほど疎くなるよね」
(ほっとけ。意味の分からないことを言う方が悪い)
顔を顰めてそっぽを向く俺に、唐木はクスリと笑う。
「ライバルだと思っているのは彼で、その相手が大河ってこと。どっちも水泳バカだよね~」
「言いたい放題だな」
「誰かさんが鈍チンだから、言う破目になるんじゃん」
五年も会っていなかったのに、ライバルだと思われてもこっちはピンと来ない。
それは初めからそういう目で見ているのとそうでないとの差なのだろう。
(ま、面倒にならなきゃどう思われていてもいいけどな)
そして、リレーも無事に終わったのだが、結局のところ、李煌さんとは最後までちゃんと話をする機会もなく、記録会は幕を閉じた。
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