借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの

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 その時にヒロインちゃんに言われたのはわたしの想像と違っていた。
 わたしが借金まみれの女で、金目当てに彼に近づいて体を差し出したと。金に目の眩んだ売女だと罵ったのだという。
 そんなことあるはずないとは思っていたが、どこかで不安だったのだろう。
 時間が経つにつれて深まっていく不安が大きな渦となり襲いかかってきたのだと。
 どんな顔をして帰ったらいいかわからなくて結局こんな時間になってしまったと最後はちょっと恥ずかしそうにしていた。

「でもローズの口から聞けてよかった。すごい嬉しい」
 まあ、彼が満足ならそれでいいか。なんだかいつもと変わらない様子にホッと息をつく。
「俺も好き、愛してるよ」
 わたしの耳を彼の言葉が侵していく。そのままわたしはソファに座る彼の上に乗せられ後ろから抱きしめられた。
 ただただ抱きしめられて、心地いい。
 そのままぼーっと一緒に過ごした。


「そういえば、わたし子供できちゃう可能性、あるよね……?」
 疑問だった。だって避妊もせずあんなに交わっていたら妊娠だってするだろう。こんなに不安定なわたしが子供なんてできたら、育てられるのだろうか。
「できないから大丈夫。毎回中に薬入れてるから」
 思わず首を傾げる。入れられた記憶がない。記憶がない時に入れてるのかな。
「そうなんだ。知らなかった」
「まだ籍も入れてないしね。今は二人でいいだろう?」
 それもそうだ。できたら困るのは両家の当主だろう。当主と言えば……

「ねぇ、ウィルは仕事何してるの?ずっとここにいるけど、大丈夫?」
 こればっかりはマクルトも教えてくれなかった。本人に聞けって。俺からいうことじゃないって。
「今日はずいぶん俺のこと知りたがるな」
 くすくす笑いながらも彼は教えてくれた。

 辺境伯家嫡男としての仕事は幼い頃にはもうこなせるようになっていたらしい。その上でギルドに所属しS級まで上り詰めて、王家からの依頼もこなすようになったので、もし辺境伯家を継いでも代理のものを建てるのは可能らしい。
 ただし、その際は王家からの依頼をこなさなければならないのだけれど。
 今の彼には二つの選択肢があるらしい。辺境伯家を継いで、そのまま自分が当主としての仕事をするか、S級として王家に使えるか。
 辺境伯家を継げば当主としての仕事もあるので、わたしと過ごす時間が少なくなるし、S級を選ぶなら、過ごす時間は増えるけど命の危険が常に伴う。
 だから今の彼は悩んでいるのだという。


「どっちにしようか、第三の選択肢を作るか悩んでる」
「第三の選択肢……?」
「そう、例えば店ごと買い取ってオーナーやれば働かなくても君を養えるだろう?それにずっとそばにいられる」

 その言葉に思わず笑ってしまった。どれだけ一緒にいたいんだって。
 一緒にいたいって思う気持ちは一緒で嬉しくなるけど、わたし達は貴族で、責任もある。
 辺境伯家は子供が彼しかいないのだ。彼が継がないと聞けないのは必然的で。気持ちだけ受け取ることにする。

「わたしは、ウィルに辺境伯家継いで欲しい。おじ様困っちゃうでしょう?」
「そうなんだよな。それしかないのは分かってるんだけど……」

 二人で自分たちの将来をあれやこれや話し合っていた。
 誰かに仕事を押し付けるかとか子供は何人欲しいとかいろいろ。

 こんな何気ない会話に自然と心が満たされていって。
 幸せだなって思って。
 いつまでもこんな日々が続けばいいなって思いながら、笑い合った。

 そんな日々を繰り返しているうちに、夜の回数もだいぶ落ち着いていった。
 どうやら彼が執拗にしたがったのはどこか心の中に何かがあったのだろう。
 毎日致すことが多いけれど、多分世間一般的な常識の範囲内で、最初に比べたらだいぶ抑えられていた。

 奇妙な手紙が時折衣裳部屋に置いてあるけど、それだけで特に何もなかったからわたしは油断していた。


 ある日の娼館での出来事。
 トイレに行きたくなって、彼に断って部屋を出る。
 あの日すぐにヒロインちゃんに誑かされていた人は解雇され、別の人が見張りについている。
 安心してお手洗いに行った時、バッタリヒロインちゃんに出会ってしまった。

「あ、あんたっ!」
 まずいとは思ったけど、彼女に腕を掴まれて知らない道を歩かされる。
 知らない部屋に連れ込まれてしまった。
「っ、痛いっ」
 掴まれた腕が痛い。一体どんだけ力入れてんのよ……
「何度も何度も忠告してあげたのにっ。なんで離れないのよっ」
 そんなこと言われましても……
 おそらくわたしから離れてなんて言ったって彼は離れてくれないだろう。
 それどころかわたし自身が離れたくない。
 無言を貫く。いらない言葉を口走って変に刺激したくない……
「だんまりとはいい度胸ね。本当むかつくっ」
「あの……」
「何よっ」
「お友達になりませんか?」
 彼女は顔を真っ赤にして目を吊り上げている。
 あれ、ダメだったかな……
 なんだかかわいそうに思えてきてつい言ってしまった。なんだかウィルにちょっとだけ似ているような気がしたから。
 
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