吸血鬼なご主人様の侍女になりました。

しおの

文字の大きさ
10 / 23

10

しおりを挟む
 次の日のお昼休み。わたしはいつものところでお昼ご飯を食べている。ご主人様がレオン様とミーシャ様にこそこそと何かを話しているけど、美味しいご飯に夢中になっていた。
「アメリア嬢、ちょっとこっち」
 わたしはレオン様に呼ばれてそばによる。そしたら手を掴まれて膝の上に乗せられた。
「え、あのっ、レオン様っ⁈」
「ちょっとごめんね。拗らせがうるさいんだ」
 拗らせ、拗らせって……
 そのままくるりと体を回されて、向かい合わせに座っていた。
 え、何これ。何、え?
「や、」
 わたしの声に苦笑いしているレオン様。それからわたしはお兄様に連れられて、隣の部屋へ入った。
 そのままさっきレオン様にされたみたいに座らされて。
「どうだった? レオンの方が良かった?」
 ふるふる首を振る。なんか、いやだった。ご主人様じゃなきゃって。なんでだろう。
 わからない。
「ふふっ。俺の方がいい?」
「……ご主人様が、いい」
 ポツリとこぼしたわたしの言葉がご主人様には聞こえたみたいで、にこりと微笑まれた。
「そう。今はそれでいいよ。可愛い可愛い俺のアメリア」
 頭を優しく撫でてくれて、そのまま首筋に吸い付かれた。



 その後、ミーシャ様がこっそり教えてくれた。ご主人様がレオン様にあれをやれって言ったみたいで、本当は断りたかったけど、なんだか色々あるみたいで断りきれなかったって。
 ごめんなさいって謝ったら、「レオンは面白かったし、アメリアは可愛いし、わたくしは全然楽しめたからいいのよっ」てすごく楽しそうに話してた。
 レオン様とミーシャ様は婚約者同士なのに、いいの? って聞いたけど「アメリアとなら全然いいわっ」って言ってて、なんだかレオン様がかわいそうに思った。



 教室に戻ると、ご主人様とミーシャ様が話していて、腕に抱きついてた。ミーシャ様は頬を染めて何かをご主人様を話しかけている。
「あらあらあの子。クロウのこと知らないのかしら……」
「ん?」
「アメリアは気にしなくていいわ。さ、席につきましょう」
 二人は授業が始まるギリギリまで話をしていたみたい。なんだかまた、胸の奥が痛んだ。
 どうしてあの子はご主人様と一緒にいるんだろう。あ、前にご主人様はわたしのものって言ってたから好きなのかな? ご主人様は少し怖い顔をしていたけど、一体何を話していたんだろう。
 あ、授業が始まる。ちゃんと勉強しないとわからなくなっちゃう……
 もやもやした気持ちを抱えながら、その日の授業は無事に終わった。
「あれ、クロウ帰らないの?」
「ああ、レオン。アメリアを部屋まで送ってくれ」
「いやそれはいいけど……」
「クロウ様ぁ!さ、行きましょうっ」
 シャルル様がご主人様の腕を取り、どこかへ歩いて行ってしまった。
 残されたわたし達の頭の上にははてなマークがいっぱいだ。
 レオン様は「え、いつもひと睨みで追い返してたのに、どうしたんだ?」って眉を顰めているし、ミーシャ様は「なんなのあの女。確か子爵令嬢よね。常識というものを知らないのかしら」なんて怖い顔してるし。
 わたしはというと、胸が痛くて、でも痛い理由がわからなくて混乱してるし。
 二人はわたしの顔を見てちょっと驚いた後、「ちょっと遊びに行こうか」って誘ってくれたのでついていくことにした。


 二人に連れられたのは学園の奥にある温室。いろんな花が咲いていて綺麗。
「あ、四葉のクローバーだ」
 思わず手に取って見つめる。前世ではよく四葉のクローバーを探していた記憶がある。何か一つ願い事が叶うって聞いたことがあるから。
「あら、アメリアったら、四葉のクローバーが好きなの?」
 くすくす笑ってミーシャ様はわたしの隣にしゃがんでくれた。
「好きっていうか、なんだかいいことある気がして……」
「それわかるわぁ。たくさんの三つ葉の中から数少ない四葉を探すなんて、運命の相手を探すみたいでロマンティックよねぇ」
 二人で女子トークをしているのを遠くの椅子に座って眺めているレオン様。ミーシャ様を見る目は特に優しげで、大切にされているんだなって思った。それと同時にたまに見るご主人様も同じ目をすることがあるなって、思ってしまった。
「そうだっ。これ、押し花にしたらどう? 花じゃないけど、持ってたらきっといいことあるわよ」
「そうしますっ」
 さっきまでのモヤはすっかり晴れていて、レオン様のいるテーブルでミーシャ様から押し花の作り方をおそわった。ミーシャ様は二つ作っていて、一つはレオン様にあげてた。もらったレオン様はそれはそれは美しい笑みでミーシャ様を見つめていて、ミーシャ様も顔が赤くなってて可愛かった。
 なんだかこの場にいるのが申し訳ないくらいで、思わず目を背けてしまった。
 こっそりとミーシャ様から、「それ、クロウにあげたら喜ぶわよ」って言われたけど、こんな葉っぱ一つで本当に喜ぶのかなって思った。


 レオン様に送られて帰ってきた部屋にはまだご主人様は帰ってきていなかった。制服のままソファに座ってじっと作ったクローバーの栞を眺める。
 わたし、わたしは……
 不安、なのかな。なんだかわからないけど、心がもやもやする。こんなこと今までなかったのに。
 どうしてだろう……
 ご主人様が今まで一緒じゃなかったことなんていくらでもある。それこそきたばかりの頃は、食事以外は部屋で一人で過ごしていたし、学園に来てからはご主人様が学園に行っている間一人だったし、それでも何も思わなかった。
 けど、今は……不安で仕方ない。
 何が違う? ご主人様が今まで誰といても特に気にならなかったのに。なんでいない時まで考えてしまうんだろう。
 ぽたりと溢れた涙の落ちた手を見て初めてわたしは自分が泣いていることに気づいた。
 なんでわたし、泣いてるんだろう。
 寂しい? ああ、寂しい。寂しいのかもしれない。それともう一つ何かある気がするけど、それを考える前にいつの間にか眠ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」 結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。 彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。 見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。 けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。 筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。 人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。 彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。 たとえ彼に好かれなくてもいい。 私は彼が好きだから! 大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。 ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。 と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

氷の公爵さまが何故か私を追いかけてくる

アキナヌカ
恋愛
私は馬車ごと崖から転落した公爵さまを助けた、そうしたら私は公爵様に俺の嫁だと言って追われることになった。

引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

藤原ライラ
恋愛
 夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。  氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。  取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。  堅物王太子×引きこもり令嬢  「君はまだ、君を知らないだけだ」 ☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。 ※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい

狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。 ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。

一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。 そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。 ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。 慕ってはいても恋には至らなかった。 やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。 私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす ――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎ しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎ 困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で…… えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね? ※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。 ※pixivにも掲載。 8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)

処理中です...