吸血鬼なご主人様の侍女になりました。

しおの

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「アメリアちゃんっ、気をつけるのよ」
「アメリア、何かあればすぐいうんだぞ」
 お父様とお母様に頭を撫でてもらって出発する。馬車が見えなくなるまで手を振ってくれて、なんだか嬉しくなった。


「まぁ、アメリアっ。待ってたわぁ」
 ミーシャ様がぎゅっとハグしてくれる。レオン様も「いらっしゃい」と歓迎してくれた。わたし達も結構な人数の護衛を引き連れてきたけれど、この別荘にもたくさんいるみたい。
「さ、お茶にしましょう」
 みんなでテーブルを囲んで、お茶をする。わたしは隣に座るアメリア様と談笑していた。男性陣二人は何やらこそこそ物騒な話をしているようだ。
 その後は部屋へ荷物を運び込む。
 そして庭へ来るように言われ向かってみると真ん中に火を起こしていて、みんなで串を持っている。クロウ様に手を引かれて向かうとどうやらバーベキューのようだ。さまざまな食材を護衛の人がみんな焼いていてワイワイ食べている。
 用意されていた椅子に座って串を手渡される。周りを真似して火に近づけてクルクル回しながら焼いてみるとなんだか楽しかった。
「そろそろ食べれると思うよ」
 クロウ様が教えてくれて、フーフーしながらかぶりつくととても美味しくて。ほっぺたが落ちそうになっていた。それからは次から次へと焼いてくれて、手渡されたものをもぐもぐ食べる。みんな笑顔で楽しんでいて、この時間が続くといいなって思った。




 それから数日は特に変わったことはなかった。みんなで一緒に何かをして、とてもとても楽しんだのだった。
 ある日、四人で屋敷の周りを散歩していた時のこと。
「まぁっ、こんなところで会うなんて偶然ですねぇっ」
 ああ、とてもピンクだ。ふりふり全開だ……
 そのまま彼女はいつものようにクロウ様に抱きつく。頭を抱えたクロウ様は「……先に行っててくれ」ってため息混じりに言っていた。
 それに従ってわたしはミーシャ様とレオン様とそばを離れる。というか、ここは確か王家の敷地内って聞いたんだけど……どうしてあのこはこの場所がわかったのかな。
 もしかして……小説の知識?
 確か長期休みに王家所有の別荘地にいた彼と偶然出会うところがあった気がする。場所も細かく描写されていた気もするし……
 しっかり内容を覚えていたら、特定は可能かも……?
 そういうわたしはぼんやりとしか覚えていなかったからいつも後々思い出していたけれど。
「というかレオン。ここ、王家の敷地内よね? あれ、いいの?」
 ちょっと怖い顔でレオン様に詰め寄るミーシャ様。タジタジになりながらもレオン様は告げた。
「事情があるんだよ。今は我慢してくれ」
 納得できないと言った表情のミーシャ様に苦笑したレオン様は頭を撫でてあげていた。
 仲が良さそうで何よりだ。わたしは二人をにこにこ見守っていた……んだけどっ
「きゃっ」
 突然何かに足を引っ張られ、転んでしまう。
 え、何もなかったはずで、わたし動いてないのに……
 というか……ここ、どこ……?
 周りは岩に囲われていて真っ暗だ。あの一瞬で何があったのか、わからない。
 何かが足に引っかかってそれがわたしの足を引っ張って、どこかに引き摺り込んだ……?
「いったぁ」
 今更あちこち痛み出す。小さな切り傷がたくさんできていて、地味に痛い。
 歩こうにもどうも足を捻ってしまったみたいで、這って動くしかなかった。
 お腹や脛をあちこちに擦りながら、光のある方へ進む。というか、なんでわたしだけこんな目に……
 王家で罠でも仕掛けてたのかな。それにまんまと引っかかったとか……?
 だとしたらわたし相当間抜けね……
「よいしょ、案外前に進まないものね……あ、腕で進んだ方がスムーズに行けるのか」
 謎に匍匐前進を極めるわたし。さっきよりも全然早いわ。
 やっと出入り口に近づいたと思ったら、誰かに抱き上げられた。
「ギャッ」
 視界が一瞬で変わって、変な声が出る。どうやら横抱きにされているようだ。
 ふと顔を上げるとそこには怒っているような困惑しているようなクロウ様がいた。
「え、あ、あの、ありがとう、ございます」
「……ごめん。もう我慢できん。やっと掴めたし、そろそろおいたは終わりにしてもらわないといけないな」
「え?」
「いや、こっちの話だから気にしないで。それより痛かったね。さ、戻ろう」
 屋敷に戻ったわたしは数名のお医者様に診察されて、包帯をぐるぐる巻きにされた。小さな切り傷なのに大袈裟な……と思ったけれど、お医者様が施した処置なら仕方ない。
 身動きが取りづらいことに加えて困ったのはお風呂だった。傷に染みるからお湯に入れないことは覚悟していたけれど、この屋敷にはなぜか使用人がおらずその代わりにたくさんの騎士だけだった。
 ミーシャ様に手伝ってもらうのはなんだか申し訳ないしと思っていたら、いつの間に呼び寄せたのかサヨさんが駆けつけてくれて、お世話をしてくれた。
 あちこち切り傷だらけで染みる。特に腕が一番多いかもしれない……
 匍匐前進が失敗だったかな。サヨさんは傷口になるべく染みないように気を遣ってくれて、とてもありがたかった。
 お風呂が終わると再びお医者様に包帯を撒かれる。ちょっと大袈裟で恥ずかしい。
 その日からクロウ様は食事をしなくなった。その代わりずっと引っ付いている。足も捻挫していたから、どこかに行くたびに横抱きにされて、とても恥ずかしい。
 やっと傷口が良くなってきた頃、一旦クロウ様の屋敷へと帰った。
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