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 数日後、エヴェリーナのもとに、ある茶会への招待状が来た。
 ジョナタと仲の良い伯爵夫妻による主催で、ジョナタやマルタをはじめとして数名の貴人が参加するのだという。

 エヴェリーナが断ろうと思っていたところに、ジョナタからの手紙も来た。

『君とマルタについてよからぬ噂をたてるものもいるが、私にはまったくの嘘だとわかっている。しかし、くだらない噂を払拭するためにもぜひ、このたびの茶会に来てほしい。君が、マルタに悪意を向けたりするような女性ではないことは私がよくわかっている。君もマルタのことをもっと知ってくれれば、きっと彼女と良い友人になれると思う』

 流麗な筆致が続き、君の親しい友人ジョナタ、という署名で終えられていた。
 おそらく、この手紙の半分はジョナタの本音で、エヴェリーナのためを思って書いたのだろう。
 ――そしてもう半分はマルタのために違いなかった。

 マルタはかなりの反発を受けているであろうことは容易に察しがつく。
 出自にくわえ、エヴェリーナを押し退けてジョナタの婚約者におさまった、というように見られているからだ。

 そこへ、元婚約者の自分が、爽やかに手をとりあって友人になる――エヴェリーナがマルタを認めたというような構図にできれば、反発も少しは和らぐかもしれない。

 だがそこには、エヴェリーナの気持ちを推察するということが決定的に欠けていた。

『おおむね、ジョナタは善良で根の真っ直ぐな男だが』

 兄である人がそう称したことを思い出す。
 実際、エヴェリーナもそう感じた。ジョナタは善良であるがゆえに――元婚約者であろうとも、新たな婚約者を認め、祝い、友好に接してくれると信じているのだろう。

 あなたは完璧だ、と優しく褒めてくれたジョナタの声を、いまは皮肉めいた響きで思い出す。完璧だから、潔くあきらめて祝福してくれるとでも思っているのかもしれない。

 エヴェリーナは手紙をテーブルに放り、自嘲しながら心につぶやいた。

(……はい、殿下のお望みのままに)



 エヴェリーナの気分とは対照的に、茶会の日はよく晴れて、伯爵家の庭の緑も、そこに出されたテーブルと椅子の白さもまぶしく感じられるほどだった。

 ティーカップをゆっくりと傾けながらも、エヴェリーナは参加者を確認した。
 主催の伯爵夫妻の他に、ジョナタとエヴェリーナ、他にジョナタの友人らしき貴公子や令嬢が数名。男女比はほぼつりあうように調整されているようだ。

 ふいに、明るい――やや大きすぎる声が、エヴェリーナの観察をさえぎった。

「やだ、この茶菓子おいしい!」
「……光栄にございます」
「あとでレシピを教えてくれる?」

 はいそれはもちろん、と伯爵家の執事が丁寧に答える。
 エヴェリーナはそっと視線を動かした。

 ジョナタとマルタは同じテーブルにつき、マルタはスコーンの味に感動しているようだった。
 大きな目が丸くなり、おいしい、と率直に感想をもらす様子を、ジョナタが目元を和ませて見つめている。
 そのまわりで、他の貴人たちも穏やかな笑い声をあげていた。

 エヴェリーナは鈍く暗い気持ちで、彼らを眺めた。
 悪感情をあからさまに顔に出す者はいない。けれどここにいる貴人達がマルタに向ける眼差しは穏やかで好意的に思える。
 決して、王太子への配慮からそう装っているというわけではないようだ。おそらく、ジョナタが本当に親しい者を集めたのだろう。きっと、マルタのためだ。

 ――
 エヴェリーナはふいに、そんな言葉を思い出した。気持ちが沈む。自分は決して、マルタのような奔放な明るさを振りまくことはできない。

(……けれど)

 自分が劣っていると認めるには、まだ頑なで反発する何かが自分の中に残っている。容姿や家柄といったものだけではない、もっと別の何かだった。

「……なのだが、エヴェリーナはどうだ?」
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