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第一章 グラス越しの再会
3話 再会 〜あの夜の続き〜
しおりを挟む──あの時と、同じだ。
あの夜、トイレ前でふと二人きりになった時の、あの視線。
言葉よりも先に伝わってくる温度。
そして、今。
目の前でグラスを傾ける玲奈の瞳は、あの時よりもはっきりと熱を帯びていた。
「優しいけど、距離を取るのがうまい。
自分からは踏み込まない……」
わざと間を空けて、唇が緩く弧を描く。
「……でも、今日は違う」
ケイは無意識に、グラスの縁で指を止めた。
心臓の鼓動が、いつもより一拍だけ速い。
玲奈はその様子を楽しむように、
視線をほんのわずかに下から上へと這わせ、
グラスを置いた。
「その顔。きっと誰かいるんでしょ?」
「……」
「その人、ちゃんと抱いてくれる?
あんたのこと」
その問いに、数秒だけ沈黙が落ちる。
あやの横顔が、ふと脳裏をよぎる。
「……その逆です」
ケイは低く、しかしはっきりと答えた。
「俺が、ちゃんと抱けるかどうか──です」
玲奈は、ゆっくりと足を組み直した。
ドレスの裾がわずかにずれて、
ふっと香る匂いが空気に溶ける。
あの夜、廊下で感じた温度が蘇る。
玲奈はケイの言葉を噛みしめるように、グラスの縁を指先でなぞった。
そしてふと視線を落とし、軽く息を吐く。
「……もう少し飲んでく?」
その声は、単なるお誘いの響きとは違っていた。
言葉より先に、相手の答えを知っているような落ち着き。
ケイが何も返さないうちに、
玲奈はゆっくりと視線を上げた。
瞳の奥に宿る熱が、テーブルの柔らかな照明に溶け込む。
「……それとも、場所変える?」
あざとさはない。
ただ、自然すぎて、断る理由を探す方が難しいほどだった。
ケイはわずかに眉を寄せたまま、
グラスの中の氷を回す。
カラン、と鳴った音が、
二人の間に静かな間を落とした。
ケイは言葉を返さず、視線だけを向けた。
玲奈を真っ直ぐ見つめ、わずかに口元を緩める。
──それだけで、十分だった。
玲奈は小さく微笑み、「じゃあ」と言ってすっと立ち上がる。
カウンター越しにバーテンダーへ軽く手を上げ、会計を済ませるその仕草に、
迷いはまるでなかった。
まるで、彼の答えをとっくに読み取っていたかのように。
夜風に当たりながら、二人で歩く。
人通りの少ない裏通りを抜けると、
駅近くのシティホテルの明かりが視界に入った。
駅前の明かりを背に、二人はゆっくりと歩いた。
初夏の夜風は、昼間の熱をほんのり残しながらも、心地よく頬を撫でる。
玲奈のドレスの裾がふわりと揺れ、ヒールの音が石畳に軽く響いた。
「ここ、知ってる?」
玲奈が顎で示した先に、
落ち着いた佇まいのシティホテルがあった。
エントランスのガラス越しに見える照明は、
街の喧騒を遠ざけるように柔らかく光っている。
「……ええ」
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