もしもあの夜、玲奈を抱いていたら【R18完結】番外編

月村 未来(つきむら みらい)

文字の大きさ
4 / 19
第一章 グラス越しの再会

3話 再会 〜あの夜の続き〜

しおりを挟む



──あの時と、同じだ。
あの夜、トイレ前でふと二人きりになった時の、あの視線。
言葉よりも先に伝わってくる温度。

そして、今。
目の前でグラスを傾ける玲奈の瞳は、あの時よりもはっきりと熱を帯びていた。

「優しいけど、距離を取るのがうまい。
自分からは踏み込まない……」

わざと間を空けて、唇が緩く弧を描く。

「……でも、今日は違う」

ケイは無意識に、グラスの縁で指を止めた。
心臓の鼓動が、いつもより一拍だけ速い。

玲奈はその様子を楽しむように、
視線をほんのわずかに下から上へと這わせ、
グラスを置いた。

「その顔。きっと誰かいるんでしょ?」

「……」

「その人、ちゃんと抱いてくれる?
あんたのこと」

その問いに、数秒だけ沈黙が落ちる。
あやの横顔が、ふと脳裏をよぎる。

「……その逆です」

ケイは低く、しかしはっきりと答えた。

「俺が、ちゃんと抱けるかどうか──です」


玲奈は、ゆっくりと足を組み直した。
ドレスの裾がわずかにずれて、
ふっと香る匂いが空気に溶ける。
あの夜、廊下で感じた温度が蘇る。



玲奈はケイの言葉を噛みしめるように、グラスの縁を指先でなぞった。
そしてふと視線を落とし、軽く息を吐く。

「……もう少し飲んでく?」

その声は、単なるお誘いの響きとは違っていた。
言葉より先に、相手の答えを知っているような落ち着き。

ケイが何も返さないうちに、
玲奈はゆっくりと視線を上げた。
瞳の奥に宿る熱が、テーブルの柔らかな照明に溶け込む。

「……それとも、場所変える?」

あざとさはない。
ただ、自然すぎて、断る理由を探す方が難しいほどだった。

ケイはわずかに眉を寄せたまま、
グラスの中の氷を回す。
カラン、と鳴った音が、
二人の間に静かな間を落とした。

ケイは言葉を返さず、視線だけを向けた。
玲奈を真っ直ぐ見つめ、わずかに口元を緩める。

──それだけで、十分だった。

玲奈は小さく微笑み、「じゃあ」と言ってすっと立ち上がる。
カウンター越しにバーテンダーへ軽く手を上げ、会計を済ませるその仕草に、
迷いはまるでなかった。
まるで、彼の答えをとっくに読み取っていたかのように。


夜風に当たりながら、二人で歩く。
人通りの少ない裏通りを抜けると、
駅近くのシティホテルの明かりが視界に入った。



駅前の明かりを背に、二人はゆっくりと歩いた。
初夏の夜風は、昼間の熱をほんのり残しながらも、心地よく頬を撫でる。
玲奈のドレスの裾がふわりと揺れ、ヒールの音が石畳に軽く響いた。

「ここ、知ってる?」

玲奈が顎で示した先に、
落ち着いた佇まいのシティホテルがあった。
エントランスのガラス越しに見える照明は、
街の喧騒を遠ざけるように柔らかく光っている。

「……ええ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...