もしもあの夜、玲奈を抱いていたら【R18完結】番外編

月村 未来(つきむら みらい)

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第一章 グラス越しの再会

4話 再会 〜いこ?〜

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自動ドアが開くと、
涼やかな空調と、花のアレンジメントから漂う甘い香りが迎えてくれる。
最上階には静かなラウンジバーがあり、
グランドピアノの上には季節の百合が活けられていた。



窓際の席に案内され、
二人は向かい合って腰を下ろした。
照明がグラスの縁を照らし、
ワインの赤がゆらゆらと揺れる。

玲奈はグラスを軽く持ち上げ、
「今夜にぴったりね」と小さく笑った。
薄手のノースリーブから伸びる腕に、淡く光るブレスレットが揺れる。

「こんな夜に付き合ってくれて、ありがと」

ケイはワインを口に運びながら、
「いえ」と短く答える。

玲奈はしばらく彼の顔を見つめ、

「……でも、やっぱり……
今日のあんた、いつもと違う」

と言った。

「……そう見えますか」

「うん。らしくない。らしくないくらい、誰かを欲しがってる目してる」

ケイは言葉を詰まらせた。
視線の先に、あやの横顔が浮かび、
そして、消える。

その一瞬を見逃さず、玲奈は体をわずかに前へ。
テーブルの上で、ケイの手に自分の指先を重ねた。

「……もし、今だけでも、忘れたいなら──
わたしが、忘れさせてあげようか?」

声は低く、しかし決して軽くはない。
その距離の近さが、ケイの胸に熱を落としていく。



ケイは、指先に触れた玲奈の体温を意識しないように、視線を落とした。

「……先輩」

低く呼びかけた声は、
断るための言葉を探しているはずだった。

「今夜は、ただ……」

その続きを言おうとした瞬間、
玲奈が指先にわずかに力を込める。

「……理屈じゃなくても、いいでしょ?」

その声は、静かに、でも迷いを断ち切るように響いた。
頭の中であやの顔が浮かび、そして、熱を帯びた玲奈の視線がそれを覆い隠す。

ケイはグラスを持ち上げたが、
赤い液面はほとんど揺れず、
喉は動かなかった。

「……俺は……」

そのとき、奥のテーブルのお客さんのカバンに、小さなぬいぐるみバッジが揺れているのが目に入った。
――もふたん。

さっき、あやが改札前でそれをぎゅっと抱きしめて、笑っていた姿がよみがえる。
胸の奥がきゅっと締めつけられた。

けれど。

……その余韻をかき消すように、横で揺れる玲奈の視線が突き刺さる。
唇の端に浮かぶ微笑みも、熱を帯びた眼差しも、すぐそこにある温度も――
もう、引き返させてはくれなかった。


「ね、行こ?」

玲奈が立ち上がる。
ケイは伝票を手に取り、ペンを走らせた。
インクの黒が広がるのを見つめながら――
胸の奥で、なにかが静かに崩れていくのを感じていた。



席を離れるとき、ケイはわずかに息を吐く。
それは諦めのようでいて、
同時に抗えない衝動の音だった。

ラウンジを抜け、エレベーターの扉が閉まる。
狭い箱の中で、互いの距離は自然と詰まっていく。
ワインと香水が混じった甘い匂いが、
呼吸のたびに胸を熱くした。


フロントに着くと、玲奈が先に一歩踏み出した。
差し出された金額を確認する間もなく、
彼女はバッグからカードを取り出して、
迷いのない手つきで差し出す。

「ここは、私が」

低く落ち着いた声に、
ケイは一瞬だけ視線を合わせたが、
何も言わず横に立ったまま見守った。

チェックインを終えたカードが返され、
二人は再びエレベーターへ向かう。
さっきよりも、互いの距離は近かった。



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