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第二章 沈む身体、揺れる心
🩷5話 抗えない香り
しおりを挟むカードキーが静かにランプを光らせ、ドアが開いた。
室内の淡い照明が足元から天井へと広がり、
外の夜景が大きな窓いっぱいに映り込む。
──あれは、俺が払うべきだった。
フロントでの光景が、不意に胸の奥をかすめる。
けれど言い出せば、彼女の顔に影を落とすだけだとわかっていた。
その小さな後悔ごと、今はもう玲奈のペースに飲み込まれていた。
「……いい部屋」
玲奈が先に入り、バッグをソファに置いた。
ヒールを脱ぎ、床に裸足を滑らせる仕草に、ケイは一瞬目を留める。
その瞬間、かすかに甘くて深い、どこか肌に近い香りが空気に混ざった。
ドアの前で立ち尽くすケイを振り返り、玲奈がやわらかく微笑む。
「……座って?」
その声に促され、ゆっくりとケイも部屋の中へ。
近づくたびにわかるのは、
香水の奥にふわりと漂う、玲奈そのものの匂い──
それはどこか、記憶の底を揺らすようだった。
グラスを渡され、無言で受け取る。
隣に腰を下ろした瞬間、玲奈の指先がそっと手の甲をなぞる。
「……さっきから、ずっと考えてる顔してる」
「……してますか」
「うん。だから、ほぐしてあげる」
そっと肩に置かれた手。
その距離感に、微かに感じる香りが、
理性の輪郭をじわじわと削っていく。
「……理屈は、いらないでしょ」
耳元に囁かれたその言葉に、
ケイはもう、まともな返事を探せなくなっていた。
玲奈の手がゆっくりと首筋を辿り、
背中へと回る。
その動きが自然すぎて、
受け入れてしまう自分に気づくたび、
理性が薄くなっていく。
ソファの背にもたれていたケイの体を、
玲奈は迷いなく自分の方へ向かせた。
その動きがゆっくりなのに、逃げ場を塞ぐような確かさがある。
「……もう、こっち見て」
ケイが顔を上げると、
すぐ目の前に玲奈の瞳があった。
距離はほんの数十センチ。
吐息の温度が混ざる距離。
ふいに、玲奈の唇がそっと重なった。
触れた瞬間に離れる、短いキス。
それだけなのに、胸の奥が一瞬で熱くなる。
玲奈は何事もなかったように微笑み、
再びゆっくりと手を伸ばし、ケイのネクタイを指先で軽く持ち上げた。
「似合ってる。……でも、今は邪魔」
ゆるく結び目を解く指が、
喉元の鼓動に沿うように動く。
その感触に、ケイの呼吸が少しだけ深くなった。
解かれたネクタイがソファに落ちる音が、
やけに大きく響く。
「……ほら、肩の力、抜いて」
囁きながら、玲奈の手がケイのシャツの襟を整える。
整えるだけなのに、爪先が時折、肌にかすめる。
ケイは視線を逸らそうとしたが、
玲奈の指が顎に触れ、顔を戻された。
「……逃げないで」
そのまま、二度目のキス。
今度は離れない。
触れた瞬間から、玲奈の唇はわずかに動き、
柔らかな圧でケイの唇を開かせる。
甘いワインのと玲奈の香りが、
舌先に微かに触れてくる感覚と混ざり合う。
ケイはまだ自分からは動けない。
けれど、玲奈の指先が首筋から胸元へと滑っていくたび、
胸の奥に溜まった熱がじわじわと広がっていく。
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