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第二章 沈む身体、揺れる心
14話 夜景に残る背中
しおりを挟むグラスを置いた玲奈が、ゆっくりと視線を合わせてくる。
「……ねぇ、また会える?」
穏やかな口調だけど、瞳の奥は冗談じゃない。
ケイは一瞬だけ息を止め、グラスの縁に視線を落とした。
「……」
返事を探す間に、沈黙が広がる。
──違うんだ。
今夜は……勢いだった。
頭のどこかで、ずっとあやのことを考えていた。
それでも、目の前の玲奈の表情を否定できるほど、冷たい人間にはなれない。
「……また、連絡するよ」
当たり障りのない言葉を選ぶ自分に、内心で苦く笑う。
玲奈はそれ以上追及せず、口角をわずかに上げただけだった。
その笑みが、諦めか期待か、ケイには読みきれなかった。
しばらくしてケイは立ち上がり、服を着て玄関に向かう。
足音が、ゆっくりと遠ざかる。
ドアの開く音、そして閉まる音が、やけに響いた。
静まり返った部屋の中で、玲奈はしばらく動けなかった。
テーブルの上には、さっきまで口にしていた赤ワインのグラス。
飲み残した底にわずかに揺れる液面が、照明を受けて暗い赤を滲ませている。
それを見つめているだけで、胸の奥にじんわりと寂しさが広がっていった。
──わかってた。
勢いだってことも、本命じゃないことも。
それでも、ほんの少し……期待してしまった。
身体だけの関係とかもう無理なのに……
言葉と行動が矛盾してるっていうのを、
他人に咎められるんじゃなくて、自分でわかってる。
でも……それでも今夜は。
ゆっくりとソファに背を預けると、視界がにじむ。
気づけば頬を伝っていた涙を、玲奈は拭おうともしなかった。
天井を見上げ、ひとつ深く息を吐く。
「……バカみたい」
小さくこぼした声のあと、玲奈は立ち上がった。
窓際まで歩き、カーテンを少しだけ開く。
遠くのビル群が、オレンジや白の光を無数に瞬かせている。
その輝きが、今夜の出来事を映し返すようで、胸の奥がじくりと疼いた。
──あの時、ケイが見せた横顔。
不意に呼んだ名前へのわずかな笑み。
触れた指先の熱まで、まだ皮膚に残っている気がする。
窓ガラスに映る自分の目が、ほんのり赤く腫れていることに気づき、そっと視線を外す。
そして、もう一度だけ夜景を見つめた。
それは、彼の背中を追うみたいに、どうしても目を離せない光だった。
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