もしもあの夜、玲奈を抱いていたら【R18完結】番外編

月村 未来(つきむら みらい)

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第三章 余韻が消えるまで

15話 なかったことに、したくなかった

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「ねぇ、玲奈ってさ。いま、好きな人いる?」

金曜の夜。
ターミナル駅近くにある、こぢんまりとしたイタリアン。

ワインが並ぶカウンターの隅で、二人分のグラスが重なる音がした。

「……なによ遥香、急に」

玲奈はグラスを傾けながら、少し笑って目を細める。
向かいに座る遥香は、昔から空気を読まないところがあって。
でも、そこが嫌いになれない。

「いや、ふと思っただけ。
だって玲奈ってさ、昔はあんなに恋バナしてたのに、最近全然話してくれないじゃん」

「そういうのって、この歳になるとあんまり……ね」

「何それ、聞き捨てならない」

ワインを一口飲んだ遥香が、眉をひそめてからふっと笑う。
彼女には付き合って三年になる彼氏がいる。
だからこそ、こうして酔いに任せて恋の話を振れる余裕があるのだろう。

あの頃と変わらない表情が、玲奈の心をゆるませる。

「……いたよ。気になる人」

ぽつりと、玲奈が呟く。
遥香が目を丸くして、すぐさま身を乗り出した。

「なにそれ!そういうのそういうの!
もっと聞かせて!」

玲奈はふっと目を伏せたまま、言葉を探すようにゆっくりと話しはじめる。

「こないだ……一度だけ。
……そういう関係になっただけなんだけどね。
会ったのも、一年ぶりだったのに……」

「……ずっと、頭から離れないの」

「え……やば。玲奈がそういうこと言うの、何年ぶり?」

「……自分でも、そう思ってる」

その夜のことを、誰かに話すなんて思っていなかった。
けど、こうして遥香に話してる自分がいる。

──触れた時の熱。
名前を呼んだ時、わずかに返ってきた微笑み。
すべてが、胸に焼きついていた。



「……実はね、ちょっと後悔してることもあるの」

「後悔?」

「彼が、『ゴムない』って言ったんだよ。
普通ならそこで止まるんだろうけど──」

「……」

「私……『今日、大丈夫だから』って、自分から言った」

静かな声。
でも、その裏には確かな意思が滲んでいた。

「止める気なんて、最初からなかった。
むしろ……背中を押したのは、私の方だったんだよね」

「……で、生理は?」

「まだ……来てない」

「ちょっと。何やってんのよ玲奈」

「わかってる。バカだよね、ほんと。
あの時は、全部どうでもよくなってたの。
……その人が欲しいって、それだけしか考えられなかった」

遥香がため息をつく。
でも、それは怒っているというよりも、呆れて心配している息だった。

「……でもさ」

玲奈はワインを見つめながら、ぽつりとこぼした。

「もし……私だけが、あの夜を大切に思ってて、
あの人にとっては、ただの過ちだったらって考えると……
怖くて、なにも言えなくてさ」

遥香はしばらく黙っていたけど、やがてグラスにワインを注ぎながら口を開いた。

「……だったら、聞いてみればいいじゃん。
彼が、どう思ってるのか」

「え?」

「ちゃんと向き合わなきゃ。
モヤモヤしてるなら、聞くしかないでしょ。
自分の気持ちにも、ちゃんと」

「ほらぁ、スマホ」

「う、うん……」

玲奈はカバンからスマホを取り出し、しばらく画面を見つめていた。
そしてあの名前を見つけたとき、胸の奥がひどく騒がしくなった。

──バカだなって思われるかも。
でも、それでも、なにも言わないまま消えていくのは、もっと怖い。


📱
「なんか、今夜、酔っててさ」
「ふと、あなたの顔、思い出しちゃった」
「……いま、なにしてる?」

送信ボタンを押した瞬間、深く息を吐く。
隣で遥香が、少しニヤつきながら囁いた。

「ちゃんと、報告してよ?」

玲奈は黙って笑った。

それは、笑顔の形をした――
少しだけ、泣きそうな顔だった。






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