もしもあの夜、玲奈を抱いていたら【R18完結】番外編

月村 未来(つきむら みらい)

文字の大きさ
16 / 19
第三章 余韻が消えるまで

15話 なかったことに、したくなかった

しおりを挟む




「ねぇ、玲奈ってさ。いま、好きな人いる?」

金曜の夜。
ターミナル駅近くにある、こぢんまりとしたイタリアン。

ワインが並ぶカウンターの隅で、二人分のグラスが重なる音がした。

「……なによ遥香、急に」

玲奈はグラスを傾けながら、少し笑って目を細める。
向かいに座る遥香は、昔から空気を読まないところがあって。
でも、そこが嫌いになれない。

「いや、ふと思っただけ。
だって玲奈ってさ、昔はあんなに恋バナしてたのに、最近全然話してくれないじゃん」

「そういうのって、この歳になるとあんまり……ね」

「何それ、聞き捨てならない」

ワインを一口飲んだ遥香が、眉をひそめてからふっと笑う。
彼女には付き合って三年になる彼氏がいる。
だからこそ、こうして酔いに任せて恋の話を振れる余裕があるのだろう。

あの頃と変わらない表情が、玲奈の心をゆるませる。

「……いたよ。気になる人」

ぽつりと、玲奈が呟く。
遥香が目を丸くして、すぐさま身を乗り出した。

「なにそれ!そういうのそういうの!
もっと聞かせて!」

玲奈はふっと目を伏せたまま、言葉を探すようにゆっくりと話しはじめる。

「こないだ……一度だけ。
……そういう関係になっただけなんだけどね。
会ったのも、一年ぶりだったのに……」

「……ずっと、頭から離れないの」

「え……やば。玲奈がそういうこと言うの、何年ぶり?」

「……自分でも、そう思ってる」

その夜のことを、誰かに話すなんて思っていなかった。
けど、こうして遥香に話してる自分がいる。

──触れた時の熱。
名前を呼んだ時、わずかに返ってきた微笑み。
すべてが、胸に焼きついていた。



「……実はね、ちょっと後悔してることもあるの」

「後悔?」

「彼が、『ゴムない』って言ったんだよ。
普通ならそこで止まるんだろうけど──」

「……」

「私……『今日、大丈夫だから』って、自分から言った」

静かな声。
でも、その裏には確かな意思が滲んでいた。

「止める気なんて、最初からなかった。
むしろ……背中を押したのは、私の方だったんだよね」

「……で、生理は?」

「まだ……来てない」

「ちょっと。何やってんのよ玲奈」

「わかってる。バカだよね、ほんと。
あの時は、全部どうでもよくなってたの。
……その人が欲しいって、それだけしか考えられなかった」

遥香がため息をつく。
でも、それは怒っているというよりも、呆れて心配している息だった。

「……でもさ」

玲奈はワインを見つめながら、ぽつりとこぼした。

「もし……私だけが、あの夜を大切に思ってて、
あの人にとっては、ただの過ちだったらって考えると……
怖くて、なにも言えなくてさ」

遥香はしばらく黙っていたけど、やがてグラスにワインを注ぎながら口を開いた。

「……だったら、聞いてみればいいじゃん。
彼が、どう思ってるのか」

「え?」

「ちゃんと向き合わなきゃ。
モヤモヤしてるなら、聞くしかないでしょ。
自分の気持ちにも、ちゃんと」

「ほらぁ、スマホ」

「う、うん……」

玲奈はカバンからスマホを取り出し、しばらく画面を見つめていた。
そしてあの名前を見つけたとき、胸の奥がひどく騒がしくなった。

──バカだなって思われるかも。
でも、それでも、なにも言わないまま消えていくのは、もっと怖い。


📱
「なんか、今夜、酔っててさ」
「ふと、あなたの顔、思い出しちゃった」
「……いま、なにしてる?」

送信ボタンを押した瞬間、深く息を吐く。
隣で遥香が、少しニヤつきながら囁いた。

「ちゃんと、報告してよ?」

玲奈は黙って笑った。

それは、笑顔の形をした――
少しだけ、泣きそうな顔だった。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...