17 / 19
第三章 余韻が消えるまで
16話 もう、あの夜には戻れない
しおりを挟む風呂あがり、タオルで髪を拭いていたケイは、
リビングのテーブルに置いたスマホの振動に気づいた。
画面には、「水島 玲奈」の名前。
短く、3行のメッセージ。
📱
「なんか、今夜、酔っててさ」
「ふと、あなたの顔、思い出しちゃった」
「……いま、なにしてる?」
読み終えたあと、しばらく無言で画面を見つめたまま、ケイは動かなかった。
──あの夜のこと。
冷たくしたつもりはなかった。
それに、あやとはまだ付き合ってはいない。
裏切りじゃない。だから、堂々としていればいいはずなのに。
けど──胸の奥はざわついていた。
浮かぶのは玲奈の肌じゃない。
受付で迎えてくれたあや。
助手席で笑ったあや。
チョコレートをくれたあや。
そして、もふたんを抱きしめて「ありがとう」と言ったあの顔。
(……それでもあの時……止まれなかった)
堂々とできるはずなのに。
理屈では何度もそう言えるのに。
それでも胸に残るのは、重たいざらつきと、消えない後悔だけだった。
深いため息をついたのち、スマホをそっと持ち直し、指が画面を滑る。
返信を打つまでに、少し時間がかかった。
そして、何度か言葉を削って、打ち直して──ようやく、送信した。
📱
「今、少しだけ考えたいことがあって」
「水島先輩のこと、ちゃんと覚えてます」
「でも……ごめんなさい。今は」
“既読”の表示がつく前に、ケイはスマホを伏せて、ソファに体を沈めた。
──気づかれただろうか。
先輩呼びに戻したことに。
敬語に戻したことにも。
あの夜、名前を呼び捨てにした時とは違う、距離のあるメッセージ。
それが、いまの自分の答えだった。
―――
遥香と別れて帰宅後、
シャワーを浴びたあと、濡れた髪をまとめながらベッドに腰を下ろしたタイミングだった。
テーブルの上で、スマホが小さく光った。
画面に浮かんだ“既読”の文字。
そして、次いで現れた3行の返信。
📱
「今、少しだけ考えたいことがあって」
「水島先輩のこと、ちゃんと覚えてます」
「でも……ごめんなさい。今は」
その瞬間、胸の奥がすっと冷えていく。
──“水島先輩”。
たったそれだけで、あの夜の熱も、吐息も、名前を呼んでくれた声すら、すべて遠ざかっていった気がした。
メッセージを読み返しても、どこにも怒りも責めもない。
むしろ、丁寧すぎるほどのやさしさ。
けれど、そのやさしさが玲奈にはいちばん苦しかった。
「……そっか」
ぽつりと、誰に向けるでもなく呟く。
ベッドの隅にスマホを置いて、ゆっくりと背中を壁に預けた。
──あの夜、名前を呼んだときの声が、まだ耳に残っている。
触れたときの体温も、手に残ってる気がするのに。
目を閉じれば、ケイの指先が、髪に触れた感覚すら蘇ってくる。
でももう、そのすべてに「ごめんなさい」のラベルが貼られてしまった。
知らない間に、目がじんわりと滲んでいた。
けれど、もう拭こうとは思わなかった。
その夜、玲奈はスマホを伏せたまま、天井を見つめて、ずっと目を閉じなかった。
21
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる