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学校に行きたくない私と、来未(くるみ)の九月の話。
九月六日(土)台風
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土曜の朝、ガタンガタンと窓の鳴る音で目が覚めた。
カーテンを開けると、外は見えないほどの雨。
「土曜なのに……」
学校をズル休みしているのに、週末遊びに行くなんて許さないと天が言っているのだろうか。
昨夜、寝る前に明日はラクだ、何ならちょっと楽しみだ、と思った罰だろうか。
この台風が月曜に来てくれたなら、小躍りして喜んだだろう。
なんて不謹慎なことを考えるから、私は神様にも嫌われる。
「久しぶりに、外に出たかったな……」
ゴウゴウと風が唸りを上げている。
私は小さな溜息を吐き、のろのろ着替えると階段を下りた。
台所には父の姿があった。
「おはよう、縁」
「おはよ」
「台風だよ」
「……ね」
意気消沈している私を見て、父はクスリと笑った。
「何作ってるの……?」
私は父がカシャカシャ音を立ててかき混ぜるボウルを覗き込んだ。
「こんな日は、ゆっくりクレープでも食べるのがいいだろう」
「久しぶりだね」
私の心は少し弾んだ。
「手伝う」
私は腕まくりをして、手を洗った。父は冷蔵庫を覗いた。
「買い出しに行けてないけど、レタスとハムとツナはかろうじてある。あとはバナナとヨーグルト……」
「これ全部食べたら、冷蔵庫空っぽだね」
「明日まで台風が居座ったら、後はカップラーメンに頼るしかないな」
父は楽しそうにハハッと笑った。
「生クリームがないから、チョコでも刻むかい?」
私は「うん」と答えると、板チョコを出してまな板の上でスライスするように細かく刻んだ。
「レンチンでいいよね」
父は「少しずつするんだよ」と言いながら、温めたフライパンにクレープ生地を流し込んだ。
ジューッといい音がして、あっという間に甘い香りが部屋中に漂った。
「ああ、ちょっと火が強すぎた」
父の少し焦った声が聞こえ、ふふっと笑った。
「一枚目が一番難しいんだ」
父はそう言いながら、あっという間に焼けた、少し焦げた色のクレープをお皿に出した。
「人生と一緒だな」
「ええ?」
「いつだって、最初が一番難しい」
父はたまに、こんなことを言う。
「二枚目だって、三枚目だって、難しいかもよ」
私はそう呟いた。
「はは、そうだな。よし、頑張るとしよう」
父はフライパンを濡れ布巾の上に乗せ少し冷ますと、二枚目のクレープを焼き始めた。
クレープは、きれいなきつね色に焼きあがった。
「さ、食べよう」
テーブルの真ん中にクレープが積み重なったお皿を置き、その右側にレタスとハムとツナとスライスチーズを乗せたお皿。左側には薄く切ったバナナと溶かしたチョコを置く。小さなヨーグルトは一つずつ。
父はブラックの珈琲、私は、それに牛乳をたっぷり入れたカフェオレ。
昔、父が豆から挽いて飲む珈琲に憧れてしょうがなかった。
小学生の頃、牛乳にそれをちょろっと入れてもらい、蜂蜜も足して、ほんのり薄ーく色のついた甘い牛乳を父と並んで飲んだ時の喜びは今でも覚えている。
ひとつ大人に近づいた気がした。
あの頃は、早く大人になりたくて仕方なかった。
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせると、自分の皿にクレープを一枚取り、好きな具を並べる。
私はレタスとツナとマヨネーズ。父はハムとチーズとケチャップ。
休日の朝、ゆっくりと食べるクレープはいつだって特別な味がする。
「雨戸閉まってると、夜みたいだね」
縁側の雨戸は絶えずガタガタと音を立てていた。
「古い家だけど、丈夫な雨戸だから心配ないよ。部屋のカーテンは閉めておくんだよ」
「はあい」
テレビは台風の情報一色。日本中が台風の行方を気にしている、非日常な土曜日の朝だった。
【九月六日(土)台風
今日は久しぶりのお家クレープ。美味しかった。
お父さんは部屋で仕事、私も部屋でダラダラ。
堂々とダラダラできる、休みの台風も、そんなに悪くない。】
カーテンを開けると、外は見えないほどの雨。
「土曜なのに……」
学校をズル休みしているのに、週末遊びに行くなんて許さないと天が言っているのだろうか。
昨夜、寝る前に明日はラクだ、何ならちょっと楽しみだ、と思った罰だろうか。
この台風が月曜に来てくれたなら、小躍りして喜んだだろう。
なんて不謹慎なことを考えるから、私は神様にも嫌われる。
「久しぶりに、外に出たかったな……」
ゴウゴウと風が唸りを上げている。
私は小さな溜息を吐き、のろのろ着替えると階段を下りた。
台所には父の姿があった。
「おはよう、縁」
「おはよ」
「台風だよ」
「……ね」
意気消沈している私を見て、父はクスリと笑った。
「何作ってるの……?」
私は父がカシャカシャ音を立ててかき混ぜるボウルを覗き込んだ。
「こんな日は、ゆっくりクレープでも食べるのがいいだろう」
「久しぶりだね」
私の心は少し弾んだ。
「手伝う」
私は腕まくりをして、手を洗った。父は冷蔵庫を覗いた。
「買い出しに行けてないけど、レタスとハムとツナはかろうじてある。あとはバナナとヨーグルト……」
「これ全部食べたら、冷蔵庫空っぽだね」
「明日まで台風が居座ったら、後はカップラーメンに頼るしかないな」
父は楽しそうにハハッと笑った。
「生クリームがないから、チョコでも刻むかい?」
私は「うん」と答えると、板チョコを出してまな板の上でスライスするように細かく刻んだ。
「レンチンでいいよね」
父は「少しずつするんだよ」と言いながら、温めたフライパンにクレープ生地を流し込んだ。
ジューッといい音がして、あっという間に甘い香りが部屋中に漂った。
「ああ、ちょっと火が強すぎた」
父の少し焦った声が聞こえ、ふふっと笑った。
「一枚目が一番難しいんだ」
父はそう言いながら、あっという間に焼けた、少し焦げた色のクレープをお皿に出した。
「人生と一緒だな」
「ええ?」
「いつだって、最初が一番難しい」
父はたまに、こんなことを言う。
「二枚目だって、三枚目だって、難しいかもよ」
私はそう呟いた。
「はは、そうだな。よし、頑張るとしよう」
父はフライパンを濡れ布巾の上に乗せ少し冷ますと、二枚目のクレープを焼き始めた。
クレープは、きれいなきつね色に焼きあがった。
「さ、食べよう」
テーブルの真ん中にクレープが積み重なったお皿を置き、その右側にレタスとハムとツナとスライスチーズを乗せたお皿。左側には薄く切ったバナナと溶かしたチョコを置く。小さなヨーグルトは一つずつ。
父はブラックの珈琲、私は、それに牛乳をたっぷり入れたカフェオレ。
昔、父が豆から挽いて飲む珈琲に憧れてしょうがなかった。
小学生の頃、牛乳にそれをちょろっと入れてもらい、蜂蜜も足して、ほんのり薄ーく色のついた甘い牛乳を父と並んで飲んだ時の喜びは今でも覚えている。
ひとつ大人に近づいた気がした。
あの頃は、早く大人になりたくて仕方なかった。
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせると、自分の皿にクレープを一枚取り、好きな具を並べる。
私はレタスとツナとマヨネーズ。父はハムとチーズとケチャップ。
休日の朝、ゆっくりと食べるクレープはいつだって特別な味がする。
「雨戸閉まってると、夜みたいだね」
縁側の雨戸は絶えずガタガタと音を立てていた。
「古い家だけど、丈夫な雨戸だから心配ないよ。部屋のカーテンは閉めておくんだよ」
「はあい」
テレビは台風の情報一色。日本中が台風の行方を気にしている、非日常な土曜日の朝だった。
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お父さんは部屋で仕事、私も部屋でダラダラ。
堂々とダラダラできる、休みの台風も、そんなに悪くない。】
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