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学校に行きたくない私と、来未(くるみ)の九月の話。
九月八日(月)全てがバレた日。
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【九月七日(日)晴れ。
台風は夜のうちにいなくなっていた。
まだ少し風が残る中、お父さんと買物をして、夜はお気に入りの中華料理店でエビチリを食べた。
楽しかった。
でも、明日は月曜日。
大丈夫、週末を楽しんだし、明日はちゃんと行く。】
月曜の朝は見事な快晴だった。
けれど、やっぱり私は、学校に行けなかった。
そして、夜、父が帰ってきた。
父の顔を一目見て「あ、バレた」とわかった。
父は、静かに話し始めた。
「縁、今日担任の先生から連絡があったよ」
キュッと心臓が痛くなった。
父の顔が見られなくて、下を向いた。
「……今月いっぱいくらい、休んでみるか?」
父の予想外の言葉に、私は「え?」と顔を上げた。
「あの高校では、今月いっぱい休んだくらいでは出席日数に問題はないらしい。ただし期末テストは受けないといけない。でもそれに関してはあまり心配していないんだ」
言葉の出ない私をよそに、父は穏やかに話し続けた。
「縁は自分で勉強できるタイプだし、わからないことはできる範囲でお父さんが引き受けることを先生に伝えておいたから、大して問題はないだろう」
父は、私の目を見て微笑んだ。
「だから、今月いっぱいくらい、気にせず休んでも大丈夫だよ。どうするかは、縁が自分で決めなさい」
私は胸がいっぱいになった。
「……私」
私は、勇気を出して口を開いた。
「私……毎日、行かなきゃって思うの」
「うん」
父の声は、とても優しかった。
「毎日、毎日……そう思うの」
「うん」
「でも、どうしても、行けなくて……」
「うん」
「お父さん、私……」
声が揺れた。
「……休みたい……」
父は「うん、わかった」と頷いた。
そして、ポンと私の頭を撫でた。
「誰にでも、休みは必要だ」
父の手は、とても温かかった。
堪えていた涙が、一粒、零れた。
「一つだけ、お父さんからアドバイスしてもいいかい?」
私は「うん」と、なんとか声を出した。
「お父さんは、せっかく休むなら、有意義に休んだらいいと思うんだ」
「有意義に……?」
「縁の心が『したい』と感じることを、何でもしてみたらいいと思うんだよ」
私は、ゆっくり顔を上げた。
「学校に行っていないことに負い目を感じて縮こまるのではなく、やりたいことを存分にしてみなさい」
父の目は、ずっと優しいままだった。
「何も心配いらない。夏休みが一か月延びただけだ」
私は、その目に安心した。
「うん……わかった……」
「最後に一つだけ、縁」
父が真剣な眼差しを私に向けた。
「はい……」
私は少し緊張した。
「お父さん、先生に言われるまで何も気づけなくて、申し訳なかった」
私は驚いて、首をブンブンと振った。涙がとめどなく溢れた。
「そんなことない……! 私こそ、言えなくて……ごめんなさい」
「縁が謝ることは何一つないよ」
父はもう一度、私の頭をポンと撫でた。
「……話せてよかった」
「うん……」
「今日はゆっくり寝なさい」
「うん……」
私は一度立ち去ろうとし、振り返った。
「……お父さん、ありがとう」
微笑んだ父の瞳は、潤んで見えた。
ベッドに突っ伏すと、スマホにメッセージの着信があった。
クルミからだった。
【今日の黒板だよー!】
複数枚の写真がアップされた。
私はすぐに返信を打った。
【クルミ、いつもありがとう】
【この前も、雨の中プリント持ってきてくれてありがとう。すごく嬉しかった】
しばらく間があって、返信が届いた。
【よかったー!!】
【これくらい全然いいよ! ゆかりがイヤじゃなかったら毎日送るね!】
最後にシロクマがハートを振りまいて踊っているスタンプがあった。
クルミらしくて、思わず笑った。
「クルミ、本当にありがとう……」
その夜、私は流れる涙を気にすることなく気の済むまで泣いた。
気持ちのいい、涙だった。
台風は夜のうちにいなくなっていた。
まだ少し風が残る中、お父さんと買物をして、夜はお気に入りの中華料理店でエビチリを食べた。
楽しかった。
でも、明日は月曜日。
大丈夫、週末を楽しんだし、明日はちゃんと行く。】
月曜の朝は見事な快晴だった。
けれど、やっぱり私は、学校に行けなかった。
そして、夜、父が帰ってきた。
父の顔を一目見て「あ、バレた」とわかった。
父は、静かに話し始めた。
「縁、今日担任の先生から連絡があったよ」
キュッと心臓が痛くなった。
父の顔が見られなくて、下を向いた。
「……今月いっぱいくらい、休んでみるか?」
父の予想外の言葉に、私は「え?」と顔を上げた。
「あの高校では、今月いっぱい休んだくらいでは出席日数に問題はないらしい。ただし期末テストは受けないといけない。でもそれに関してはあまり心配していないんだ」
言葉の出ない私をよそに、父は穏やかに話し続けた。
「縁は自分で勉強できるタイプだし、わからないことはできる範囲でお父さんが引き受けることを先生に伝えておいたから、大して問題はないだろう」
父は、私の目を見て微笑んだ。
「だから、今月いっぱいくらい、気にせず休んでも大丈夫だよ。どうするかは、縁が自分で決めなさい」
私は胸がいっぱいになった。
「……私」
私は、勇気を出して口を開いた。
「私……毎日、行かなきゃって思うの」
「うん」
父の声は、とても優しかった。
「毎日、毎日……そう思うの」
「うん」
「でも、どうしても、行けなくて……」
「うん」
「お父さん、私……」
声が揺れた。
「……休みたい……」
父は「うん、わかった」と頷いた。
そして、ポンと私の頭を撫でた。
「誰にでも、休みは必要だ」
父の手は、とても温かかった。
堪えていた涙が、一粒、零れた。
「一つだけ、お父さんからアドバイスしてもいいかい?」
私は「うん」と、なんとか声を出した。
「お父さんは、せっかく休むなら、有意義に休んだらいいと思うんだ」
「有意義に……?」
「縁の心が『したい』と感じることを、何でもしてみたらいいと思うんだよ」
私は、ゆっくり顔を上げた。
「学校に行っていないことに負い目を感じて縮こまるのではなく、やりたいことを存分にしてみなさい」
父の目は、ずっと優しいままだった。
「何も心配いらない。夏休みが一か月延びただけだ」
私は、その目に安心した。
「うん……わかった……」
「最後に一つだけ、縁」
父が真剣な眼差しを私に向けた。
「はい……」
私は少し緊張した。
「お父さん、先生に言われるまで何も気づけなくて、申し訳なかった」
私は驚いて、首をブンブンと振った。涙がとめどなく溢れた。
「そんなことない……! 私こそ、言えなくて……ごめんなさい」
「縁が謝ることは何一つないよ」
父はもう一度、私の頭をポンと撫でた。
「……話せてよかった」
「うん……」
「今日はゆっくり寝なさい」
「うん……」
私は一度立ち去ろうとし、振り返った。
「……お父さん、ありがとう」
微笑んだ父の瞳は、潤んで見えた。
ベッドに突っ伏すと、スマホにメッセージの着信があった。
クルミからだった。
【今日の黒板だよー!】
複数枚の写真がアップされた。
私はすぐに返信を打った。
【クルミ、いつもありがとう】
【この前も、雨の中プリント持ってきてくれてありがとう。すごく嬉しかった】
しばらく間があって、返信が届いた。
【よかったー!!】
【これくらい全然いいよ! ゆかりがイヤじゃなかったら毎日送るね!】
最後にシロクマがハートを振りまいて踊っているスタンプがあった。
クルミらしくて、思わず笑った。
「クルミ、本当にありがとう……」
その夜、私は流れる涙を気にすることなく気の済むまで泣いた。
気持ちのいい、涙だった。
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