今日も今日とて

滝川永茉

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学校に行きたくない私と、来未(くるみ)の九月の話。

九月九日(火)始まりの日。

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 その日はすごく暑かった。
「今日は小テストあったからプリントもらってきたんだ」
 クルミは自転車に跨ったまま、額から汗を流して言った。
「これも写真にとって送ればいいかなーと思ったんだけど、でもなんかテストって自分で書き込みたくない? 私だけ?」
「あ、ありがとう……」
 クルミの笑顔を前に、私の心臓はドキドキ高鳴った。
 言わなきゃ……。
「じゃあ、いきなり来てごめんね?」
 クルミは微笑んで、自転車のペダルに足をかけた。
 早く、言わなきゃ……!
「あ……上がってく!?」
 しまった、声が裏返った。
 クルミがちょっと驚いた顔で私を見た。
 私はめげずに続けた。
「今日、外すごく暑かったでしょ……?」
 クルミの瞳がちょっと輝いた。
「よかったら、お茶くらい――」
「いいの!?」
 私の声に被せるようにクルミが言った。
「やったー! お邪魔しまーす」
 言うや否やクルミは自転車をひらりと降りた。
 クルミはニコニコの笑顔でこちらを見ていた。
「ど、どうぞ……!」
 私はうわずった声のまま、クルミを玄関の中へ案内した。
「あ、自転車そのへんに停めて」
 クルミは「はーい!」と元気に返事をした。

 思い返すと、この日から、私とクルミの日常が始まったんだ。

「家、古いでしょ」
「すごーい、ジ〇リに出てくる家みたい」
 クルミは楽しそうに辺りを見回した。
「私も、そう思う」
「これ、縁側? 私、初めてかも」
「私も、ここ以外で見たことないかも」
 クルミはちょっとうずうずした様子で言った。
「……座ってみても、いい?」
「え? ああ、もちろん」
「じゃあ、そっちで飲もうか。って言っても、麦茶しかないけど……」
「お気になさらずー」
 私はとりあえず、縁側のガラス戸を大きく開いた。
 クルミは「わー、お庭いいなー」「案外、風吹くねー」などと話していた。
 その間、私は一人焦ってバタバタと冷蔵庫やら戸棚の中やらを漁った。
「あ! 暑いよね!? 私、自分の部屋にいたからこっちのエアコン切ってて……」
「ううん、この扇風機回してもいい?」
「あ、もちろん!」
「あの……アイスあるけど、食べる?」
「えー! 最高だよー!」
 そう言うとクルミは扇風機のスイッチを押し、縁側にペタンと座った。
「うわー、なんか夢が叶ったみたい」
「大袈裟だな」
「だって、縁側で扇風機かけながらアイスだよ! もうこれ完全にジ〇リ!」
 風か優しくクルミの髪を撫でた。
「日陰になってるからかな? 風があるとけっこう涼しいね」
 私は麦茶とアイスが乗ったお盆をクルミの横に置き、自分もクルミの隣に座った。
「あー、気持ちいいー」
 すっかりくつろいだ様子のクルミを見て、思わず心の声が漏れた。
「よかった……」
 クルミが「え?」と振り向いた。
 私は慌てて「ううん!」と首を振った。

 夜、メッセージを受信した。私はベッドに腰かけた。
【今日はありがとー!】
 クルミからだった。
【なんのおかまいもせず】
【こちらこそ、暑い中プリントありがとう】
 クルミからはすぐ返信が来た。
【また放課後、遊びに行ってもいい?】
 一度『別にいいよ』と打って、『別に』の文字を消した。ついでにビックリマークも足す。
【いいよ!】
 息つく間もなく返信が来る。踊っているシロクマだった。
【じゃあ、またねー! おやすみ】
【うん、またね。おやすみ】

「はあーー」
 私は声に出して、後ろ向きにベッドに倒れ込んだ。
 明日クルミが来るかはわからないけど、念のため放課後の時間までにいくつかお菓子のストックを買っておこう。
 朝起きて、ご飯を食べたらすぐ買物に行って、トイレと洗面の掃除もしておくか。
 あ、キッチンもけっこう汚れてたな。忙しくなる。
「明日はちょっと早く起きて、お父さんと朝ごはん食べよ」
 アラームをセットするついでに天気予報を見る。

 明日は、一日晴れるといいな。
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