星に還る君へ

朔名美優

文字の大きさ
1 / 1

星に還る君へ

しおりを挟む
 静かな夜だった。
 町の灯が遠く霞み、頭上には無数の星が瞬いている。病室の窓辺に座り、私は彼の手を握りしめていた。冷たさが少しずつ強くなっている。

 「ねえ、覚えてる?」
 彼はかすかな声で問いかける。
 「高校のとき、ふたりで抜け出して丘に登った夜」

 忘れるはずがない。あの時の星空は、今日と同じように澄んでいた。私は隣に座る彼の肩に頭を預け、ただ永遠を願った。

 「君が言ったんだ。星は死んでも、光が届くまで時間がかかるって」
 「⋯うん。何千年も昔に燃え尽きた星の光を、私たちは今見てる」
 「じゃあ僕も、⋯死んでも、しばらくは輝いていられるのかな」

 その言葉に胸が締め付けられる。冗談のように笑う彼の頬はやつれて、呼吸は浅い。
 私の記憶は、彼との日々で満ちていた。雨の帰り道、同じ傘の下でぎこちなく寄り添ったこと。受験勉強で夜更けまで励まし合ったこと。初めて手をつないだ日の鼓動。
 一つひとつが、光の粒のように胸に散らばっている。

 「もし僕がいなくなっても⋯、忘れないでね」
 「忘れるわけないじゃない」
 必死に答える私を、彼は穏やかに見つめる。
 「でも、忘れてもいい。君が前に進めるなら」

 星がひときわ強く瞬いた瞬間、彼の手の力がふっと抜けた。
 その時だった。窓から流れ込む月光の中で、彼の身体が淡い輝きを帯びたように見えた。
 涙で滲む視界の向こう、無数の星の粒が病室に舞い込み、彼を優しく包んでいく。

 「⋯⋯ユウくん?」
 呼びかけると、光の中で彼が微笑んだ気がした。
 そしてそのまま、星の群れに溶け込むように消えていった。

 残されたのは、静けさと、夜空いっぱいの輝き。
 私は窓を開け、冷たい風を受けながら空を仰いだ。
 そこには、彼が約束どおり生き続けるかのように、ひときわ明るい星が瞬いていた。

 私は星空の下、彼にもう一度、出会った。

           【了】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

聖女エーステリアの死

倉真朔
恋愛
聖女エーステリアはなぜ最愛の人に断罪されたのか。切ない物語です。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...