星に還る君へ

朔名美優

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星に還る君へ

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 静かな夜だった。
 町の灯が遠く霞み、頭上には無数の星が瞬いている。病室の窓辺に座り、私は彼の手を握りしめていた。冷たさが少しずつ強くなっている。

 「ねえ、覚えてる?」
 彼はかすかな声で問いかける。
 「高校のとき、ふたりで抜け出して丘に登った夜」

 忘れるはずがない。あの時の星空は、今日と同じように澄んでいた。私は隣に座る彼の肩に頭を預け、ただ永遠を願った。

 「君が言ったんだ。星は死んでも、光が届くまで時間がかかるって」
 「⋯うん。何千年も昔に燃え尽きた星の光を、私たちは今見てる」
 「じゃあ僕も、⋯死んでも、しばらくは輝いていられるのかな」

 その言葉に胸が締め付けられる。冗談のように笑う彼の頬はやつれて、呼吸は浅い。
 私の記憶は、彼との日々で満ちていた。雨の帰り道、同じ傘の下でぎこちなく寄り添ったこと。受験勉強で夜更けまで励まし合ったこと。初めて手をつないだ日の鼓動。
 一つひとつが、光の粒のように胸に散らばっている。

 「もし僕がいなくなっても⋯、忘れないでね」
 「忘れるわけないじゃない」
 必死に答える私を、彼は穏やかに見つめる。
 「でも、忘れてもいい。君が前に進めるなら」

 星がひときわ強く瞬いた瞬間、彼の手の力がふっと抜けた。
 その時だった。窓から流れ込む月光の中で、彼の身体が淡い輝きを帯びたように見えた。
 涙で滲む視界の向こう、無数の星の粒が病室に舞い込み、彼を優しく包んでいく。

 「⋯⋯ユウくん?」
 呼びかけると、光の中で彼が微笑んだ気がした。
 そしてそのまま、星の群れに溶け込むように消えていった。

 残されたのは、静けさと、夜空いっぱいの輝き。
 私は窓を開け、冷たい風を受けながら空を仰いだ。
 そこには、彼が約束どおり生き続けるかのように、ひときわ明るい星が瞬いていた。

 私は星空の下、彼にもう一度、出会った。

           【了】
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