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第8章 ヤーベ、王都ではっちゃける PARTⅠ

第98話 フィレオンティーナを受け止めよう

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「ふわぁ・・・」

体感にして、約二時間か。
カッシーナもあまり眠れてはいないだろうか。

「・・・イカンイカン」

すでに自分の中で王女を付けずにカッシーナと呼んでしまう事が問題だ。
どうも地球時代はモテない28年間だったからな。

今の様にイリーナやルシーナちゃんから慕われるなんて、夢のような話だ。

自分がこんな体じゃなかったらなーと思わないでもない。

・・・リーナは妹枠で。

「ふみゅう・・・」

ガッチリ俺の腰に抱きついて寝ているリーナ。
奴隷商人ド・ゲドーから買い受けた奴隷のリーナだが、そんなことは関係ない。
リーナは幸せにしてやらなければならない。
両親の事とか、ゆっくりリーナの気持ちを落ち着かせながら聞けることは聞いてみよう。
故郷があるなら連れて行ってやってもいい。
尤も、辛い思い出ばかりなら無理して里帰りする必要などない。

今のリーナが幸せになる方法を探せばいいのだから。

俺はそっとリーナの手を外すと、早朝の王都に散歩へ繰り出した。

「ふう・・・」

早朝の少し冷たい空気が俺の眠気を払い目覚めさせて行く。
だが、心のもやもやは晴れない。
別れ際のカッシーナが泣き叫ぶように俺に伝えてきた気持ちが心を抉る。

「まあ、彼女なら前に進めるさ」

自分に言い聞かせる様に呟く。

 

 

大通りをプラプラと散歩していると、前の方から二頭立ての馬車がパカパカと進んできた。
少し馬を速足で歩かせている。

「朝早くからえらく急いでいるんだねぇ」

馬車をよけて道の端まで移動する。その馬車がすれ違おうとした時、

「ヤーベ様!」

「えっ?」

見れば、馬車の御者台から女性がジャンプして宙を舞い、俺の方に飛んで来る。

「えええっ!?」


バフンッ!


女性が地面に叩きつけられない様に思いっきり抱きとめる。
勢いを殺すために、胸で抱きとめてクルンと一回転。
まるで舞踏会で踊るダンスのようにふわりと地面に足を付けさせてみれば、その人物はフィレオンティーナであった。

「フィレオンティーナ!?」

「はいっ!ヤーベ様、お待たせ致しましたわ」

いや、待ってませんけども。いつから俺が待ってる程になっていましたかね?

「フィ、フィレオンティーナ様、危ないじゃないですか!」

よく見れば御者台で手綱を慌てて引き締めている女性が。

「あら、パティさんすみませんね」

「もうっ! 絶対反省してませんよね・・・? って、もしかしてヤーベ様ですか!?」

「ん?」

何か、御者台の女の子も俺を知っているみたいだ。
慌てて馬車を止め、御者台から降りてくる。

「あ、あの、私パティって言います。タルバーンの街近くでキラーアントの群れに襲われているところを助けて頂いて・・・」

「ああ! あの時の!」

思い出した! タルバーンの街近くの街道でキラーアントの群れに襲われていた冒険者たちを助けたんだっけ。

「あの時は、いろんなことに驚いてしまって、声が出なくて、ちゃんとお礼も言えなくて・・・、あの時命を助けてくださって本当にありがとうございます!」

パティと自己紹介した狩人みたいな女の子が頭を下げてくる。
確かにキラーアントの群れから救い出した子だな。

「おおっ! ヤーベ殿、このデカイ王都で本当にあっさり会えてしまったな」

そう言って馬車の奥から姿を現した男。

「リゲンか! <五つ星ファイブスター>の」

俺は思わず声を上げた。

「おっ! 覚えててくれたのか、英雄サマに名前を覚えててもらえるのはうれしいね」

リゲンは快活に笑った。

「英雄?」

「王都へ向かう通りすがりの街々で大活躍してるじゃないか。凄すぎないか?」

「おいおい、噂に尾ひれがついているだけさ」

俺は苦笑して見せる。

「何言ってんだ。商業都市バーレールのオーク退治はもはや伝説級に盛り上がっていたぞ。ところで愛と正義の騎士『赤き暴風』って誰のこった?」

あ~~~、赤い彗星を狙ったのに、なんか変な二つ名が定着しちゃったな。ゲルドンがんばれ。

「なんだかスゲー槍使いらしいじゃないか、ぜひ一手仕合たいもんだね」

槍を担いだ男も話に加わる。

「俺は<五つ星ファイブスター>の前衛、カルデラだ。あの時は本当に助かった。改めてお礼を言わせてくれ、ありがとう」

そう言って頭を下げてくる。

「いやいや、パティちゃんもカルデラさんも、本当に気にしないで。たまたま通りすがっただけだし」

「通りすがりで人助けですか。通りすがりの命の恩人って感じですね」

神官服の優男が出て来た。

「いや~、ホントにあっさり王都で見つかったんだね。会いたい人に」

お姉さんも出て来た。

「アレンです。あの時は助けてくれてありがとうございます」

「ポーラだよ。ホントにサンキュね!」

あと一人、後ろで不貞腐れ気味の魔術師がいるが、触らない様にしよう。メンドクサイことになること間違いない。

「ホントに、マジで気にしないで」

俺は手を振って伝える。

「それにしても、ホントにフィレオンティーナ様はヤーベ殿が大好きなんですね」

ポーラと名乗ったお姉さんが頭をカキカキ笑っている。

そう言えば、<五つ星ファイブスター>の面々と話している間中、フィレオンティーナは俺を後ろから抱きしめていた。

フィレオンティーナはハイヒールタイプのブーツを履くと俺より背が高いんだな。若干上から包まれるように抱きしめられているような気がする。

・・・至福だ。

「もちろんですわ! ヤーベ様はわたくしの未来の旦那様なのですから!」

「いや、それはちょっと重いかなぁ」

「まあ、ヤーベ様? 女性に重いはキンシですわよ?」

フィレオンティーナに笑顔で睨まれてしまった。

「それにしても、こんな早朝に馬車で出立してきたの?」

俺は疑問に思って尋ねた。
この時間、王都バーロンの外壁門は開門したばかりだ。
だから、このバーロンで宿泊して朝早く出立してきたと思ったのだが。

「昨日は夜通し馬車で移動して来ましたから、徹夜ですわ。朝一番で王都に入りましたの」

「えええっ!?」

徹夜で移動? 何してんの? 答えが想定の斜め上を行ってるぞ。

「ここでヤーベ様に追いつかなければ、本当にヤーベ様の隣に立てるチャンスが無くなると思いましたので。わたくしとしましては絶対に今のチャンスを逃せないのですわ!」

「いや、よくわからんが・・・眠くないのか? 大丈夫か?」

「まあ、心配してくださいますの? 大丈夫ですわ! ヤーベ様に会えたのですから、元気いっぱいですわ」

「いや、元気ならいいけど・・・」

フィレオンティーナはずっと後ろから抱きついたまま喋っている。

「ヤーベ様、あれから増えてはいらっしゃいませんか?」

「え、何が?」

「あら、オ・ト・ボ・ケ? もちろん奥様の数ですわ。わたくし、第三夫人の立場をまだ守れておりますでしょうか?」

そのフィレオンティーナの発言にパティが絶句する。

「ええっ!? フィレオンティーナ様が第三夫人!?」

「ヤーベ殿、貴殿とんでもないハーレムを築こうとしているのか?」

リゲンまでツッコミを入れてくる。

増えているか・・・うん、増えていないよね。今は。

「・・・ヤーベ様、どうやらお心には増えていらっしゃる様子ですわね」

フィレオンティーナが後ろからほっぺの両側をむにゅっと引っ張る。

「ふぃれうぉんふぃーな、にゃにをしゅる」

「これは、ゆっくりお話を伺わねばなりませんわね。朝ごはんが食べられるお店にでも行って、ゆっくり聞かせてくださいませ」

そう言って今度は俺の右腕を自分の左手を回して抱え込むようにすると、大きな胸で挟んでガッチリとロックする。

「ささ、行きますわよ」

俺を引っ張ってどんどん進んで行くフィレオンティーナ。
姐さん女房もちょっといいかも、と思ってしまったのは内緒だ。

 
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