君がくれた箱庭で

Daiwa

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序章 ep0

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死のうと思った。
ただそれだけだった。

閉じているはずの屋上の扉が今日は偶然にも開いていた。
たったそれだけをきっかけに僕の心は決まった。

進入禁止のテープをまたぎ、ほとんど踏まれていない、新品みたいな階段を一段一段踏んでいく。
夏の夜の街灯に誘われる羽虫のように、僕もまた、階段の先に待つ不思議な陽の光に吸い込まれていく。
悔いはあるだろうか。分からなかった。引力と呼ぶべきか、何かそういった類の大きな力だけで足はどんどん進んでいく。

鍵の開いたその扉に重さは無かった。

生まれて初めてみるその屋上には生い茂る緑と少女があった。

少女は問う。何をしに来たのかと。
「死にに来た。」
それは困ったと少女は笑う。
続けて少女が問う。人生とは何かと。
「…人生とは……箱庭だ…。僕らが思うよりずっとずっと狭い。」
そいつはいい!と少女は豪華に笑う。
その姿はまるで舞台女優のようだった。
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