君がくれた箱庭で

Daiwa

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人生最悪の春休み ep1

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 飛行機事故というものは何も映画や漫画などのフィクションのものではない。
 近年、技術力の向上ゆえか、人が死亡するような事故というのはめっきり減ったように感じるが、それでもゼロではない。ゼロではないということはつまり「確かにある」ということだ。当たり前のことを言っているだけと思うかもしれないが、この科学な現代においては案外忘れられていることである。ありとあらる物事が数値で計られ評価される。しかしそれがやっぱり窮屈になったのか。はたまた企業の利益のためか。微小な量は端数として無いものとされる。確かに存在するのに人はそれを無いとする。あるのに無い。ゼロじゃないのにゼロ…
 前置きが大変長くなって申し訳ないので、端的に言おう。すでに察しのついている人もいると思うが僕の両親が死んだ。乗っていた飛行機が事故を起こしたのだ。原因はバードストライクというらしい。たまたま近くを飛んでいた鳥が飛行機のエンジンに吸い込まれる。そうなるとエンジンは当然止まるわけで、エンジンが停止した飛行機の末路はご想像の通りだ。家で一人っきりを満喫していた僕はこの報せを聞いたとき、心がぐちゃぐちゃになった。もちろん両親が死んだのは悲しい。二人の骨の欠片が見つかるまでは生存者の中に両親の名前があることを願おうとした。しかしお祈りの期間は対して長くなった。そもそも生存者が3人しかおらず、一目見れば両親がそこにいないことぐらいわかった。パイロットのほか乗組員もみんな死んだ。テレビでは数日で意識が回復した一人の乗客、通称「奇跡の男」の特集ばかりだ。それが目に映るたびに、僕の心はまたぐちゃぐちゃになる。
 残りの春休みのことはほとんど覚えていない。いつのまにか祖母の家に引き取られることになり、いつのまにか転校の手続きが済んであり、いつのまにか新学期前日になっていた。こうして僕の人生最悪の春休みは終わりを迎えた。
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