みずいろのえのぐ

舟崎葵葉

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みずいろのえのぐ

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土ようびのおひるすぎ、ヒロシはバットとグローブをもって公園にいきました。
「これ、Dリーグのおおやま選手が打ったホームランボールだぞ」
「すごいなぁー、サインボールだって」
テツオのまわりに、みんながあつまっています。

「いいなぁ」
ヒロシもおおやま選手のファンです。
「ボールにさわらせて、さわらせて!」
みんながくちぐちにいいました。

「いいよ、このボールで野球をしようぜ」
「やったー!!」
みんながグローブをもつと、それぞれのポジションにはしりました。

ヒロシのポジションは、がいやです。
ひざまでのびている草むらにたつと、みんなが小さくみえました。

テツオがバッターボックスにたって、バットをぐるんぐるんとふりまわしています。
「カキーンッ」
ボールが空たかくあがりました。ホームランです。

ヒロシはボールをおいながら、うしろにさがると、
「ヒロシ、ボールいったぞ!」
テツオのこえにびっくりして、ヒロシはしりもちをつきました。

「いて、いててててっ」
ヒロシがおきあがると、こわい顔をしたテツオがたっていました。
「おいっ、ボールどこかにいっちゃったじゃないか。ヒロシのへたくそ」
「なにを!」
ヒロシがテツオにつかみかかると、みんながあいだにはいってとめました。
「ケンカはダメだよ。みんなでさがそう」
しかし、いくらさがしてもどこにもみあたりません。
ゆうやけこやけの曲がきこえると、ひとり、ふたりと家にかえっていきました。

公園はヒロシとテツオのふたりだけです。
「あしたまでにボールをみつけなかったら、にどとなかまにいれてやらないからな!」
テツオがバットとグローブをもって、公園をでていきました。
「なんだ、テツオのやつ。そんなにボールがだいじなら、もってこなければよかったんだ。ちょっとからだが大きいからっていばりやがって」
ぶつぶついいながらボールをさがしていると、公園のなかのあかりがつきました。

(おかあさん、しんぱいしているだろうな。ボールはあきらめて家にかえろう)
ヒロシはたちあがって、服についた葉っぱやすなぼこりを手ではらいました。

公園のかどをまがって、さかみちをのぼるとヒロシの家があります。
あるきだすと、テツオの顔がうかんできました。
(やっぱり、もうすこしさがそう……)

きたみちをもどって、公園のなかにはいると、
あかりのしたに、古いもくざいでできた屋台がでています。
『えのぐや』とかかれた白いはたが風にゆれていました。

屋台をのぞくと、色とりどりのえのぐがならんでいます。
台のおくに、いすにすわってえをかいているおじいさんがいました。
しわしわの手にふでをもって、パレットのえのぐをあれこれとまぜています。

「きれいだなぁ」
ヒロシはつぶやきました。
パレットのえのぐがホタルのようにピカピカひかっているのです。

ヒロシがえのぐをながめていると、
「あれ? みずいろがない」
右から左までなんどみても、みずいろのえのぐがおいてないのです。
「つかいかけのえのぐならある」
おじいさんが、おりまがっているみずいろのえのぐをだしました。
うすいようなこいような、みたこともないみずいろです。
ヒロシがつかむと、ポチャンとみずのおとがしました。
「あれ? なにかきこえる」
耳にえのぐをあてると、かすかにみずのおとがするのです。
「これ、ぼくにちょうだい」
ヒロシは、えのぐをつかってみたくなりました。

「タダではやらん」
そういって、おじいさんはまたえをかきはじめました。

ヒロシがもっているのはバットとグローブだけです。
(どうせ、ボールはみつからないよ)
えのぐのよこにバットとグローブをおきました。

「これとこうかんして」
「いいだろう、えのぐをもっていけ」
ヒロシはみずいろのえのぐをポケットにいれました。

「いちどにつかいすぎるなよ」
せなかごしにおじいさんの声がきこえてきました。

どっぷりとひがくれるころ家につくと、ヒロシはポケットからえのぐをだしました。
ポチャン……、ポチャン……
みずいろのえのぐから音がきこえます。
ふでにえのぐをつけると、がようしのまんなかに大きくまるをかきました。
なかをぬりつぶすと、まるで池のようです。

「そうだ、公園が池になればいいんだ。みんなも野球ができなくなるぞ」
テツオたちのこまっている顔があたまにうかんできました。
「ホームベースは池のそこ。コイやカメもおよがせて……」
ヒロシはむちゅうになってえをかきました。

ピチャン ピチャン ピチャン……

「あれ? みずがこぼれてる」
つくえをふいていると、
「バッシャーーンッ」
コイがつくえのうえにとびだしてきました。

「たいへんだ!」
あわててコイをつかんで池にもどしました。
がようしをもちあげると、みずがザバーンとあふれてきました。
ゆかがみずびたしです。
ヒロシは、がようしをかかえてそとにとびだしました。

さかをかけおりると、池のみずがバシャバシャとゆれて、ぶずぬれになってしまいました。

公園につくと、ホームベースがあったところに大きなあながあいて池ができています。
「ぼくがかいたえとおんなじだ!」
ヒロシはめをまんまるにして、池をながめました。
すべり台もブランコもすな場もぜんぶ池のそこにしずんでいます。

(どうしよう……、ほんとうに野球ができなくなっちゃんった)
ヒロシの目からなみだがあふれてきました。
なみだでえがところどころにじんでいます。

ポツン…、ポツン…、ポツン……
ヒロシがそらをみあげると、まっくろのくもからおおつぶのあめがおちてきました。
「ザーーーーーーッ」
バケツをひっくりかえしたような雨がふってきました。
「バシャンッ、バシャンッ…バシャンッ、バシャンッ……」
ヒロシがはしりだすと、あしもとまでみずがたまっています。
「家にかえりたいよ」
あっというまにこしまでみずにつかると、大きな波にのまれてしまいました。

「た、たすけてえー」
ひっしにみずのなかをもがいていると、目のまえに大きなカメがあらわれました。
ヒロシががようしにかいたカメとそっくりです。
こうらにしがみつくと、カメがいきおいよくおよぎだしました。
ヒロシは、おちないようにぎゅっとしがみつきました。

「あれ?」
波のあいだにみおぼえのあるボールがプカプカうかんでいます。
「サインボールだ! テツオにかえさなきゃ」
ザバン…、ザバン…、ザバン……
ヒロシが手をのばしてもなかなかボールにとどきません。
大きな波がうちよせてきて、たくさんのコイが口をパクパクしながらおよいできました。
「サインボールがのまれちゃうよ」
ヒロシはカメをおりて、みずのなかにとびこみました。
「ぷはぁーーーっ」
コイのあいだから顔をだすと、サインボールがみえました。
「やったーー! ボールとったぞー」

よくあさ、きがつくとヒロシはベッドのなかにいました。
つくえのうえにバットとグローブがおいてあります。
「たしか、こうえんのえをかいたんだけど……」
がようしはどこにもみあたりません。
「そうだ、サインボールをさがさなくちゃ」
ヒロシはあわてて家をとびだしました。

公園につくと、ホームベースもブランコももとにもどっています。
くさむらのしげみにサインボールがおちていました。
「あった、あった!」
ヒロシがほっとしていると、公園のいりぐちからガヤガヤとはなしごえがきこえてきました。
テツオたちです。
「ボールみつかったか?」
「あったよ」
ヒロシがボールをさしだすと、テツオがはをだしてニカっとわらいました。

「きのうはごめん」
「ぼくもボールとれなくてごめん」
「おれたち、かわりのボールもってきたんだ」
「ほんとう?」
「キャッチボールしようぜ」
「うん」
みんながふたりずつにわかれて、キャッチボールをはじめました。
「ヒロシ、いくぞー」
テツオがなげたボールがそらたかくあがりました。




















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