【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)

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5 騎士団という場所

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「トルイユ卿は、普段どんな仕事をされているんですか?」
「ニコラでいいよ。先輩といってもきみと同じ見習いだからね。敬称もいらない。……うちの隊長はものすごく手がかかってね、お茶の準備だとか雑用だとか、たまに着替えなんかも手伝っているし、いろいろだね。どこも似たようなものだと思うよ。ああ、それから――」

 そこまで言ってニコラが声をひそめ、顔を近づけてくる。内密な話なのだとわかって、リュカも顔を近づけた。

「いちばん大変なのは、寝室の仕事かな」
「寝室、ですか?」

 寝室の仕事と聞いて思い浮かんだのは、寝具の交換だった。確かに手間ではあるだろうが、大変というほどには思えない。寝具類は自分で洗濯するわけではなく、洗濯室に持っていけばいいだけなのだから。
 首を傾げたリュカを見て、ニコラはどこか気の毒そうな顔になった。

「騎士団は女人禁制で、自由に外出できるわけではないからね。同性をそういう対象にすることもあるんだ。怖がらせたいわけじゃないんだけど、正直言ってリュカみたいな子は気をつけたほうがいい」
「あ……」

 はっきりと言われなくても、ニコラの言いたいことはわかった。アレックスもリュカのことを「狼の群れに飛び込んだ羊」と言っていた。

「……そういうことは、よくあるんでしょうか?」
「残念ながらね。騎士全員が同じことを考えてるわけではないけど、よく聞く話だよ」
「……そう、ですか」

 ニコラが言ったように、城の敷地外へ自由に出られないことも要因のひとつとなっているのだろう。災害や事故、魔物討伐部隊への臨時応援。そういった非常時に備えて、一般騎士は非番を除き外出禁止になっている。

 リュカを隊長の側仕えにした理由が、よく理解できた。先ほどアレックスから理由を聞いたときは大げさだと思っていたが、ここでは男が男を性的な対象とすることがあり得るのだ。騎士団という場所には、そういった風習が古くから根づいている。

 リュカはその可能性をよく知っていた。そのはずなのに、いままで暮らしていたあの場所以外は違うのだと、外の世界は違うのだと、勝手に思い込んでいた。

「もちろん、強制されることはないから、いやなら断ればいい話なんだ。……以前、一般寮で問題が起こってからは、見習いにも事務官との定期的な面談が設けられたし、事情に応じて部屋替えや叙任後の配属も考慮してもらえるようになった」

 一般寮で起こった問題というのが、どういった類のものだったのかは想像に難くない。

「あのサイファート隊長が……とは正直考えにくいけど、僕もあのひとのことをよく知らないからね。……もし、いやなことを命令されたらきちんと拒んだほうがいい。相手は自分が仕える相手で、先輩の騎士であり、自分よりも上位の貴族だ。それで、断りきれずに関係を持ってしまった……って事例もあるみたいだからね」

 そこまで言って、ニコラは一度短く息を吐き出した。もしかすると、一般寮で起きた問題にはニコラの身近なひとが関わっていたのかもしれない。

「絶対に、流されちゃだめだよ。なにかあれば僕も力になるからね。せっかく騎士を志して入団したのに、そんな理由で辞めてほしくないんだ」
「はい。……ありがとうございます」

 罪悪感を覚えた。騎士を志して入団した、というニコラのことばに。リュカは騎士になりたくて入団したわけではない。本当の理由を言えば、きっとニコラはリュカを軽蔑するだろう。

「……あの、こんなことを訊くのも失礼かと思うんですが、ニコラはどうしてこんなに親身になってくれるんですか?」

 リュカの問いかけに、ニコラは笑みを浮かべた。まるで込み上げる苦しみをごまかすような笑顔だった。

「きみに同じ思いをしてほしくないからだよ」
「あ……」

 訊くべきではなかったことを訊いてしまった。
 そう気づいて、ニコラに謝ろうとしたときだった。突然肩に重みを感じて左側に顔を向けると、見知らぬ男と間近で視線が合った。いつの間にか隣に座られていたのに、まったく気づけなかった。

「楽しそうだね。なんの話してんの?」

 赤みがかった茶色の髪をした、体格のいい男だった。下がった目尻に色気のある美丈夫で、やや癖のある髪を肩まで伸ばしている。顔は笑っているが、灰色の瞳はみじんも笑っておらず、肩をつかむ指が痛いほどに食い込んでいる。身に着けている制服から男が隊長であるとわかって、とっさに口を噤んだ。

「……っ」
「ハルネス隊長、やめてください。その子は今日入団したばかりの新人ですよ」
「新人? それにしてはずいぶん親しそうに見えたけど?」

 どうやらこの男は、ニコラが側仕えをしているロアン・ハルネスであるらしい。

「寮生活の話をしていたんです。あまり大きな声で言えないこともありますから」
「あー、なるほどね。夜のお勤めの話? 俺たちが毎晩愛し合ってるって教えてやったんだ?」

 ハルネスがにやりと笑って、リュカの肩をつかむ手の力を抜いた。

「だから、声が大きいですって。――ごめんね、リュカ。このひと過保護だから、僕に関することだと気が短いんだ」
「なんだそれ。遠回しなのろけ? 自慢?」
「事実を言ったまでですよ」
「はいはい、事実ですよ。――悪かったな。きみ、痛みはないか?」

 ニコラに笑って返したハルネスが、隣のリュカに視線を移して訊いてくる。
 ニコラのあの笑みを見ては、リュカがなにかしていたのではないかとハルネスが誤解してしまったのも無理はない。

「はい、大丈夫です」
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