【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)

文字の大きさ
23 / 35

23 あなたに抱いてほしい ※

しおりを挟む
 ほとんどことばを交わすことなくアレックスとふたりで夕食を終えて、部屋に戻って交互に風呂を済ませた。
 念入りに身体を洗いながら、大それたことを言ってしまったとリュカはひどく後悔した。
 きっと、アレックスはリュカのことを軽蔑しただろう。それはしかたのないことだが、アレックスの意思を無視するような卑怯なやり方を選ぶべきではなかった。

 寝室のドアノブを握る手が震えている。心臓が飛び出してしまいそうなほどにやかましい。
 そっと寝室のドアを開けると、アレックスはいつも座っている窓際の椅子ではなく、ベッドに腰を下ろしていた。部屋は暗く、枕元にあるランプの灯りはついているが、背中を向けているので本を読んでいるのか、ただ座っているだけなのかは判別できない。リュカが部屋に入ったことくらい気づいているだろうに、アレックスはなんの反応も示さなかった。

「アレックス隊長……」

 そばに行って声をかけると、アレックスはようやく顔を上げてこちらを見た。

「先ほどは、大変失礼いたしました。……あんなことを言いましたが、無理ならいつもの魔力供給でお願いいたします。……その、くちづけも無理をなさっているのなら、しなくても……」
「……オレが魔力を供給しなければ、おまえはウィルフリッドのところへ行くんだろう」
「そうなりますが、アレックス隊長が望まないのでしたら、俺は――」

 不機嫌そうにリュカのことばを遮り、アレックスが口を開く。

「おまえにウィルフリッドのところへ行かれては困るから、オレが抱くと言ったんだ。何度も同じことを言わせるな」

 逃がすまいとするように、強い力で腕をつかまれた。アレックスの手は、やけどしそうなほどに熱い。

「でも……アレックス隊長は、俺を抱けませんよね?」
「なにを言っている?」
「アレックス隊長は、男を抱けないと聞きました」

 リュカがいた娼館の客は貴族の男だけで、扱っているのは男娼だけだった。友人だった男娼の話によると、そもそも男娼だけの店はかなりめずらしいらしい。この国では圧倒的に娼婦しかいない娼館のほうが多いのだ。
 アレックスが通っていた娼館の詳細は知らないが、リュカへの魔力供給をくちづけだけで済ませていたことといい、最初の晩に手を出さなかったことといい、ハルネスのことばを肯定するだけの条件がそろっている。

「そんなこと、だれが――いや、ハルネスだな……あいつ」

 忌々しそうに低い声でつぶやき、アレックスが舌打ちする。

「娼館では、女性を抱いていたんですよね?」

 女だろうと男だろうと、アレックスが毎晩だれかを抱いていたのかと思うと、胸が軋んでじくじくと痛みを発した。

「おまえを抱けないとは言っていない」

 このうつくしい水色の瞳は、リュカの欲望など見透かしているのかもしれない。アレックスのやさしさがうれしいのに、すごく苦しい。

「……では、無理はしないと約束してください」
「それはオレが言うことだ」
「俺は、無理なんてしてません」
「そんなに身体を固くして言うことじゃない。……おまえは、本当はウィルフリッドの部屋に行きたいと思っているんじゃないのか? ――いまなら、逃がしてやってもいい」

 そう言いながらも、アレックスはリュカの腕をつかむ手の力を緩めなかった。

「たしかに、俺はウィルフリッド殿下のことを……」

 そこまで言いかけて、腕に痛みが走った。怒りに満ちた瞳がリュカをまっすぐに射抜く。

「でも……俺は、あなたに抱いてほしい」
「……っ、あまり、オレを煽るな。自制が利かなくなる」

 殴りかかってきそうな形相で言いながら、アレックスはリュカをベッドへ引きずり込んだ。ベッドに押し倒されて、アレックスを見上げる格好になる。

「あなたの好きに扱ってください。俺は、あなたのものですから」
「――黙れ」

 乱暴なことばを吐きながら押しつけられた唇は、ずいぶんとやさしかった。唇を伝って流れ込んでくる魔力の温かさに涙がこぼれそうになる。アレックスの魔力は、とてもやさしい。

 しばらくのあいだ唇を押し当ててから離し、アレックスがべつの角度から顔を寄せてくる。それが何度も繰り返されて、唇が触れ合う感触の気持ちよさにリュカの身体はみるみるとこわばりをほどいていった。

「ん……っ」

 ふいにくちづけが深くなって、口内にぬるりとしたものが入り込んでくる。リュカが驚きに身体を跳ねさせ、顔を背けても、アレックスの手が顔の向きを強引に変えて、またそれがなかに入ってくる。

「ふぁ……っ、んう……ッ!」

 それがアレックスの舌なのだと気づいて、かっと頭に血が上った。まるでリュカの弱点を探すかのように口内をあちこちつついて回った舌先は、やがてリュカが反応した場所を重点的に責め立てた。

 歯の付け根をくすぐられ、上顎を舐められ、舌先を吸われる。舌を絡めろとばかりに舌先を食まれ、おずおずと舌を突き出せばくちづけはいっそう濃厚になった。
 混ざり合ってどちらのものかわからない唾液を、何度も何度も嚥下した。快感にとろけたリュカの身体は、べつの生き物のようにやわらかくなっていく。呼吸が乱れ、火照っていく。

「……は、あ……っ」

 熱い。身体が熱い。自分の身体の一部が反応していることに気づいて身を捩ろうとしたが、アレックスの身体が上に乗っていて身動きが取れなかった。

「こっちも触ってほしいのか?」
「――んあ……ッ!」

 艶めいた声に耳元でささやかれ、脚の付け根を硬いもので擦られた。自由になった唇から自分のものとは思えないような声が漏れて、とっさに手のひらで口を覆ったが、すぐにアレックスの手に退けられる。

「唇を覆ってしまっては、魔力が供給できんだろうが」
「だっ、あ……こえ……ッ」
「余計な心配はするな。防音魔法をかけてある」
「そ、じゃな……っ、あっ」

 部屋の外に声が聞こえる可能性なんてまったく考えていなかった。むしろ室内の相手に聞かれたくなかったのだ。
 リュカの両腕をつかんだまま、アレックスが性器を圧迫してくる。

「なんだ、オレに聞かれたくなかったのか。なおさら、そんな心配は不要だ」

 どうして心配が不要になるのか、意味がわからない。男の声なんて不快でしかないだろうに。アレックスはずっと不機嫌そうな顔のままで、リュカがどんな反応をしても苛立っているようにしか見えなかった。

「や……っ、も、でちゃ……ああ……ッ!」

 このままでは下着や寝間着を汚してしまう。必死に手足を動かすと、両腕は解放されたが、代わりに寝間着のズボンを脱がされた。

「どうやら遅かったようだな。下穿きに染みができているぞ」
「……っ」

 下着の布地を持ち上げ、色が深くなったそこをアレックスにじっと見つめられて、あまりの羞恥に泣きたくなった。その上、アレックスの手に寝間着だけでなく精液で汚れた下着もすべて取り払われ、裸にされた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚だと思っていたら、(溺愛)夫にガブガブされて、番になっていたようです

まんまる
BL
フレア王国の第3王子シルティ(18歳.Ω)は、王宮騎士団の団長を務める、キーファ侯爵家現当主のアリウス(29歳.α)に、ずっと片想いをしている。 そんなシルティは、Ωの成人王族の務めとして、自分は隣国のαの王族に輿入れするのだろうと、人生を半ば諦めていた。 だが、ある日突然、父である国王から、アリウスとの婚姻を勧められる。 二つ返事でアリウスとの婚姻を受けたシルティだったが、何もできない自分の事を、アリウスは迷惑に思っていないだろうかと心配になる。 ─が、そんなシルティの心配をよそに、アリウスは天にも登る気持ち(無表情)で、いそいそと婚姻の準備を進めていた。 受けを好きすぎて、発情期にしか触れる事ができない攻めと、発情期の記憶が一切ない受けのお話です。 拗らせ両片想いの大人の恋(?) オメガバースの設定をお借りしています。ぼんやり設定です。 Rシーンは※つけます。 1話1,000~2,000字程度です。

【完結】ツンデレ妖精王が、獅子だけど大型ワンコな獣人王にとろとろに愛される話

古井重箱
BL
【あらすじ】妖精王レクシェールは、獣人王ガルトゥスが苦手である。ある時、レクシェールはガルトゥスに熱いキスをされてしまう。「このキスは宿題だ。その答えが分かったら、返事をくれ」 ガルトゥスの言葉に思い悩むレクシェール。果たして彼が出した答えは——。【注記】妖精王も獣人王も平常時は人間の青年の姿です。獅子に変身するけど大型ワンコな攻×ツンデレ美人受です。この作品はアルファポリスとムーンライトノベルズ、エブリスタ、pixivに掲載しています。ラブシーンありの回には*をつけております。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

処理中です...