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「ウーィ、もう一杯」
俺は三杯目の酒を飲み干し、マスターに座った目を向けてお代わりを催促する。
「おいおいお客さん。ちょっとペースが速すぎじゃないか?」
「大丈夫だよ。いつもこんなもんだ」
【血中アルコール濃度にはそれほど変化はありません】
もちろんこれは演技だ。俺も敵地に潜入している時に酔っぱらうほど馬鹿じゃない。
長年生きてれば少量の酒でも飲んだくれているように見せるコツってのを覚えるものだ。
【三杯とも全て一滴残らず飲み干されています。健康的、年齢的観点からこれ以上の飲酒は控えてください】
「……年齢的は余計だ」
まったくこいつがいるとコッソリ酒も飲めやしない。
だがこれぐらい酔ったふりをしておけば警戒もされないだろう。
「フィノはどの辺にいる?」
カウンターに座ったまま、小声で上着のポケットに入れたスリサズに話しかける。
【左斜め後ろ、奥から三列目のテーブルでカードを広げています。変装のせいか、客に占いをしろとせがまれたようです】
「そうやって情報を集めてるのかもな」
俺も客に上手く溶け込めたことだし、船長や船の鍵を探しに出るべきなのかもしれないが、酔っ払いが船長の居場所を聞いて回るというのもおかしな話だ。
そもそも前線に立って剣を振るばかりだった俺にとって、こういう隠密めいた作戦は不得手だった。
【それでは私の指向性集音マイクを使用しましょう】
「また俺になにかさせようってんなら、断る」
【合言葉の件を根に持っていますね。あなたは心が狭い人間だとSNSに書いておきます。しかし、今回のあなたはそのまま座っているだけで結構です】
そう言ったスリサズの目が微かに光ると、俺の耳に雑音混じりの声が入ってきた。
『あなたは奥様とうまくいっていませんね。今夜もあなたがここに来ているのをいいことに他の男の所へ出かけています』
――? これはフィノの声だ。
奇妙なことに、騒がしい酒場内で離れた席にいるはずの彼女の声がはっきりと聞こえてくる。
『かぁ~~っ! やっぱりそうだったか! あのアマ帰ったらただじゃおかねえ!』
これはフィノの向かい側に座っている、占い相手の男の声。
やはり離れた場所にも関わらず、はっきりと聞こえてきた。
「今度はなにをした?」
【彼女がいる地点の音声のみを増幅し、スピーカーであなたに聞かせています。この建物の規模であれば、どの場所でも盗聴範囲内です】
なるほど、今度ばかりは本当に役に立ったらしい。
ポンコツのくせに、たまに凄い機能を発揮するのがこいつの困ったところだ。
「他のテーブルの会話も聞けるのか?」
【盗聴範囲を変更します】
そうして俺は、ざわざわと騒がしい酒場内の会話を次々と聞き取っていった。
『ガッハッハ! 今回の仕事も大儲けだな』
『ああ、ちまちま小魚を獲ってたのが馬鹿らしくなるぜ』
ただの世間話だな、次。
『おい! 外に出るまで我慢しろよ!』
『うう……も、もう駄目だ! お、オゲェェェッ!』
……嫌な音を聞いてしまった。次。
『ラッキーアイテムは武装船の鍵と出ていますね』
『う~む、それはさすがに手に入らねえなあ』
これはフィノの声だ。また占ってるのか。
それにしてもその助言はストレートすぎるぞ。
「……なかなかいい情報が集まらんな」
しばらくあちこちの声を拾って回ったが、有益な話は聞けなかった。
酒場の中を見回しても船長らしき男は見当たらない。
しかし、それからしばらく経った後、一つのテーブルから気になる会話が聞こえてきた。
『船に積んであったバカでかい壺はどこ行ったんだ?』
『ここに持ってきてるらしいぜ。なんでも密輸品の中じゃすげえ価値があるってんで、二階で秘密の商談中だってよ』
『ああ、だから船長がいねえのか』
二階だと?
辺りを良く見ると、キッチンの奥に隠れるように上り階段が設置されていた。
「スリサズ、上の音は拾えるのか?」
【問題ありません】
少し間を置き、スリサズから低い声で会話が聞こえてきた。
密談だからか他よりも声が小さいような気がする。
『駄目だ。即金で10000ゴールド。嫌なら他の商人に売る』
『ポルトさん、それはちょっと欲張りすぎだよ。捕まえるのに苦労したのは分かるが私以外じゃ買い手がつかないと思うよ』
ずいぶんと高額な取引のようだ。
「捕まえる」? ということは密輸品は動物かなにかだろうか。
『兄弟、ここは俺たちの縄張りだ。あんたも五体満足で帰りてえだろ?』
『わ、私を脅す気か?』
『いや、心配してるんだ。俺も止めちゃあいるが、目が眩んだ部下共が手を出さないって保証はできねえ』
『わ、分かった。10000ゴールドだな。だが金を払う前に本当にブツがあるのか見せてくれないか』
『お安い御用さ。この壺の中に……あれ? いねえ! どこへ行きやがった!』
『おいおい困るな。いくらなんでも商品が無いんじゃ話にならん。悪いが帰らせてもら……ガフッ……』
『こ、こいつ! どうやって抜け出しやがっ…………』
そこで会話が不自然に途切れ、部屋の家具がいくつか壊れる音がした。
酒場の中でそれに気づいたのは、スリサズの力で盗み聞きしていた俺だけのようだった。
「すまない戦士殿、お待たせしている。船員は口が堅くてなかなか船長の居場所が分からないんだ」
いつの間にかフィノがさりげなくカウンターに近づき、俺に話しかける。
「それはもう見つけたが……なにかおかしいぞ」
【私の予測では彼らの『密輸品』はとても狂暴な物のようです。安全を考えるなら接近しないことをおすすめします】
俺は三杯目の酒を飲み干し、マスターに座った目を向けてお代わりを催促する。
「おいおいお客さん。ちょっとペースが速すぎじゃないか?」
「大丈夫だよ。いつもこんなもんだ」
【血中アルコール濃度にはそれほど変化はありません】
もちろんこれは演技だ。俺も敵地に潜入している時に酔っぱらうほど馬鹿じゃない。
長年生きてれば少量の酒でも飲んだくれているように見せるコツってのを覚えるものだ。
【三杯とも全て一滴残らず飲み干されています。健康的、年齢的観点からこれ以上の飲酒は控えてください】
「……年齢的は余計だ」
まったくこいつがいるとコッソリ酒も飲めやしない。
だがこれぐらい酔ったふりをしておけば警戒もされないだろう。
「フィノはどの辺にいる?」
カウンターに座ったまま、小声で上着のポケットに入れたスリサズに話しかける。
【左斜め後ろ、奥から三列目のテーブルでカードを広げています。変装のせいか、客に占いをしろとせがまれたようです】
「そうやって情報を集めてるのかもな」
俺も客に上手く溶け込めたことだし、船長や船の鍵を探しに出るべきなのかもしれないが、酔っ払いが船長の居場所を聞いて回るというのもおかしな話だ。
そもそも前線に立って剣を振るばかりだった俺にとって、こういう隠密めいた作戦は不得手だった。
【それでは私の指向性集音マイクを使用しましょう】
「また俺になにかさせようってんなら、断る」
【合言葉の件を根に持っていますね。あなたは心が狭い人間だとSNSに書いておきます。しかし、今回のあなたはそのまま座っているだけで結構です】
そう言ったスリサズの目が微かに光ると、俺の耳に雑音混じりの声が入ってきた。
『あなたは奥様とうまくいっていませんね。今夜もあなたがここに来ているのをいいことに他の男の所へ出かけています』
――? これはフィノの声だ。
奇妙なことに、騒がしい酒場内で離れた席にいるはずの彼女の声がはっきりと聞こえてくる。
『かぁ~~っ! やっぱりそうだったか! あのアマ帰ったらただじゃおかねえ!』
これはフィノの向かい側に座っている、占い相手の男の声。
やはり離れた場所にも関わらず、はっきりと聞こえてきた。
「今度はなにをした?」
【彼女がいる地点の音声のみを増幅し、スピーカーであなたに聞かせています。この建物の規模であれば、どの場所でも盗聴範囲内です】
なるほど、今度ばかりは本当に役に立ったらしい。
ポンコツのくせに、たまに凄い機能を発揮するのがこいつの困ったところだ。
「他のテーブルの会話も聞けるのか?」
【盗聴範囲を変更します】
そうして俺は、ざわざわと騒がしい酒場内の会話を次々と聞き取っていった。
『ガッハッハ! 今回の仕事も大儲けだな』
『ああ、ちまちま小魚を獲ってたのが馬鹿らしくなるぜ』
ただの世間話だな、次。
『おい! 外に出るまで我慢しろよ!』
『うう……も、もう駄目だ! お、オゲェェェッ!』
……嫌な音を聞いてしまった。次。
『ラッキーアイテムは武装船の鍵と出ていますね』
『う~む、それはさすがに手に入らねえなあ』
これはフィノの声だ。また占ってるのか。
それにしてもその助言はストレートすぎるぞ。
「……なかなかいい情報が集まらんな」
しばらくあちこちの声を拾って回ったが、有益な話は聞けなかった。
酒場の中を見回しても船長らしき男は見当たらない。
しかし、それからしばらく経った後、一つのテーブルから気になる会話が聞こえてきた。
『船に積んであったバカでかい壺はどこ行ったんだ?』
『ここに持ってきてるらしいぜ。なんでも密輸品の中じゃすげえ価値があるってんで、二階で秘密の商談中だってよ』
『ああ、だから船長がいねえのか』
二階だと?
辺りを良く見ると、キッチンの奥に隠れるように上り階段が設置されていた。
「スリサズ、上の音は拾えるのか?」
【問題ありません】
少し間を置き、スリサズから低い声で会話が聞こえてきた。
密談だからか他よりも声が小さいような気がする。
『駄目だ。即金で10000ゴールド。嫌なら他の商人に売る』
『ポルトさん、それはちょっと欲張りすぎだよ。捕まえるのに苦労したのは分かるが私以外じゃ買い手がつかないと思うよ』
ずいぶんと高額な取引のようだ。
「捕まえる」? ということは密輸品は動物かなにかだろうか。
『兄弟、ここは俺たちの縄張りだ。あんたも五体満足で帰りてえだろ?』
『わ、私を脅す気か?』
『いや、心配してるんだ。俺も止めちゃあいるが、目が眩んだ部下共が手を出さないって保証はできねえ』
『わ、分かった。10000ゴールドだな。だが金を払う前に本当にブツがあるのか見せてくれないか』
『お安い御用さ。この壺の中に……あれ? いねえ! どこへ行きやがった!』
『おいおい困るな。いくらなんでも商品が無いんじゃ話にならん。悪いが帰らせてもら……ガフッ……』
『こ、こいつ! どうやって抜け出しやがっ…………』
そこで会話が不自然に途切れ、部屋の家具がいくつか壊れる音がした。
酒場の中でそれに気づいたのは、スリサズの力で盗み聞きしていた俺だけのようだった。
「すまない戦士殿、お待たせしている。船員は口が堅くてなかなか船長の居場所が分からないんだ」
いつの間にかフィノがさりげなくカウンターに近づき、俺に話しかける。
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