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23 上陸
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「さあ、そろそろ魔大陸に到着だ。船を降りる準備をしてくれ」
霧がかった視界が晴れると、正面に岸辺が見えた。
何人かの鎧を着た男たちが、船を寄せるように手を振って合図している。
フィノは港と言うには小さな入り江に舵を切り、武装船を器用に接岸させる。
「先ほども言ったように、ドラゴンと機械のモンスターは人目に付かないようにしてくれ。騒ぎは起こしたくないからな」
「スリサズはどうとでもなるとして……マルは大丈夫か?」
マルは全身を覆う外套に、フードを目深に被せた程度の格好だ。そもそも変装と呼べるほどのものでもない。
「今までも大丈夫だったのだ。問題なかろう。いざとなったら我の電撃で人間の一人や二人……」
「やめろ。攻撃したら弁明の機会もなくなる」
「なーに、少しの間我慢してもらうだけさ。私が説明すればすぐに大手を振って歩けるようになる。私は前線基地では全幅の信頼を置かれているからね」
フィノは自信満々な態度でハシゴを下ろし、船を降りながら出迎えた兵士たちに手を振ってみせた。
◆
「……で? どういうことだ? これは」
「ここからだ~せ~ッ!!」
マルが建てつけの悪い鉄格子を両手で掴み、ガタガタと揺らしている。
俺とマルは上陸して早々、牢屋にぶち込まれていた。
「すまない。私が魔大陸を離れている間に指揮系統が変更されたようだ。以前の私の上司だった指揮官が戦死したらしい。新しく指揮官になった男とはあまり仲が良くなくてな。おかげで私の権限は大幅に縮小されてしまっていた」
フィノが鉄格子の向こうで頭を下げる。
どうも無駄に自信に溢れた言動をする奴は人種を問わず信用してはいけないらしい。
陸に上がってすぐのこと、鎧を着た数人の兵士が俺たちを取り囲んだ。
なんでも新しく連れて来られた冒険者には身体検査を行うとのことだった。
これもフィノのいない内に決められたことらしい。
突然のことに俺たちはなんの対応もできず、フードを取り払われたマルの角や鱗があらわとなり、たちまち場は騒然となった。
フィノはなんとか説明しようとしていたが、マルが取り押さえようとしてきた二名の兵士を電撃で気絶させてしまったため、危惧していた通りあえなくお縄につくことになった。
「お前が余計なことするからだぞ」
「腕を掴まれてびっくりしたんだから仕方あるまい」
「びっくりでいちいち人を攻撃するな」
【この短期間に二回も投獄されたとなると、更正の余地無しと判断されます。社会復帰は絶望的と言えるでしょう】
「ふふん、我はまだ一回目だぞ」
「張り合うところじゃない」
まったく疲れる連中である。
俺は壁にもたれかかり、深くため息をついた。
「私も誤解を解かなくては立場が危うい。魔物を我が陣地に呼び込んだ間者だという噂も流れているぐらいだからな。あなたたちを出してくれるよう上官に掛け合ってみるが、できなかった場合は……」
「場合は?」
「………………いや、まあ大丈夫だろう。うん、大丈夫、大丈夫だから。きっと大丈夫だ問題ない」
「言った分だけ不安になるからやめろ」
【その単語は繰り返すほど信憑性を失うことが科学的に証明されていますが、なぜか繰り返してしまうのが人間の心理のようです】
回数を追うごとに声が小さくなっていく「大丈夫」を連呼しながら、フィノは自信なさげな足取りでフェードアウトしていった。
……あれはあてにできんな。
「おい、この前みたいに脱走できんのか?」
マルも同じ感想を持ったのか、青ざめた顔で俺に尋ねてくる。
「スリサズ、どうだ?」
【現状では不可能です。前回は近くに看守がいたので鍵を奪うことができましたが、現在は見張りもおらず、周囲に利用できそうな地形もありません】
「確かにな」
俺たちは現在、動物を入れるような檻の中で野ざらしの状態で放置されている。
見張りを置けるほど人員の余裕がないのか周りには誰もいなかったが、その代わりに軍の前線基地であるキャンプからも離れていて助けを呼ぶこともできない。
「脱走できたとしても、ますます誤解を広げるだけだ。不安だがここはフィノの戻りを待つ」
そう言うと俺は地面に寝転がり、軽く目を閉じた。できることがない以上、休める時に休んでおくのも大事だ。
旅の疲労も重なり、俺の意識はすぐに闇に落ちていっ――――
◆
「ジョン! おい、起きろ!」
――うるさいな、今度はなんだ。
マルの耳元で怒鳴る声を聞き、意識が引き戻される。
俺は寝起きの気分の悪さに任せ、マルを睨みつけた。
「お前なあ……少しは起こし方ってもんを――」
【おや、起きてしまいましたか。反応がないので電気ショックによる心肺蘇生を提案していたところでしたが】
「よく普通に起こしてくれたな」
いつの間にか命の危機があったらしい。
こいつらと一緒だとゆっくり寝ることもできないのか。
「それで、なにがあった?」
「あ、あれを見てみろ」
マルがやや震えながら指さした方向を見ると、なにか緑色の物体が鉄格子の向こうに落ちている。
「……腕、か?」
人間のものではない。色や大きさから推測するとゴブリンの腕のようだった。
【この近くで小規模な戦闘が発生しているようです。これはなにかの衝撃で腕が千切れ、ここまで飛んで来たのでしょう】
耳をすますと、確かに遠方からは人や獣の騒がしい声や金属のぶつかり合う音が聞こえてきていた。
そして、ゴーレムと闘った時に聞いたことのある異音――銃声という物だったか――もその中に混じっていた。今回はさらに音が連続しているもの、単発だが音が大きいものなど、バリエーション豊かに聞こえてくる。
「あれはなにを握っておるのだ?」
目の前にあるゴブリンの腕には、なにか奇妙な杖のような物が握られていた。
先端が二つの丸い筒になっており、握りの部分が湾曲している。
【形状から推測すると、これはショットガンと思われます】
「またお前の世界の鉄魔法か」
【そのような頭の悪い呼称は推奨できません】
霧がかった視界が晴れると、正面に岸辺が見えた。
何人かの鎧を着た男たちが、船を寄せるように手を振って合図している。
フィノは港と言うには小さな入り江に舵を切り、武装船を器用に接岸させる。
「先ほども言ったように、ドラゴンと機械のモンスターは人目に付かないようにしてくれ。騒ぎは起こしたくないからな」
「スリサズはどうとでもなるとして……マルは大丈夫か?」
マルは全身を覆う外套に、フードを目深に被せた程度の格好だ。そもそも変装と呼べるほどのものでもない。
「今までも大丈夫だったのだ。問題なかろう。いざとなったら我の電撃で人間の一人や二人……」
「やめろ。攻撃したら弁明の機会もなくなる」
「なーに、少しの間我慢してもらうだけさ。私が説明すればすぐに大手を振って歩けるようになる。私は前線基地では全幅の信頼を置かれているからね」
フィノは自信満々な態度でハシゴを下ろし、船を降りながら出迎えた兵士たちに手を振ってみせた。
◆
「……で? どういうことだ? これは」
「ここからだ~せ~ッ!!」
マルが建てつけの悪い鉄格子を両手で掴み、ガタガタと揺らしている。
俺とマルは上陸して早々、牢屋にぶち込まれていた。
「すまない。私が魔大陸を離れている間に指揮系統が変更されたようだ。以前の私の上司だった指揮官が戦死したらしい。新しく指揮官になった男とはあまり仲が良くなくてな。おかげで私の権限は大幅に縮小されてしまっていた」
フィノが鉄格子の向こうで頭を下げる。
どうも無駄に自信に溢れた言動をする奴は人種を問わず信用してはいけないらしい。
陸に上がってすぐのこと、鎧を着た数人の兵士が俺たちを取り囲んだ。
なんでも新しく連れて来られた冒険者には身体検査を行うとのことだった。
これもフィノのいない内に決められたことらしい。
突然のことに俺たちはなんの対応もできず、フードを取り払われたマルの角や鱗があらわとなり、たちまち場は騒然となった。
フィノはなんとか説明しようとしていたが、マルが取り押さえようとしてきた二名の兵士を電撃で気絶させてしまったため、危惧していた通りあえなくお縄につくことになった。
「お前が余計なことするからだぞ」
「腕を掴まれてびっくりしたんだから仕方あるまい」
「びっくりでいちいち人を攻撃するな」
【この短期間に二回も投獄されたとなると、更正の余地無しと判断されます。社会復帰は絶望的と言えるでしょう】
「ふふん、我はまだ一回目だぞ」
「張り合うところじゃない」
まったく疲れる連中である。
俺は壁にもたれかかり、深くため息をついた。
「私も誤解を解かなくては立場が危うい。魔物を我が陣地に呼び込んだ間者だという噂も流れているぐらいだからな。あなたたちを出してくれるよう上官に掛け合ってみるが、できなかった場合は……」
「場合は?」
「………………いや、まあ大丈夫だろう。うん、大丈夫、大丈夫だから。きっと大丈夫だ問題ない」
「言った分だけ不安になるからやめろ」
【その単語は繰り返すほど信憑性を失うことが科学的に証明されていますが、なぜか繰り返してしまうのが人間の心理のようです】
回数を追うごとに声が小さくなっていく「大丈夫」を連呼しながら、フィノは自信なさげな足取りでフェードアウトしていった。
……あれはあてにできんな。
「おい、この前みたいに脱走できんのか?」
マルも同じ感想を持ったのか、青ざめた顔で俺に尋ねてくる。
「スリサズ、どうだ?」
【現状では不可能です。前回は近くに看守がいたので鍵を奪うことができましたが、現在は見張りもおらず、周囲に利用できそうな地形もありません】
「確かにな」
俺たちは現在、動物を入れるような檻の中で野ざらしの状態で放置されている。
見張りを置けるほど人員の余裕がないのか周りには誰もいなかったが、その代わりに軍の前線基地であるキャンプからも離れていて助けを呼ぶこともできない。
「脱走できたとしても、ますます誤解を広げるだけだ。不安だがここはフィノの戻りを待つ」
そう言うと俺は地面に寝転がり、軽く目を閉じた。できることがない以上、休める時に休んでおくのも大事だ。
旅の疲労も重なり、俺の意識はすぐに闇に落ちていっ――――
◆
「ジョン! おい、起きろ!」
――うるさいな、今度はなんだ。
マルの耳元で怒鳴る声を聞き、意識が引き戻される。
俺は寝起きの気分の悪さに任せ、マルを睨みつけた。
「お前なあ……少しは起こし方ってもんを――」
【おや、起きてしまいましたか。反応がないので電気ショックによる心肺蘇生を提案していたところでしたが】
「よく普通に起こしてくれたな」
いつの間にか命の危機があったらしい。
こいつらと一緒だとゆっくり寝ることもできないのか。
「それで、なにがあった?」
「あ、あれを見てみろ」
マルがやや震えながら指さした方向を見ると、なにか緑色の物体が鉄格子の向こうに落ちている。
「……腕、か?」
人間のものではない。色や大きさから推測するとゴブリンの腕のようだった。
【この近くで小規模な戦闘が発生しているようです。これはなにかの衝撃で腕が千切れ、ここまで飛んで来たのでしょう】
耳をすますと、確かに遠方からは人や獣の騒がしい声や金属のぶつかり合う音が聞こえてきていた。
そして、ゴーレムと闘った時に聞いたことのある異音――銃声という物だったか――もその中に混じっていた。今回はさらに音が連続しているもの、単発だが音が大きいものなど、バリエーション豊かに聞こえてくる。
「あれはなにを握っておるのだ?」
目の前にあるゴブリンの腕には、なにか奇妙な杖のような物が握られていた。
先端が二つの丸い筒になっており、握りの部分が湾曲している。
【形状から推測すると、これはショットガンと思われます】
「またお前の世界の鉄魔法か」
【そのような頭の悪い呼称は推奨できません】
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